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【和花】 なごみばなと読んで頂けると嬉しいです。 乙女ゲーム系二次小説オンリーサイトです。
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お久しぶりです。
やっと更新できました。
風邪っぴきでダウンしておりました…。
皆様はお体大丈夫でしょうか?
大分回復しましたので今日は朝からパソコンの前にいます(笑)
拍手&コメントのお返事も追ってさせて頂きます。

今回も土千です。
何だろう…うちの土千って、いつもこんな雰囲気のような…。



小説は右下からどうぞ~。
 

 

 


「おっと」
「きゃっ…あっ」
「あ~…あ~らら」

 屯所の中。
 お互いに曲がり角に差し掛かったとき、それぞれがそれぞれの事に集中していたので、前方が疎かになっていた。

「ごめんね、千鶴ちゃん大丈夫?」
「はい、私は大丈夫です。沖田さんも大丈夫ですか?」
「僕は君とぶつかった位でどうかなる程やわじゃないよ」

 足元に広がるのは千鶴が持っていた洗濯物。
 かなりの量を持っていたので前方不注意になってしまった。
 そして沖田もこっそりと土方の部屋から出てきていたので、足音と気配を忍ばせ早足になっていた。

「ちょっと待っててね…っと」

 そういうと沖田は腰を屈め落ちた洗濯物を千鶴の持つ籠の上に乗せていく。

「って言うかさ、君」
「はい?」
「そんなに一気に運ぶ必要ないんじゃないの?」
「そうなんですけど…手間を省きたくて…でもすみません。その所為で沖田さんにぶつかってしまいましたね」

 ごめんなさい、と千鶴が頭を下げた。
 そんな千鶴を沖田が見下ろして苦笑する。

「やだな、謝らないでくれる?僕も悪かったんだし、ね?」
「えと」
「気配消してたんだよ」
「……?」
「理由は聞かないでね。じゃ僕急いでるから」
「はい。あ、あの!」
「ん、まだ何か?」
「拾ってくださってありがとうございました!」
「……ははっ、律儀だねぇ。でも嫌いじゃないよ、君の真っ直ぐなところ」

 背を向けた沖田が片手をひらひらとさせて、去って行く。
 足早に。

「気配を消してって…何かあったのかな?」

 疑問に思ったものの、自分には知る必要のない事なのかもしれないと気を取り直し、洗濯物が入った籠をよいしょと抱え直して、千鶴も目的の井戸へ向かった。

 

 千鶴と別れた後、土方の部屋から大分離れた場所で沖田は立ち止まる。

「持ち出すなっていう割には、いつも同じ場所に直す土方さんも大概おまぬけだよね~」

 そう言いながら得意顔で懐を探る。

「……あれ?」

 持って来た筈の戦利品がない。
 何度探っても、懐を叩いてもそれはない。

「…落とした、かな?」

 そう呟き、先程千鶴とぶつかった時の事を思い出す。

「あの時か」

 戻って聞いてみよう、とも思ったが。
 やっぱり面倒臭い。

「………ま、いっか」

 別に見られて僕が困る物でもないしね、と。
 無断で持ち出したにも拘らず、無責任にも探しに行く事を簡単に放棄してしまった。
 しかし持ち出しが発覚すれば土方の雷が落ちるのは必至。

「左之さんか新八さん誘って飲みに行くかなぁ。平助君はいたっけ?」

 朝から会津藩邸に近藤と共に参じている土方の帰りは昼前だと聞いている。
 つまりもうそろそろ屯所を離れておかないとうるさい事になるだろう。

「急ご~っと」

 その後、屯所内で最初に出くわした新八を『奢るから』と最強の誘い文句で釣り、玄関で合流した原田、平助らと沖田は昼間から島原へと消えていった。
 


 沖田達が屯所から姿を消した頃。
 千鶴は井戸の横で洗濯をしていた。
 昨夜、夜番だった隊士達の隊服や着物、袴など。
 籠の山の中には色々入っていた。
 しかも長州の者達と乱闘があったらしく、所々破け、血の跡もあった。

「ふぅ、乾いたら繕わないとなぁ」

 汚れが取れない物は、土方に言って処分せざるをえない。
 勝手に処分などしたら彼に怒鳴られるだけではすまないだろう。
 だんだらの、浅葱色の隊服は彼らの誇りでもあるし、盗んで悪用されるかも知れないという事も懸念しなければいけない。
 さて次の隊服をと、山の頂に手を伸ばしたとき、
 
  パサッ

 何かが、洗濯物の山の上から滑り落ちてきた。
 それは綺麗に綴じられた書物の様だ。
 落ちた拍子に中が開いて、細い字体が目に入ってきた。

「俳句?」

 思わずその中身を見てしまった。

「梅の花……壱輪咲いても梅はうめ?」

 開いた頁にはそう綴られている。
 どういう意味なんだろうと考えながら、前掛けで手を拭いてその書物を拾い上げた。
 女性の物の様な繊細で細い文字。
 白い紙に綴られているのは俳句の様だ。

