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今回の千鶴ちゃんは本当にほのぼの~です。
って言うか、近藤さんに全部持っていかれた感も(笑)
小説は右下からどうぞ!
「うわぁ~」
沖田に連れられて向かった広間にはすでに朝餉の支度が整っていた。
幹部も数名座っている。
「おや、お早う雪村君」
「おあよぉごじゃいましゅ、いのうえしゃん」
「斉藤君達が君の為に腕を振るったようだね」
そう言って井上が視線を千鶴用のお膳に落とす。
そこには小さく切られたおかずに、食べ易いようにとの事だろう、小さな握り飯もある。
箸と共に匙も置いてあり、食事を準備してくれた者達の優しい心遣いがとても嬉しかった。
「へぇ~、良かったね千鶴ちゃん」
「あい!」
嬉しくて、本当に嬉しくてこくんと頷けばちりりんと鈴が鳴った。
「ん?可愛い音がするね」
「おきたしゃんからかんじゃちをいたやきまちた」
「どうかな源さん、可愛いでしょ?」
「ああ。簪も可愛いし、鈴の音がなるのも可愛いね。良く似合っているよ、雪村君」
「えへへ~あいとおごじゃいましゅ」
褒められて面映いのか小さな両頬に小さな両手を当てて千鶴が笑った。
はにかむ姿は大変愛らしく、
「可愛いっ」
沖田の抱擁が強まるのも頷ける。
「どうしよう千鶴ちゃん。本っっ当に君可愛すぎるんだけど」
「お…おきたしゃん、くゆちいでしゅよぉ」
「もうこのままでも良いんじゃないってくらい、僕、君が可愛くて仕方ないよ」
「しょ、しょえはこまいましゅ…」
「大丈夫、面倒は見るよ、土方さんが!」
「くだらねぇ事言ってないでさっさと座れっ」
「あれ、居たんですか土方さん」
後ろに立っていた土方に沖田が声をかける。
「何が『あれ』だ。当に気付いてただろうが!」
どけ、と横を通り抜け様に眉間に皺を寄せた土方が沖田の腕の中を覗き込む。
「現状に変わりはなし、か」
「おあよぉごじゃいましゅ、ひじかたしゃん」
「ああ、お早う」
土方が千鶴の頭をぽんと叩けば、また鈴が鳴る。
「ん?」
ちりんとなった正体を確かめれば、簪に結われた紐の先に鈴があった。
思わずそれを手にとって見る。
「ほ~お、器用に仕上げたもんだな総司」
「よく僕だって気が付きますね、それしたの」
「お前以外の誰がすんだよ。猫に鈴のつもりか?」
「それもありますけど、普通に可愛いでしょ」
「ま、ただ単にちりちり鳴るのがやりたかったんだろ?それが迷子防止だとしてもな」
「……ま…まいごぼうち?」
「姿が見えなくても、千鶴が動きゃ鈴の音で分かるじゃねぇか」
「しょうなんでしゅか、おきたしゃん」
「種明かしすれば、ね。けど、可愛いからっていう理由が前提で」
「よくわかやないでしゅけど…ちんぱいちてくだしゃったんでしゅよね?」
「ん~」
「こえ、とちぇもかやいいちょおもいましゅ。やから、あいがちょおごじゃいましゅ」
沖田の気持ちに素直に礼を言う千鶴に、今度は沖田に面映い気持ちが生じてくる。
「御礼はさっきも聞いたよ」
「しょえでもうえちいかやもういっかいでしゅ」
「律儀だね、小さくなっても」
そう言いながら、沖田は自分の膳の前に腰を下ろした。
千鶴は膝の上に乗せたまま、まだ解放するつもりは無いらしい。
頭の上に顎を乗せ包み込むように後ろから抱きしめている。
からかう気が無いのを何となく感じ取った千鶴は、大人しくされるがままになっていた。
いつもの顔ぶれが揃い始めた頃、近藤が広間に入って来る。
「すまんすまん、遅れてしまったな」
いつもの笑顔で入ってきた彼の視線が千鶴のもとで止まった。
「ああ、そうか、雪村君か!」
「あい」
「体調が悪いとかそういった事は無いかい?」
「へいきでしゅ」
「そうか……どれ」
近藤は自分の席には行かず、沖田の前まで歩いてくる。
彼が手を伸ばしてきたので沖田は素直に彼女を解放したが、他の幹部ではそうはいかなかっただろう。
そしてそのまま軽々と千鶴を抱き上げた。
腕の中にちょこんと納まる小さな幼子を、近藤はじっと見つめてくる。
何だかその瞳がどこか寂しそうで、気になった千鶴は少し首を傾げて彼の名を呼んだ。
「こんどぉしゃん?」
「……ひとつ、頼みがあるのだが」
