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先ほど日付が変わってしまいましたが今夜は十五夜、中秋の名月です。
台風の影響で拝めないかなぁと思っていたんですが、雲の隙間から見ることができました。

和花で十五夜満月といえばこれかなぁと思いまして、急遽書いてみました。
多分後からちょこちょこ手直しするものと思われますが(汗)
『2』としてますが続き物ではないです。
書きたい時に書きたい時期の金色を書けたらいいなぁと思っているものなので。
ただ幸せな一家を書きたくて。

そんな物語ですが宜しければ右下からどうぞ~。

 

 


 西の空に燃える様な日が沈んで幾許か。
 見上げる空の色が刻々と変化していく様をじっと縁側に座ったまま眺めていた。
 背筋をしゃんと伸ばしその時を待つ。
 凛とした、張り詰めた様な雰囲気を纏ったその背中を見詰めていた人物が小さく息を吐く。

「千景」

 それはどこか呆れた様な音が混ざっているが、確かにその者の名を呼んだ。

「あのねぇ、そんなに待ってたってまだお月様は昇らないわよ。そんなことでイライラしないで」
『別にイライラなどしておらん』
「そう?さっきから尻尾がパタンパタン煩いのだけど」
『…?』
「千景ってイライラしてる時尻尾が忙しなく動いてるのよ、知らなかった?」  

 そう言われて彼は自分のお尻についている尻尾を見る為に振り返った。

『動いてなどおらんではないか、千歳』
「無意識に動かしているんでしょう?他の猫もそうなのかしら」
『俺は猫ではない』
「……………百人見ても百人皆が貴方が猫だと断言すると思うけど」
『………ふん』

 今年15歳になった雪村家の長女千歳は、鼻を鳴らしてそっぽを向いてしまった尊大な性格の人語を喋る猫の側にお皿や御猪口の載った盆を置いた。

『酒はまだか?』
「母様が今燗をつけているわ。肴ももう少ししたら出来るから」
「ま、どの道まだ呑めねぇだろ風間」

 よっと小さな掛け声と共にこの家の主である雪村歳三が金色の毛と赤い瞳を持つ猫、風間千景の近くに腰を下ろした。

『今宵は望月』
「しかも中秋の名月」
『酒を呑むには最高の夜だ』

 風間の尻尾がゆっくりと揺れる。

「千景の機嫌よくなったみたい」

 ふふっと笑って千歳はその場を離れ母である千鶴のいる勝手場へと戻っていった。

「おい風間、お前ぇ15の娘に笑われてるぞ」
『煩い。…千歳はもう15だったか』
「早ぇよなぁ」
『子の成長とは早いもの、そうは聞いていたが』
「何だかんだで、風間も家に居ついて10年か。お前、歳とらねぇな」
『貴様に言われたくはない』
「最近は白髪が目立ってきて歳取ったなぁってぇ思うが…。あれから、10…6…ん?17年か」

 夜空を見上げたまま目を閉じれば、あの日の季節外れの狂い咲きをしていた桜を思い出す。
 まだ鬼であった風間と最後に剣を交えたあの日の事を。

「千鶴の血とお前ぇがくれた鬼の名が俺の命を繋いだ…か。不思議な事だが、羅刹だった俺がこんなに長生き出来てるのがその証拠だな」
『貴様は既に羅刹ではない。鬼だ、新種のな』
「新種、ねぇ」
「15の時私は歳三さんと出会ったんですよ?正確には14の最後の日、ですけど」

 聞きなれた愛しい声に首だけで振り返れば、燗のついた徳利を載せた盆を手にした千鶴が優しく笑っている。
 千鶴はそそっと近付き、傍らに盆を置いた。

「千歳の年の頃に私は新選組の皆さんと出会ったんです」
『俺ともその歳であったろう?』
「ええ。池田屋の2階で」
「ああ、総司を蹴り飛ばしてくれたあの時な」
『弱かった彼奴が悪い』
「言ってくれるぜ」

 歳三はそう言いながら後ろ首を掻いた。
 新選組の副長として京の町を守っていた頃。
 まさか自分がこんな北の地で穏やかに暮らしているなど想像だにしなかった。
 まさか、自分たちの目的の為に新選組預かりとした少女を愛する事になろうとは。

