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24日と25日どちらにUPするか悩みましたが、書きあがったのでイヴにUPです。
甘い土千をとのリクを頂いていたので、出来る限り甘くしてみたつもりです。
お正月にも書きたいものがあるし、思いを馳せて~のその後もそろそろ書き上げたいし…。
赤い不思議飴のお話も書きたいし…。
やりたい事は山とありますが、体力が付いてきません(涙)
クリスマス寒波とやらで外は寒いし(月夜野は寒いのが大の苦手です)仕事は追い込みで忙しいし…。
でもそれさえ乗り切ればお正月休みが待っています!
皆さんも体調を崩されないように気をつけて、今年を乗り切ってくださいね!
甘さを目指してみた小説は右下からどうぞ。
「お疲れ様、土方君」
「…大鳥さん?何かあったのかよ、こんな時間に」
蝦夷共和国の陸軍奉行である彼が土方の執務室を訪ねてきたのは、陽が落ちて大分経った頃だった。
窓の外は降り積もる純白の雪のおかげで真っ暗ではないものの、それでも訪ねてくるにしては少し遅めの時刻。
「お茶でもどうかな?」
「はぁ?」
「まぁまぁ、良いから良いから」
「良いからって…」
大鳥はそう言いながら、手にしていた茶器類をローテーブルの上に並べ、急須から湯飲みにお茶を注いだ。
「何だよ、俺ぁてっきり赤い茶かと思っていたが、緑茶か」
珍しいな、と漏らしながら執務机から離れた土方がローテーブルの前のソファーに腰をかける。
「折角のクリスマスだからね。苦手な物を飲ませなくても良いかなって」
「くりす…ます?」
「西洋ではキリストの聖誕祭っていって、教会でミサを行ったりするんだよ」
「みさ?」
「まあ、お祭りだよ」
どうぞ、と湯飲みを差し出し大鳥も土方の正面に腰を下ろした。
「美味しい物食べたり、お酒飲んだり」
「宴か?」
「え…っとま、まぁ和風に言えばそうなるのかな?」
「ふ~ん」
「はい、大福もどうぞ」
「…こんな時間に甘いものか?」
「ケーキの代わりだよ」
「けいき?分からん単語がぽんぽん出てきやがる」
程好い甘さの大福にかぶりつき、甘さを流すためにお茶を口に含む。
「……ぬりぃ」
「文句言わないでよ」
「俺ぁ熱めが良いんだよ」
そう言った土方の顔をちらりと盗み見た大鳥は、
「クリスマスの夜はね、大切な人と過ごすっていう素敵な面もあるんだよ」
と優しく告げた。
「大切な…」
「うん。家族だったり友人だったり…恋人だったり、ね」
傾けかけていた湯飲みから口を離し、土方は窓の外に視線を向けた。
『土方さん』
少し高めの、それでもとても心地の良い声音が自分を呼んだ。
だが思い出される表情は笑顔ではなく、深く傷ついた悲しげな泣き顔。
(ちづる)
遠くを見つめたままの土方の口が小さく動いた事に大鳥が気が付いた。
(全く素直じゃないよね…でも土方君の気持ちも分かる)
大切だと想う人をこんな戦場に連れて来るなど自分にも出来ない。
大鳥の妻子も江戸に置いて来た。
それでも、彼女には担ってもらうべき役目がここにある。
(さってと)
大鳥は残ったお茶を一気に流し込み、立ち上がった。
「何だよ…来たかと思えばもう退散か?」
「大切な女性を想う邪魔をしたくなくてね」
「な…んだよそれ」
「今、君の心を占めている人はとてもとても可愛らしい女性なんだろうね」
じゃあ失礼するよ。
大鳥はそう言って部屋を出て行った。
「何しに来たんだあの人は」
閉められたドアを半ば呆然と見詰め、土方は溜め息を吐いた。
「大切な、女…か」
湯飲みを置いて土方は立ち上がると窓辺に立った。
真っ暗な空から降り続ける白い雪。
「穢れの無い白…お前みてぇだな、千鶴」
放って置いても際限なく土方の心に降り積もり、彼の心を占めていく。
「千鶴…逢いてぇよ」
独り言の様に呟いた言葉が、重く部屋の中に広がっていった。