「うぐひすやはたきの音もついやめる……ふふ、お掃除よりも鶯の声に惹かれたのかな?」

 思わず洗濯の事を忘れ、ペラリペラリと読み進めてしまう。
 そして最後の頁。

「梅の花咲る日だけにさいて散……何だろ、これはちょっと寂しい感じ…」

 パタンとそれを閉じて表紙を見る。 
 そこには『豊玉発句集』を書いてあった。

「と…とよ、たま?」
「ほうぎょくだ」

 突然背後に現れた気配と、掛けられた声の低さにびくんと身を竦める。

「お前、何でそれを持っている」

 明らかに怒っている声音でそう言ったのはたった今帰っばかりの土方だった。
 半ば奪い取るように千鶴の手の中から発句集を取り上げた。

「人の部屋に勝手に入り込んだのか!」
「い…いいえ!そんな事しませんっ」

 慌てて振返り土方を見上げた千鶴は、ぶんぶんと顔を横に振った。

「なら、何でてめぇがこれを持ってんだっ!」
「あ…あの、洗濯物の中に紛れてて…」
「洗濯物だぁ?んでそんなとこに入ってんだよっ」
「わっ分かりません」

 千鶴にとっては意味が分からない。
 洗濯物の中に紛れていたらしい発句集はどうやら土方のもののようだ。
 それが何故そこにあったかなど、分からない。
 しかし土方はかなり御立腹のようで、殺気さえも感じる。

(怖い……どうしよう…)

 自分が持ってきた物ではないにしろ、不可抗力でそれが開いてしまったにしろ、その後中を読んでしまったのは自分の責任だ。

「ご…ごめんなさいっ!」
「あん?」

 勢いよく頭を下げる千鶴に、土方も怪訝な眼差しを向ける。

「もっ…持ってきたのは私ではありません…けど……人様の大切な物を勝手に見てしまったのは私です……どんな罰でも受けます…だから」


 ここから出て行けなんて言わないで欲しい…。
 最初は確かに逃げ出したいとも思ったけど、実行しかけた事もあったけど。
 今はここが私にとっても掛け替えのない場所になっている。
 何れ、出て行かなくてはいけないとしても、今はまだその時ではないと思いたい。


「おいこら千鶴」

 小さな身体を震わせて頭を下げる彼女に、流石の土方も溜め息を吐いた。

「千鶴」
「は、はい」
「…………悪かったよ」
「ふぇ?」

 まさかの土方からの謝罪に変な声が出てしまい、慌てて口元を指先で覆う。

「ふっ、んだよふぇって」
「……驚いてしまいまして…」

 そして今も驚いています、貴方の笑顔にとは言えない。
 自然と、頬が熱くなってくるのがわかる。
 綺麗な人が笑うとさらに綺麗になる。
 自然と見惚れてしまうその顔の持ち主は、悪戯がばれた子供の様な、罰の悪そうな顔で千鶴から視線を逸らしていた。
 
「ちゃんと」
「は…はい」

 珍しくコロコロと変わる土方の表情に驚くしか出来ない千鶴は、話し出した彼に慌てて返事をする。

「ちゃんと考えりゃあな、お前が人の部屋から無断で何かを持ち出すなんざしねぇって分かってんだよな」
「あ…」
「疑って悪かったって意味だ。大方総司辺りが持ち出したんだろ、つかそれしか考えらんねぇな」

 総司と会わなかったか?と尋ねられ、先程ぶつかって洗濯物を拾ってもらいましたと正直に答えた。

「そん時に紛れでもしたんだろ」
「あの…」
「総司はその辺にはいなかったな。ってことはもう逃げた後だろ…ったく。で、だ千鶴」
「はい」
「…………………中、見たんだな」
「す…すみません」
「いいか、綺麗さっぱり全て洗い流して忘れろ。そして二度と思い出すな、二度とこれを開くな」
「………」

 あまりにも必死な土方に、少し残念そうに千鶴が首を傾げる。

「全て、ですか?」
「そうだこれは」

 副長命令だと続けかけて、

「素敵だなって思ったものも、ですか?」

 千鶴の言葉に土方が口を閉ざした。

「…………………は?」
「ひ…土方さん?」
「す…すてきだぁ?」
「はい!」

 土方の俳句は自他共に認めるほどの腕前で、それは決して良く評価されるものではなく。
 趣味でやってんだからいいじゃねぇかと言うしかない。


 分かってんだよ。
 自分でも上手くないと…分かっちゃいるが趣味なんだほっとけ。


 そんな心情の彼に千鶴から出た言葉は『素敵』ときた。
 思わずぽかんと口を開けたまま土方は固まってしまった。
 貶され慣れてはいても、褒められた事は一度もない彼は返す言葉がない。
 
