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不思議な千鶴ちゃんです。
朝から書いていたのにちょこちょこ書いては休憩しを繰り返していたので、結局夕方に。
せっかく今日は仕事が休みだったのに…。

小説を書いていて気分転換をしたい時は息子の龍をからかいます。
もっとも『愛犬』と書いて『むすこ』とルビをふる真っ白なミニチュアシュナウザーですが(笑)
黎明録の影響もあり、もっぱら最近の呼び名は龍之介です☆

小説は右下からどうぞ!


 

 


「いしょがなくちゃね」

 土方から預かった書状を大事に抱いたまま、千鶴は玄関に向かい廊下を走っていた。
 普段は大っぴらに屯所内を歩き回る事が出来ない千鶴にとって、こうしてお使いが出来るのは嬉しい事だ。
 しかしそれが油断を招いてしまったのかもしれない。
 もう少しで玄関という所でそれは起こった。

「うわっ」
「きゃっ」

 青年の声と千鶴の小さな声が重なる。
 角を曲がったその時、千鶴は進行方向からやって来ていた誰かの足にぶつかり尻餅をついてしまった。
 ただそれだけならまだ良かったのだが。
 反射的に上を見上げた千鶴の目に映ったのは、不自然な位にゆっくりと落ちてくるそれら。
 そして慌ててそれらを何とか回収しようと手を伸ばす、多分一般の平隊士の青年。

「―――っ!」

 動く事のできない千鶴の視界を黒い何かが覆った瞬間。


  ガランッガラガラッ


 沢山の物が床に散らばる大きな音がした。

 何が起こったのか。
 何故視界が真っ黒なのか。
 今自分を包んでいる温かい物は何なのか。

 理解するまで少しの時間を要した。
 しかし周りから聞こえてくる謝罪の声や、慌てた声にはっとして瞬きを繰り返した。

「しゃいとぉしゃん…?」

 視界が黒一色なのは、彼の着物がそうである為で。
 温かいと感じたのは、彼が抱き締めているからで。

「……?」

 斎藤の腕の中で顔を少し動かし彼の腕の隙間から床に目をやると、沢山の木刀が散らばっていた。
 そうだ。
 さっきあれらが自分の上に降って来るのが見えた。
 とてもゆっくりと感じたが、それはきっと一瞬の出来事だったのだろう。
 その一瞬の間に、

「しゃいとぉしゃんっっ!」

 千鶴は斎藤に護られた様だ。

「…?」

 しかし、呼びかけられた斎藤は驚いた顔で、更に上を見ていた。

「お怪我はないですか斎藤組長、それに…雪」
「島田君、千鶴、だ」
「…え、ああ、千鶴さん?」

 床に尻餅をつき、座り込んでいた千鶴の頭を抱き寄せて庇った斎藤。
 そしてその彼の上に屋根となって、更に二人を庇っていた人物が笑った。

「副長よりお話を伺ってはいましたが、随分と愛らしい姿ですね」

 斎藤と千鶴にしか聞こえないような小さな声で言うと、彼は身体を起こした。

「お二人とも大丈夫ですか?」
「すまなかったな島田君。君は大丈夫なのか?」
「身体が丈夫な事が取り柄ですので御心配なく」
「ちまだしゃん」

 抱きしめられたままの千鶴が、その瞳に涙を浮かべて島田を見上げる。

「ご、ごめんなしゃいっ」

 ぱちんと瞬いた瞳から、朝露の様な綺麗な涙が零れ落ちた。

「ち…ちちっ千鶴?」
「千鶴さん?」

 頬を伝う涙はポロポロと留まる事を忘れてしまっている。
 斎藤の腕の中から千鶴は抜け出し、頭を下げた。

「ご、ごめんなしゃい、ごめんなしゃいぃ~」
「ちっ千鶴さんが悪いわけではないでしょう」
「そっそうだ、何故千鶴が詫びなければならんのだ!」

 泣きじゃくりながら床に額が付くほどに頭を下げる小さな少女。
 それに慌てふためく、冷静沈着を絵に描いたような三番組組長と鬼の副長直属である監察方の大柄な男。
 あまりにも異様な光景に周りも唖然となり、動けないでいたのだが。