「ってぇ思っていたのが、もう一年も前になるんだな」
「ひ…土方さん…」
薄紫色の着物に身を包んだ千鶴が、頬を真っ赤にして土方を見る。
「一年前はまさかお前とこうして一緒に暮らす事になるたぁ思いもしなかったな」
「そ、それは私もです、けど」
こじんまりとした家の縁側で、千鶴の淹れたお茶を火傷しない様に啜る。
「美味い」
「ありがとうございます」
「なぁ、千鶴」
熱い湯飲みを両手で握り、白い息を吐きながら隣りに座る千鶴を見詰めた。
「はい、土方さん」
そう。
千鶴は彼を『土方さん』と呼ぶ。
二人はまだそんな関係なのだ。
「大事な話がある」
「はい」
土方が湯飲みを下に置き、千鶴の方に向かい居住まいを正す。
それに合わせて千鶴もきちんと座りなおした。
何だろう、と思いつつも真剣な眼差しの土方に聞く事はせず、ただ黙って彼が話し出すのを待った。
「千鶴、お前には迷惑と苦労のかけ通しだな」
「そんな事っ。何か至らぬ点でもありましたか?言って下されば直しますっ」
突然何を言い出すのだと戸惑ってしまう。
もしかして、ここから出て行くとか言い出すのではないか。
不安な顔を隠すことも出来ず、千鶴は大きなその瞳を涙で滲ませた。
「…何、勘違いしてやがる」
「え?」
「ここで暮らすようになって、お前と一緒に過ごす事が当然の事になって」
「……はい」
「ちゃんとけじめ付けなきゃなんねぇって思ってよ」
「けじめ…ですか?」
土方は千鶴の両手をそっと握り、彼女の瞳を見詰める。
「お前にとって、俺って何だ?」
「お側に居たいと願う、大切な方です」
土方の問いかけに、迷いも無く答える千鶴。
「俺にとってのお前は、生きたいと願う理由であり、命そのものなんだよ」
「ひじ…かたさん」
「俺は、いつまで生きられるか分からねぇ」
「………」
「それでも、お前と居たいって思っちまってる」
「本当…ですか?」
「地位も名誉も金も無い。それどころか、こうして隠れ住まなけりゃいけねぇ状況だ」
「そんなのっそんなの関係ありませんっ。土方さんがこうして生きて下さっている事が私にとって何よりの幸せなんです」
「千鶴…そんなに俺を甘やかすんじゃねぇよ」
「ずっとずっと自分にも人にも厳しくあった貴方ですから、こんなの甘やかす事になりません」
寧ろもっと甘えてほしいです、と涙ながらに訴える。
「馬鹿が。そんな事を言われたら我慢がきかなくなんだろうが」
土方は握っていた千鶴の指先に口付けを落とす。
そんな彼の行動に千鶴は固まってしまう。
思えば、五稜郭の執務室で口付けを交わして以来、こんな甘い雰囲気にはなったことが無かったな、と土方は思う。
愛おしいという気持ちはあった。
だが、それよりも新選組を護りきれなかったという罪悪感が勝っていた。
しかし最近、人伝えに千鶴が近所で土方の事を説明する際にいつも『大切な人』としか言わないのだという事をきいた。
二人きりで暮らすようになって半年以上。
彼女が自分の側に居るようになってからはもう数年が経つ。
心はもう決まっている。
ただ、自分が敗残の将である事と羅刹であるという事が次の段階へ進む事を躊躇わせていた。
「俺がお前にやれるもんは、この命くらいだ」
「十分過ぎます」
「どれくらい残ってんのか、分からねぇんだぞ?」
「それでも…私にとっては大切な、大切な命なんです」
「そうか。だったら、全部くれてやる。命も身体も声も心も、全部、俺に残ってるもんは全部だ。全部千鶴にくれてやる」
「土方さん!」
「だから千鶴」
「はい」
「俺と、夫婦になってくれ。俺もお前と所帯を持つ幸せを味わいてぇんだ」
「土方さんっ…本当ですか?」
「一回り以上も年上のおじさんだがな」
「関係ないです…土方さんは土方さんなんです…私の…大切な…愛しい人なんです」
「千鶴」
握っていた手を引くと、土方の腕の中に千鶴がすっぽりと埋まってしまう。
「ありがとう、愛している」
「土方さん」
