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また間が開いてしまいましたが、不思議な千鶴ちゃん15をお届けです。
やっと書きたかった新八っつぁん話が書けました(苦笑)
彼らしい優しさをちょこっと出したかったんですが、どうも最後の良いとこは土方さんが持っていったかな?

そんな小説は右下からどうぞ。


 

 


「…で?」

 昼餉の膳を前にした広間で土方から呆れた様な声が発せられた。

「仕方ないでしょ。負けたまま逃げるなんて新選組幹部として恥ずかしいし」

 しれっと沖田はそう言って千鶴を見た。

「意外や意外、この子かなり強いんですって」
「おきたしゃんもおじょおじゅでちたよ」
「でも結局君には一度も勝てなかった。これはかなり悔しいよ」
「わたちはちっちゃいときかやちてまちかたや。いえにょなかでひといでできゆあしょびっちぇしゅくにゃかったんでしゅ」

 千鶴は幼い頃、父である鋼道が留守にしている間は一人で家の中で遊んでいた。
 おはじきにお手玉、あやとり等をやってみても結局はどれも毎日一人ではつまらない。
 直ぐに厭きてしまう。
 でも一人ぼっちの寂しさを紛らわせるにはつまらなくともそれらで遊ぶ他はなかったのだ。

「ひといでしゅゆよりもじゅっとたのちかったでしゅ」

 屈託のない笑顔で笑う千鶴に、呆れていた土方も小さく溜め息を吐いて苦笑した。

「全く、総司はともかくあんたや斎藤まで夢中になるたぁな」

 そう言って隣りの近藤を見やれば近藤が頬をかいて照れた様に笑った。

「いやぁ、すまんすまん。最初は女子の遊びと高を括っておったのだが、おはじきとは奥が深い」
「そんな楽しい事やってたんだ。なんだよ、呼んでくれればいいのにさ」
「だな。そんな事になってんのなら俺も近藤さんのところに一緒に行きゃよかったぜ」
「皆もやってみたらいいんですよ、…ねぇ一君?」
「昼からは俺も時間がある故混ぜてもらっても良いか?」

 沖田の呼びかけには同意せず昨日同様、自分と沖田の間に座る千鶴を見下ろしてそういう。

「いっしょにあしょんでくやしゃゆんでしゅか!」
「俺はああいった遊びをした事が無い故、興味がある」
「うえちいでしゅ」
「あ、もちろん僕もやるからね」

 反対側の沖田もそう言って千鶴の頭の上に手をポンと置いた。

「おふちゃいちょもいちゅもはなにやっちぇもかないましぇんけど、こえばかいはしょうしょうかたしぇましぇんかやね」
「絶対勝つよ」
「やるからには全力でやって、勝たせてもらう」
「ちんしぇんぐみのみなしゃんはまけじゅぎやいでしゅねぇ。でしゅがわたちもこおみえちぇまけじゅぎやいなんでしゅかや」
「はっはっはっ。俺は昼からは参加できんが総司、斎藤君、千鶴君にしっかり遊んでもらえ」
「ええ、そのつもりです」

 楽しそうにそう言う沖田に、静かに頷く斎藤。
 ふふっと千鶴が嬉しそうに笑えば周りの男達の表情も自然と柔らかくなった。
 そんな様子をそれまで黙って見ていた男が声を発する。