「わたちにでしゅか?」
「あ~…否、何でも無い。何でも無いぞ」
「…きになりましゅ」
「うん?…うーん」
近藤は千鶴に頼みがあると言った。
これは結構珍しい事だ。
しかし、なにやら言い難い様である。
「こんどぉしゃん、わたちにできゆことでちたや、おっしゃってくだしゃい」
「いや…本来の君にとって非常に申し訳のない、俺の我侭だから、忘れてくれ」
「よけえきになりましゅ」
抱き上げられたまま、今度は千鶴がじっと近藤の顔を見つめた。
「……俺には…丁度君位の娘がいてね。今の雪村君を見ていると、娘の事を思い出してなぁ」
そういえば、聞いた事がある。
近藤は江戸に両親と妻子を残して来ていると。
(そうか、今の私くらいなんだ、近藤さんのお嬢さん)
「それでだな、もし、嫌でなければ…」
「…?」
「や、やはり止めてお」
「こんどぉしゃん」
「う………一度」
観念したのか、近藤がポツリと零した。
「父様と、呼んではもらえまいか…と」
「こんどぉしゃん…」
「江戸を離れた頃はまだ1つでなぁ、言葉がまだ出てきていない時期で…」
ああそうか。
千鶴はそこで理解した。
自分は今、父親である鋼道を探している。
だがその鋼道の消息は今だ知れない。
そんな状況で、自分の事を『父様』と呼んで欲しいという願いは千鶴にとって残酷なのではないかと、近藤は考えているのだろう。
(本当に優しい方だな)
千鶴はポスンと近藤の肩に頬をあてた。
そして、
「とぉしゃま、おあよぉごじゃいましゅ」
当てた頬を摺り寄せながら千鶴がそう言った。
近藤が目を見開く。
「きょおもおちごちょがんばっちぇくやしゃいね、とぉしゃま」
「雪村君」
「だめでしゅよ、しょこはちじゅゆっちぇよんでくやしゃやないちょ」
こてんと今度は肩に頭を置き、
「とぉしゃま」
と千鶴が呼びかける。
「ああ、お早う、千鶴」
近藤がとても嬉しそうに微笑みながら、千鶴の背中を撫でた。
朝から、幹部達の目の前で繰り広げられるその光景は、なんとも微笑ましい。
微笑ましいのだが、限界のものもある。
ぐぅぅ~きゅるるるる~
誰かの腹の虫が、豪快に鳴いた。
「悪ぃ、近藤さん…そろそろ飯食おうぜ」
腹の虫の主はどうやら永倉の様だ。
「すまんかった、よし皆しっかり食べて今日も隊務に励んでくれ!」
「よっしゃあ!いただきまっす~」
近藤の音頭と共に永倉達が膳に並べられた料理に箸を付け始めた。
「さて、君も食べんとな、千鶴君」
雪村君とは呼ばなかった近藤に、千鶴はにっこり笑い頷いた。
「朝餉の世話は任せたぞ総司」
近藤がそう言いながら、千鶴を沖田に渡そうとした。
「あれ、いいんですか?連れて行っても構いませんよ?」
「しかし落ち着いて食事が出き来んだろう?」
「そんな事ないよね、千鶴ちゃん」
「あい。おじゃまやないでしゅか?」
「もちろん。ならば、朝餉は共に食うか千鶴君」
「じゃあお膳を移動させますね」
沖田は千鶴の膳をもって立ち上がり、近藤の膳の横に並べた。
そこは土方と近藤に間になる。
「こぼした時はちゃんとお世話して下さいね土方さん」
「俺がしなくても近藤さんが動くだろ、なぁ?」
「ああ」
「……こぼしゃないでしゅよ」
近藤が胡坐をかいて座り、その上に千鶴が座らされる。
(沖田さんのお膝に座らせて頂いた時と何だか違う…本当に父様みたい)
そう思った千鶴の顔に、ふんわりとした笑みが浮かぶ。
「何?ご機嫌だね千鶴ちゃん」
自分の場所に戻った沖田から言われて、
「こんどぉしゃんのおひじゃはほんちょぉにとおしゃまみちゃいで、あちゃちゃかいでしゅ」
頬を桜色に染め嬉しそうに笑う千鶴に、幹部一同釘付けである。
あの永倉や藤堂でさえ箸が止まってしまっている。
えへへ~と笑い近藤を見上げれば、近藤も嬉しそうに千鶴を見下ろし、頭を撫でてやった。
「さぁ、冷えてしまう前に頂こうか」
「あい」
どこからどう見ても親子な二人の姿がとても自然すぎる。
「お、千鶴君の味噌汁には人参の花が咲いとるぞ!これは斎藤君の仕事だな」
「かぁいいでしゅね~」
「千鶴君、頬に米粒がくっついとるぞ」
「どこでしゅかぁ」
あぁ 和む…
その光景を見ていた幹部達の目尻が下がったのは言うまでもない。
続く…