「お前俺の女房になんだぞ?土方さんはやめろ。つうか、外じゃ俺も雪村なんだろ?雪村歳三」
「御存知…だったんですか?」
「どこのおばさんもお喋り好きは同じらしい」
「だっ…だって、土方っていう姓はこの辺では珍しいから…すみません」
「別に、悪ぃって言ってる訳じゃねぇだろうが」
腕の中の千鶴の旋毛に唇を押し当てる。
「今日からは嘘じゃねぇだろ。…って事は俺は婿養子か」
「土方…」
「ほら、また土方って呼ぶ」
「えっと…その…」
顔を見なくても、今千鶴が真っ赤になっているのは手に取る様に分かる。
それが可愛くて堪らなくて。
彼女の顎に手を掛けると、上を向かせた。
案の定その頬は真っ赤になっていて、瞳も潤んでいる。
「…ぅんっ」
愛おしいと想うと我慢がきかず、その桜色の唇を塞いでしまった。
「千鶴」
「ふっ…んんっ」
口付けの合間に名前を呼んでやると、瞳から涙が溢れ出した。
ずっと、ずっと待たせてしまった。
惚れてると告げた日からどれほど待たせたのだろう。
これ程までに誰かに想われ、想う事などこの先きっと無い。
「千鶴…呼んでみろ、歳三だ」
唇は解放したが、額はくっ付けたままで土方が言う。
「と…と…とし…」
「歳三」
「とし…歳三さん……んっ」
名前を呼ばれて気が付けば、先程よりも強く、そして深い口付けを千鶴に与えていた。
潤んだ瞳に上気した頬。
愛おしいと思う女性が上目使いで、自分の名を呼んだ。
「ふぁ…ぅんんっ」
苦しいと、胸を押してくる千鶴の可愛い抵抗も聞き入れず甘い口付けを味わう。
ただ名前を呼ばれただけなのに、心がこんなにも熱くなる。
「千鶴、千鶴…千鶴…愛してる」
唇を離し強く抱きしめる。
「歳三さん…私も…愛しています」
「全てを失ったと思ってた…けどよ、こんなにも大事な宝がここに残ってた…千鶴」
「そんな…大層なものではありませんよ」
「あるんだよ」
こんなにも愛おしい。
大切でかけがえの無い宝物。
「歳三さんも…私の宝物です」
千鶴が土方の背中に腕を回し、きゅっとしがみついて来る。
「………俺も…まだ若いな…」
「え?」
不意に呟いた土方の言葉に千鶴が顔を上げようとしたのだが、それを許さないかのように頭ごとかき抱く。
熱くなっているのは心だけではないなんて、流石に口に出していえるものではないが…。
「さっき、言ったな」
「はい?」
「今日はクリスマスで、大切な人と過ごす日だ、って」
「はい」
「今年は二人だが…来年は…」
「来年もっ、二人です!」
またも何か勘違いをした千鶴が悲痛な声を上げるが、土方は動じない。
「来年は、人数増えてるといいな」
「……ふえる?」
「一人増えるか、場合によっては二人増えるか…」
「何を仰って…?」
「所帯を持つってなぁそういう事だろ?」
「そういう…あ…」
「俺の子を、産んでくれ。護るべき宝を…増やしてくれ、千鶴」
「……はいっ…はいっ!」
「そうか、そういう事なら善は急げだな」
「はい!……はい?」
外は雪雲で薄暗いとはいえ、時間的にはまだ夕方前だ。
医者の娘である千鶴は子作りが如何様なものなのかは知識として知ってはいる、が。
「まだ…その…お風呂も準備できておりませんし…」
「そんなの後で俺がやってやる」
そう言いながら千鶴を抱き上げ土方が立ち上がる。
向かう先は寝室に使っている部屋だ。
「歳三さん!」
「お前に名前を呼ばれると、…身体が熱くなんだよ」
「ええっ!?」
「だから諦めて…観念しろよ、俺の恋女房殿」
「……お…」
「ん?」
「お手柔らかに…お願いします…」
「……心に留めてはおく…」
無理だろうがな、とは口にせず、千鶴を抱き上げた土方は部屋に入ると襖を閉めた。
しんしんと。
真っ白な雪が降る。
赤い血で染まった大地でさえ、真っ白に覆い隠してゆく。
そんな雪が融け、新しい草花が生命を息吹いたら。
その時は。
のんびりと大切なヒトと共にその大地を。
歩ければと、願う。
終わり