「ったく」

 呆れた様な声と共に、千鶴の身体がふわりと宙に浮いた。

「嫌な予感がして来てみれば…何やってんだ」
「副長」
「ふぇぇ…ひじかたしゃん」

 足元に散らばる木刀を土方は一瞥した後、片腕に抱き上げた千鶴に視線を向け、涙に濡れた頬を袖口で拭ってやる。

「お前は怪我してねぇんだな?」
「あい」
「斎藤、島田、二人も大事無いな?」

 土方の問いかけに両名とも頷いた。
 そして千鶴とぶつかった隊士の方に視線を向け口を開きかけると、

「ひじかたしゃん!わたちがとびだちたんでしゅ、たいちしゃんはわゆくないんでしゅっ」

 千鶴が全力で言い募りだす。

「わたちがとびだちたかやおどよかえて…わゆいのはわたちなんでしゅ!だかや、おこやないでくだしゃい」
「………はぁ」
「ひじかたしゃん…?」
「おい、こんなガキに庇われといて、てめぇはだんまりなのか?」

 眉間に皺を寄せた土方に言われ、

「すっすみませんっ。自分が悪かったんです。不精せずに分けて運んでいればこんな事にならずに済みました。彼女が悪いのではありません、自分の責任ですっ」

 まだ若いその隊士が頭を下げた。

「斎藤組長も島田伍長も本当に申し訳ありませんっ」

 次いで、斉藤らにも頭を下げる。
 鬼の副長を恐ろしい存在として認識している彼らにとって、眉間に皺を寄せ見るからに機嫌の悪そうな彼ほどどう対応してよいのかなど分かる訳がない。
 そもそも直に怒られる事など滅多にある事ではない。
 それでも、自分が選んだ道は新選組の隊士なのだから、追い出されるわけには行かない。
 非をちゃんと認めて、沙汰を待つ。
 千鶴もそれ以上は何も言いはしなかったが、じっと見つめてくる大きな瞳が彼は悪くないのだとひしひしと訴えてくる。

「…今回は確かにお前ぇら二人とも悪い。が、千鶴の注意が散漫になっていたのは俺が頼んだ仕事も係わってるんだろうしな」
「ひじかたしゃん」
「いつ何が起こるか分からねぇんだ。何かあっても直ぐ対応できるくらい己を鍛えろ」
「はっはい!」
「分かったらとっとと片付けねぇか」
「はい!」

 その隊士は顔を上げると、もう一度すみませんでしたと言い散らばった木刀を集めだした。
 
「ひじかたしゃんおりょちでくだしゃい」
「お前ぇは大人しくしてろ」
「おりょちてくだしゃい」
「ったく…ほらよ」

 呆れながらもどこか優しげな表情で、土方は千鶴を床に降ろした。
 降ろしてもらった千鶴は近くにあった木刀を拾い持ち上げる。

(……うわ…重い…)

 真剣と同じ重さだと聞いたことがあったが、こんなにも重たいとは思わなかった。
 片手で持つには些か無理がありそうだとは思いつつも、もう片方の手は塞がっている。
 そう、塞がっているのだ。

「あ!」

 もう片方の手で胸に押し付けているのは先程土方から預かった書状。
 本来の目的を忘れ、それを渡せずに今もそれはここにある。
 どうしよう、と思った千鶴の前に青年隊士が膝を曲げて目線を合わせてきた。
 彼の手は千鶴が何とか持ち上げていた木刀を握っている。

「怖い思いをさせてごめんね」

 心から詫びている彼に、千鶴はぶんぶんと首を横に振った。

「わたちもぶちゅかっちぇごめんなしゃい」

 これは貰って行くよと言い、彼は木刀を受け取って離れていった。
 手元の軽くなった千鶴は慌てた様に土方を振り返り、見上げる。

「ひじかたしゃんひじかたしゃんひじかたしゃんっっ!!」
「今度はどうした」
「こえ、こえっっ!」

 預かった書状を持ちあげた。

「おあじゅかいちちゃのにおわたちできましぇんでちたっ」
「ん?ああ、そうか」
「しゅみましぇん…どうちよう」
「千鶴」
「あい」

 しょぼんと項垂れた千鶴の前で土方が膝を曲げ、視線の高さを合わせる。
 
「俺は、間に合わなくても構わねぇって言った筈だ」
「…でもぉ」
「これだけ大きな音がしたってぇのに二人が戻らねぇのは音が聞こえねぇくらい屯所から離れてたってことだろ」
「しょうかも…ちれましぇん」
「そうかもじゃなくて、そうなんだよ」

 千鶴の手からその書状を受け取り、代わりにぽんぽんとその頭を優しく叩いた。

「だが、これは午前中には届けたいもんだしな。散歩ついでに一緒に届けに行くか?」
「いっちょにいっちぇもよよちいんでしゅか?」
「よよちくなきゃしゃしょいましぇん」