「話が纏まったんならよ、そろそろ飯始めようや」

 腹を押さえてそう言ったのは永倉だ。

「おお、そうだな。では諸君、しっかり食べて昼からも頑張ってくれ」
「おう!頂きますっ!!」

 いつもの状況であるその様子に皆が手を合わせて食事を始める中、一人だけ首を傾げる者がいた。
 沖田だ。

「わぁ、かやいい~」

 そんな姿には気が付かない隣りの千鶴は昼餉の膳に目を奪われている。
 自分の前に置かれた他の者達とは異なる飾り切りで華やかになった食事。

「島原などで見た物を再現できる限りやってみた。味は…自己流だが、味見はしている」
「しゃいとおしゃん!しゅごいでしゅ。…あ」

 綺麗な膳を見ながらその手前に目をやると、そこには今朝まで無かった子供用の箸が並んでいた。

「こえ…」

 そっとその箸を持ち上げて斎藤を見上げれば、斎藤がゆっくりと頷いた。

『子供用のお箸買って来てあげるよ』

 昨日の晩、お箸が持ち難いと言った千鶴にそう言っていたのは沖田だった。
 忘れる事なくそれを買ってきてくれた沖田に千鶴はお礼を言うべく、満面の笑顔を向けて見上げた。
 ……のだが、沖田の視線はこちらには向いておらず、自分の正面近くで食事をいつも通りに豪快に取っている永倉に向けている。

「おきたしゃん?」
「………ねぇ新八さん」

 千鶴の呼びかけとほぼ同時に沖田が永倉に呼びかける。

「ん?どうしたよ、総司」

 その呼びかけに箸を止め、永倉がこちらに顔を向けた。

「何となく気になるんですよね」
「何となくって何だよ?」
「…新八さん」

 沖田は一瞬、ちらりと千鶴を見下ろしたが直ぐに視線は永倉に戻し気になっていた事を口にした。

「千鶴ちゃんのこと、何気に避けてますよね」
「ふぇ?」

 突然の事に千鶴も驚く。

「そりゃあ?全員が全員ってわけでもないけど。幹部は何かしら千鶴ちゃんを構ってる中で、新八さんだけはなんか違うでしょ?」
「…お、俺はいつも通りだろうが!」
「今朝もそう。境内で鈴が鳴って可愛くはしゃいでた千鶴ちゃんを前に、腰をおろしてはいたけど抱き上げたり頭を撫でてやったりもしなかったし」
「そ、それが何だよ。折角お前が結ってやった頭を撫でんのも、崩しちゃ可哀想だと思ってだな」

 そういやそうだったな、と原田も箸を止め隣りの永倉を見る。

「新八、お前昼から総司の剣術指南役を代わってやったそうじゃねぇか」
「うえぇぇっ!?新八っつぁんが??」
「お、おお。んだよ左之まで。つか喧しいぞ平助っ!」
「だって新八っつぁんだろ?あり得ねぇっつーの!何、総司に酒で釣られたの?」
「…俺もてっきり酒にでも釣られたのかって思ってたんだけどよ」

 藤堂や原田と同じ事を考えていた土方も、

「おい新八、お前何かやましい事でもあるんじゃねぇだろうな」

 そう言って箸を休める。

「僕お酒で釣ってなんかいませんよ。言ったでしょ快く代わってくれたって。それも不自然だったんだよね」

 広間に居た全員の視線が永倉に向けられる。
 
「別にやましい事なんざこれっぽっちもねぇってっ!つか、何だよその疑いの眼差しはっっ!?」

 疑われている張本人はぶんぶんと首を横に振り力一杯全否定をしているが。

「ながくやしゃん…」

 悲しそうな声と共に今にも涙が堪りそうな小さく純粋な瞳に見詰められ、

「ーーーーーっっ…あ~~~~っっ違うんだって!」

 ガシガシと頭を掻いた永倉はバツが悪そうに視線を千鶴から逸らす。

「だからよ…ちぃせぇだろ」

 ボソッと言った言葉に全員が呆気に取られる。

「……し、新八?」
「左之はよ、元から女子供の扱いは上手いじゃねぇか」
「は?」
「総司だってそうだ。子供の守役任せたら新選組一だろ」
「…新八さん?」
「土方さんや斎藤だって気遣いはうめぇし…平助は同年齢っぽいだろ」
「ちょっと待てよ新八っつぁんっっ!」

 聞き捨てならねぇっと食って掛かる平助を軽くあしらいながら、永倉は溜め息を吐いて千鶴の方に視線を戻した。

「俺みてぇな筋肉だらけのがさつな男が触ったらよ、壊しちまいそうで…こぇんだよ」

 何だかあまりにもらしい永倉の答えに一同なんともいえない表情で永倉を見やる。

「ちいせぇからよ、ちょっとでも力の入れ方間違えたら怪我させんじゃねぇかとか…色々考えてたら、な…」
「…ながくやしゃん」
「だからよ、別に千鶴ちゃんを避けてたっつーかその…嫌ったりとかしてたわけじゃねぇんだ」