「千鶴とも20年以上の付き合いだな」
「はい」

 娶り、所帯を持ち、子を授かり。

「まだまだこれからも一緒にいてぇな」
「当たり前です。言っておきますがそう簡単には近藤さん達に会わせませんから」
「おお、怖ぇなぁ」
「私、こう見えて独占欲強いんです。だから…まだ離しません…離れないんですからね」
「千鶴。ああ、当たりめぇだ」

 傍にいてくれ、そう言って手を伸ばしかけた時。

「母上」
「お団子の飾りつけできました!」

 団子を綺麗に積み重ねた御飾りと、芒を挿した花器をそれぞれ手に持った双子が縁側にやってくる。 

『こやつ等、貴様達の邪魔する機会を狙っているのではないか?』

 その存在を忘れかけられていた風間が皮肉を込めて言えば、

「千景じゃあるまいし。僕達そんな事しません」
「そろそろ月が昇ると思って急いで仕上げたんだ」

 同じ顔をしていながらも性格の違う二人。
 兄である誠は笑顔で否定し、弟の新は少し頬を膨らませてそう言い返した。

「今年の団子はお前らが作ったって?」
「母上と姉上に教えて頂きました」
「意外と丸めるの難しいし、着物は真っ白になるし。大変だったけど楽しかった」
「僕も」
「上手に出来てんじゃねぇか」

 父親に褒められ照れた顔を見せるのは双子同時。
 にこにこと笑いながら御飾りと花器を並べて縁側に置き、誠と新は歳三の隣に並び縁側から足を垂らした。

「誠も新もとても器用だもの、助かっちゃった」

 そう言って酒の肴を載せた盆を持ってきたのは千歳だ。

「あっ」

 立ったままの千歳が声を上げる。
 その視線の先には山の向こうから昇る月。
 少し待っていればその全貌が山の頂に現れ、優しい月明かりが山の麓にある一軒家にも光が届き始めた。

『やっと酒が呑める』
 
 そう言った風間が見事な望月の、その神秘的な月明かりを浴びながら頭をふるふると動かした。
 そうすれば次第に猫の輪郭が薄れ、大きくなっていく。
 雪村家の者達には見慣れた光景だ。
 大きくなった輪郭が人の姿を模り始め、猫の座っていた場所には一人の男が鎮座していた。

「見事な望月だ。なぁ風間」
「ふん。名月と呼ぶに相応しかろう。千鶴、酒だ」
「だから人の女房を使うな」
「相も変わらず煩わしい男だな雪村。ならばお前が酌をしろ、千歳」
「はいはい。母様は父上をお願いね」
「ええ、分かったわ」

 男達が手にした御猪口へ雪村家の女性二人が酒を注ぐ。
 溢れんばかりに酒が注がれたそれを何も言わずカチンとぶつける。

「もう数年経てばお前達も一緒に呑めるな」

 そう言って隣に並ぶ双子を見れば、ほぼ同時に頷いた。

「楽しみにしてて下さい」
「俺も誠も母上に似てるからお酒強いと思うよ」
「だろうな」
「鬼が多少の酒で酔うなど有り得ん」

 婚姻して分かった事だが、意外にも千鶴は酒に強かった。
 そして鬼としての生を繋いだ歳三も昔とは違いそう簡単には酔わなくなっていた。

「歳三さんは昔呑まなかっただけですもの、ね?」
「ちーづーる…」
「ふふっ」

 笑顔で酌をしてくれる妻を睨んでみても効果はないらしい。

「ったく」

 ふうと酒気の混じった息を吐き、正面に見える月を眺める。
 京にいた頃こうして月を見上げても幸せを噛締める事はなかった。 
 だが今は。
 視線を斜め後ろに向ければ愛する妻がいて、そこから少し視線を動かすだけで子供達、そして尊大な性格の居候がいる。

「変な組み合わせかもしれねぇが、幸せである事にゃ違いねぇよな」

 思わず零れた言葉に自身も笑みが浮かぶ。
 そして、

「ああ、旨ぇな」

 注がれた酒を、一息に飲み干した。

 

終わり

 
 

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