 たどたどしい千鶴の物言いを真似て告げる土方に、千鶴はその小さな頬を膨らませる。
 からかった後の意地の悪い笑い方が、今巡察に出ている沖田を髣髴とさせる。
 結局似た物同士なのだと、千鶴は思った。

「おら、膨れてる暇があんなら準備して来い」
「あい!」
「それから、念のため近藤さんに俺と出かけることを伝えといてくれ」
「わかいまちた」

 笑顔の戻った千鶴は自分の部屋に向かっていく。

「お出かけになるのですか、副長」
「ああ。今日は急ぎの仕事もねぇしな」
「そうですか。…長州の者達の気になる報告も入っておりますのでお気をつけ下さい」
「気になる?」
「近頃、飯屋に屯っている姿が目撃されております」
「……島田は今から監察の仕事で出るのか?」
「はい」
「斎藤お前は?」
「申し訳ありませんが、俺は昼餉の当番を代わっているもので」
「…ああ、昼はあいつの当番だったか。まぁ、藩邸の傍で騒ぎを起こすほど馬鹿じゃねぇだろうし」

 気をつけておくか、と言い残し土方も準備をするために部屋に戻ろうとしたのだが。

「しゃいとおしゃんっちまだしゃん!」

 ちりんちりんという鈴音の音と共に千鶴が戻ってきた。
 何だ?とそちらを向けば。

「おふちゃいちょもまもっちぇくだしゃっちぇあいがちょおごじゃいまちた!」

 礼を言うのを忘れていた事を思い出し、慌てて戻ってきたのであろう千鶴がそこにいた。

「お前は」

 くくっと土方が笑えば、

「怪我が無いのならばそれで良い」

 と斎藤も表情を崩し、

「当然の事をしたまでですよ。お気になさらず」

 島田もその双眸を細くし微笑んだ。
 見上げてくる小さな、でもとても純粋な瞳に癒される。
 信頼が込められたその瞳を、曇らせる事があってはいけないのだと改めて実感させられた。
 この小さな瞳も、元の姿の彼女の瞳も。
 人斬り集団の中にいながらも失われない、その瞳を護りたい。
 心を映す鏡の様な穢れ無き瞳を。

「さて、仕事がありますので、自分は先に出ますね」

 島田がそう言って土間に下りる。
 草履を履いて振り返ると、行ってきますと頭を下げた。

「ちまだしゃん」
「はい?」
「おちごちょ、おきおちゅけちぇいっちぇらっちゃいましぇ」
「はい、行って参ります」

 手を振る千鶴に見送られ、嬉しそうに島田は頷くと玄関から出て行った。
 門をくぐる際に一度振り返った島田に、より大きく千鶴が手を振ると彼も手を振って返して、そして姿が見えなくなった。

「おきたしゃんとはやだしゃんのおみおくいはできましぇんでちたけど、ちまだしゃんのおみおくいはできまちた!」

 胸の前で手を合わせ嬉しそうな千鶴を見下ろし、

「そりゃぁ良かったな」

 と土方が笑う。

「なら今度は俺達が出る番だ。昼前には戻るつもりだからな、今度こそ準備して来い」
「あい!」
「何?出かけんの?」

 千鶴の返事とほぼ同時に、彼らの背後から声が掛けられる。
 そこには藤堂の姿があった。

「へーしゅけくん」
「土方さんと千鶴、一君も出かけんの?」
「俺は行かない。副長と千鶴だけだ」
「平助、お前確か非番だったな」
「そうだけど」
「ならお前も来い」
「え!いいの?」
「駄目なら誘わねぇ…ってさっきもしたなこの会話」
「行く行く!」
「羽織を取ってくる。特に準備がねぇならここで待ってろ。ほら、千鶴お前も行け」
「まっちぇちぇね、へーしゅけくん」
「おう!」

 土方と千鶴は今度こそ準備をするために部屋に戻っていった。

「で?どこに行くんだ?」

 藤堂はその場に残っていた斎藤に尋ねる。

「書状を出しに会津藩邸だ。…平助」
「ん?」
「長州の輩が何やら不穏な動きを見せているらしい。気を抜くなよ」
「そうなの?分かった。土方さんは良いとして、千鶴は俺が絶ってぇ護るから安心しててよ!」
「任せた」
「うん」

 藤堂が頷くと、斎藤も奥の棟へ向かって歩き始めた。
 何にも無いのが一番だけどな、と思いつつその背中を見送ると廊下の縁に腰を下ろし、藤堂は草履に足を滑らせた。


 

終わり

 

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