「ち、ちなみに、だ。どれが…?」
「梅の花壱輪咲いても梅はうめ…でしたっけ。一度しか拝見していませんので間違っていたらすみません」

 千鶴が口にしたものは沖田が特にからかう材料にしてくるやつだ。
 そういや斎藤にも疑問を投げかけられたのもこれだった。

「梅は壱輪咲こうが弐輪咲こうが梅は梅だ…って思わねぇのか?」

 土方の言葉に千鶴はきょとんとする。

「そういう意味なんですか?」
「お前はそう思わなかったのか?」
「え?」
「否…その、なんだ」
「土方さん?」

 ゴホンとわざとらしく咳払いをして、土方は千鶴を見下ろした。
 心なしか顔が赤くなっている。

「千鶴は、どう解釈した?」
「私は…満開に咲き誇る梅の木の中で、一枝だけ壱輪しか咲いてなくて…咲いて良かったのかなと思う花に、たった壱輪でもお前は梅の花なんだから胸を張れって言っているのかな、と」

 男所帯の新選組にたった一人不釣合いな男装の町娘。
 剣客集団の中に刀を振るう勇気もない子供。
 人の中にいて人とは違う体質を持つ自分。

 それでも…

「お前はお前なんだから、大丈夫だよって言ってもらえてる気がして…」

 千鶴は胸の前で両の手を握り思いを馳せるように目を閉じる。
 
「すっと胸に、心に沁み込みました」
「馬鹿が」
「え?」

 千鶴が目を開くよりも早く、土方の大きな掌が彼女の頭をわしわしと撫でていた。

「んなもんに自分を重ねてんえじゃねぇよ」
「…はい」
「良いか、お前は雪村千鶴だ。お前はお前なんだ、自信を持て。梅は散るがお前は散らねえだろうが」
「土方さん…」
「つか、まだ咲いてもいねぇな。千鶴はまだ蕾だ。だが、少し綻び掛けている、蕾だ」
「つぼみ」
「お前は綺麗な花を咲かせるだろうよ…誰もが目を奪われる様な、な」

 これには参った。
 土方がこんな事を言うなんて予想だにしていなかった。
 心の臓は壊れそうなほどドクドク打っている。
 呼吸だって苦しい。
 顔が熱くてあげられない。

 どうしようと俯いたまま思う千鶴は、今の土方にとっても都合がよかった。
 土方だって今の自分は見られたくない。
 何言ってんだ俺状態で、柄にも無く顔が赤くなっている自覚がある。

「誰にも口外しねぇって約束できるなら…覚えとけ」

 ボソッとそう告げると、ぽんと千鶴の頭を優しく叩いて土方は去っていった。
 というか、逃げたとも言うのだが…。

「あ、ありがとうございます」

 千鶴はそういって頭を下げた。
 礼を言うところじゃねぇだろうがと思ったが、今の顔を見られたくないので背を向けたまま土方は縁に上がって自室に戻っていった。
 その背中を見送り暫く立ち呆けていた千鶴だったが、洗濯という自分の仕事を思い出し再びそれに取り掛かった。

「梅の花壱輪咲いても梅はうめ…えへへ~」

 見た事を誰にも言わなければ覚えていても良いと許しが貰えた。
 何だかそれがとても嬉しかった。

「でも…」

 ゴシゴシと隊服を洗っていた千鶴はその手を止める。

「豊玉さんって…どんな方なのかなぁ?」

 肝心な事が分かっていない事に気が付いたが、土方が大切にしている発句集を書いた人だ。
 きっと素敵な人なのだろう。

「沖田さんもこっそり持ち出して読みたくなるほどお好きだなんて。…ちょっと意外な気もするけど」

 そう呟いて、手を動かし始めた。
 早く洗濯を終わらせて昼餉の準備に取り掛からなければいけない。
 その使命感に千鶴の手の動きが早くなった。

 

 

「は…っくしゅ」

 何故か出てきたくしゃみに沖田は鼻を擦る。

「んだよ、総司風邪か?」
「違うよ。誰か噂したんだろうね」

 今夜が夜番の平助は残念ながら酒は飲めないので、食事だけしている。
 原田と永倉は奢りという事で、遠慮無しに酒で腹を満たしていた。

「噂ねぇ~」
「千鶴ちゃんあたりかな?」
「何でそこで千鶴なんだよ」
「ん~?何となく」

 人物の読みは間違っていなかったが、そこに勘違いが含まれていた事など知るよしもなく。


 怒鳴られる事を覚悟で夕方屯所に戻れば。
 何故か機嫌の良い土方に、

「ったく、勝手に持ち出すなっていつも言ってんだろーが」

 と言われただけで済み。

「駄目ですよ、いくらお好きでも勝手に持ち出されては」

 と、満面の笑顔でよく分からない言葉を告げてきた千鶴に沖田が困惑した事は記述しておく。

 

 

終わり

 

 

 

拍手[60回]

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