 永倉の優しさから来るその答えに千鶴は笑顔で尋ねた。

「ながくやしゃんはおひゆのあちょしゅぐにちなんにいかえゆんでしゅか?」
「直ぐじゃねぇけど、何だ?千鶴ちゃん」
「じぇひながくやしゃんもいっちょにおはじきちてくやしゃい」
「お、俺も!?」
「いっかいでもいいんでしゅ。いっちょにあしょんでくやしゃったやしゅごくうえちいでしゅ」
「そうか?」
「あい!」
「千鶴ちゃんは今日は我侭言っても良い日なんだそうですよ。しかもそれ土方さんが言い出しっぺ」
「ああ、言った」

 沖田の言葉に土方は肯定の返事をし食事に戻る。

「だから、千鶴ちゃんのお願いは隊務に支障が出ない限り断っちゃいけないんです」
「え?しょ、しょこまえゆっちぇないでしゅよ!」
「え~、それで良いんでしょ土方さん?」
「だめでしゅよね」
「これと言ってでけぇ捕り物の予定もねぇし、総司が言うように隊務に支障が出ねぇ範囲で許可をくれてやる。だからそろそろ飯を食え」
「良かったね千鶴ちゃん」
「………はぁ」

 あまり納得できていない状況ではあったのだが、土方がそう言うのなら言葉に甘えた方が良いのだろうかと思っていると、

「問題は解決したな。ならば冷えてしまう前に食事を取れ千鶴」

 斎藤が食事の再開を勧めて来る。

「え、あ…あい、しゃいとおしゃん。いたやきましゅ…あ、おきたしゃん」
「ん?」
「おはち、あいがちょおごじゃいましゅ」
「うん。気に入った?」
「あい!もちやしゅいでしゅ」

 ほら、とお箸を持った手を沖田に見せて千鶴が笑う。

「ほんと、丁度良いみたいだ。でも折角丁度良いんだしもう暫くは使って欲しいよね」
「え?」
「ねぇもう少しそのままでいられないか、山南さんに聞いてみる?」
「お、おきたしゃんっっ!!やっ、やめちぇくやしゃいね!?」
「え~、どうしよっかなぁ」
「おきたしゃぁ~ん」

 小さな手で沖田の着物を引っ張り止めてくれと必死に抗議をする千鶴が可愛くて、

「総司」

 千鶴を挟んだ向こうの斉藤が、溜め息を吐いてそれを制するまで千鶴は沖田にからかわれ続けていた。

「一君だって、構い倒しじゃない」
「俺達の気持ちがどうであれ、千鶴は元に戻りたいのだからそれを尊重すべきだ」
「…君だって小さい千鶴ちゃん気に入ってるんじゃないの」
「別にそうは言っておらん」
「言ってますぅ」
「言っとらん」
「言ってるって」
「俺はっ」

 子供の様な喧嘩が始まり出したのを、千鶴が左右に忙しそうに首を動かしながら彼等の言葉を追いかける。

「総司っ!」
「何、一君」

 何だか刀を抜きそうなその勢いにとうとう千鶴が不安げな瞳で土方に助けを求めた。
 それに気が付いた土方が面倒臭そうに、

「総司いい加減にしろっ。斎藤も珍しくむきになってんじゃねぇよ」

 そう言って双方を止めてくれた。

「可愛いもんは可愛い、それでいいだろ。ったく、飯を食え飯を」

 さらりと言った土方の言葉に千鶴はぽかんと口を開け、当人を見る。

「んだよ、どうした」

 慌てて何でも無いと小さく首を横に振りながら、

(お…男の人って…良く分かんないです…)

 千鶴は昼餉の膳に端を進めた。

 

 

続く

 

 

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