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色々なサイト様で既に書かれているかもしれないんですが、私らしい土千夫婦が書けたら良いなと思っております。
ちょっとパラレルなんていいのかなと思ったんですが、不思議な千鶴ちゃんが既にそうなんだよなと思いまして(苦笑)
皆いて皆元気ということで、多分元治2年前後ではなかろうかという設定です。
とても曖昧です。
パラレルなので…。
その頃の屯所内がとても大好きなので、不思議な千鶴ちゃんもその頃をイメージしています。
皆一緒が良いよ、うん。
思い切り土千で甘くて楽しくて賑やかで、ちょっとシリアスあって、そんな物語になると良いなと思います。
千鶴ちゃんも終わっていないのに新しい連載なんて無謀かもですが、楽しんで頂けるよう頑張ります。
では、右下からどうぞ。
その日、その時、その瞬間。
新選組の鬼副長と呼ばれる彼は激しく後悔していた。
何がいけなかったのか。
どこを間違ってしまったのか。
もう、言葉も出て来ないほどの後悔。
何を間違ったか、ともう一度混乱する頭で考えて答えを導き出す。
視線の先で引き攣った様に笑うのは尊敬し敬愛する男、近藤勇。
そう。
新選組局長の彼である。
彼から発せられた言葉はなんだった?
新選組に資金を提供してくれている問屋の主人に娘と見合いをして欲しいと散々頼まれて。
困り果てた末に助けてくれと目で訴え、土方が縋り付いた彼の人は何と言った?
「……………っ(ああぁあぁぁっ!!)」
叫び声をあげたいがどうにもならない。
畳に頭を擦り付けてしまいそうだ。
柱があれば頭をぶつけていたかもしれない。
『いやぁ、お気持ちは嬉しいんですがうちの土方にはそれは可愛い愛妻が居りましてな』
あいさい?
あいさいってなんだ?
『何と、既に既婚済みでしたか!』
『新選組が軌道に乗り、体制がしっかりしてくるまではなるだけ秘密にしておこうと』
きこん?
きこんってなんだ?
『何故です?』
『新選組に恨みを持つ者達が彼女を傷付けたりせぬようにと警戒をしております』
かのじょ?
かのじょってだれをさしてんだ?
『しかし、今の新選組はお上にも知られる存在ではありませんか』
『有難い事に』
『なれば、ぜひともその愛妻殿に会わせて頂きたい』
『…あ、会わせる?』
『今の新選組の副長殿の妻に手を出そうなどと考える輩はそうそう居りますまい。でしたらもうお披露目をされても宜しいでしょう?』
『ま、まあ確かに』
『土方殿がそこまでして護られる奥方だ。大層素晴らしい方なのでしょうな』
『そ、それは…もう』
こんどうさん…。
たのむから、こんどうさん…。
『その奥方にお引き合わせ頂ければ、うちの娘も今回の見合い話を諦めましょう』
『な…成程』
……せきにん、とってくれよ。
『は…はっはっは…ト、トシ』
ああ、間違っていた。
ものすごく間違っていた。
助けを求めた相手を間違っていた。
そして、どうしようもない事に今、正に助けを求め返されている。
「………(勘弁してくれ…)」
「土方殿?」
「………き、機会があれば」
「では10日後では如何ですかな?」
「とっ10日後?」
突然の顔見せの日にちの指定。
土方には恋人と呼べる者もいなければ当然妻もいない。
なのに10日後に会わせろと正面の男は言う。
「うちの店が主催しまして、茶会を毎年梅の下でやっておりましてな。それに土方殿夫妻をご招待させて頂きたく思います」
「はぁ」
「もちろんうちの娘も参加しますので、その際に奥方の御拝顔叶えばと」
「…茶会、ですか」
「堅苦しい物ではございませんので、お気軽に御参加下さいませ」
「大きな捕り物などがなければ…喜んで参加させて頂きます…(どうすんだよっ!)」
「それは楽しみですな。詳しい日時などは後日屯所の方へ招待状と共にお届けいたします」
もうここまで来ると愛想笑もいいところだ。
目の前の男はきっと土方に妻がいないのだろうという事は薄々感づいているはずだ。
それでもこうなっては土方も引くわけにはいかない。
「どちらかに別宅をお構えでしたらそちらにお送りした方が?」
「いえ、訳あってそいつも屯所に居りますのでそちらにお願い致します」
「承知致しました。しかし、新選組屯所は女人禁制と伺った事がございますが?」
「…ええ。事情がありまして(どうすんだ…俺ぁ外に家なんざ持ってねぇぞ)」
「いやしかし、土方殿が愛妻家でいらっしゃったとは」
「……お恥ずかしい(いつ誰が言ったっ?愛妻家だなんて誰が言った!?)」
「流石のトシも彼女には弱いですからな」
「こ…近藤さん(要らん事を口にしてくれるなーーーっ!)」
「これはこれは。茶会が本当に楽しみになりました」
「え…えぇ、私も、ですよ。それでは、そろそろお暇させて頂きます。な、近藤さん」
「ああそうしよう。それでは御主人。これからも良しなに」
「こちらこそ」
頭を下げて、通されていた座敷を後にする。
足早にそこの屋敷を出ると、思わず土方は近藤に掴みかかる。
「どうすんだ?どーすんだよっ近藤さんっっ!?」
「お、落ち着けトシ」
「落ち着いてなんかいられるか!」
「取り敢えず屯所に戻ろう、な、トシ」
「近藤さん!」
まぁまぁと背中を押されながら屯所への帰路につく。
その間もずっと頭を抱えるしか出来ない土方。
(本当にどうすんだよ…。これで実はでまかせだったなんて言ってみろ)
ちらりといつの間にか前を歩いている近藤の背中を見る。
(新選組の評判はがた落ちだな…)
はぁぁ、と深い溜め息を吐くしかない。
こんな事なら最初からきっぱりと断るべきだった。
(第一あの主人も主人だ。あれはこっちが何とか見合いを断ろうとしてでまかせ言っているのに気付いてやがった)
今日訪れた問屋『島津屋』はそれなりに京でも力を持っている方だ。
主人が江戸生まれということもあって、新選組にも協力的でかなりの額を出資してくれている。
今あそこと手を切るのは得策ではないと重々承知している。
だが。
「近藤さん」
「すまんと言っているだろう、トシ」
「本当にどうすんだよ」
「諦めてお嬢さんを頂くか?」
「本気で言ってんなら流石の俺も切れるぞ」
「…すまん」
「ったく…島津屋は上にも繋がりを持っていると噂があるくらいでかい問屋だ。そこと険悪になるのは避けてぇんだけどよ…」
「一人娘のお染殿はお前にご執心らしいからなぁ」
「謹んで辞退申し上げる」
「…トシ。所帯を持つのは悪いことではないぞ?」
「話が違うぞ」
「トシもそろそろ妻を娶ってもいいだろう?」
「近藤さん……」
「俺はトシにも所帯を持つ幸せを知って欲しい。いい嫁さんを探してやろうか?」
「あのなぁ、今はそんな事より10日後の茶会だろうが…どうやって乗り切るんだよ」
「トシに好いた女子がおればなぁ…」
「新選組副長の女房が務まる女なんか早々いねぇだろ」
何度目かの溜め息を吐きながら、屯所の門を潜った。
「何時どんな危険な目に会うとも知れないのによ」
「…トシは妻を護って生きて行こうという気概もないのか?」
「何時だって傍に居られる訳じゃねぇだろうが」
近藤の言葉に少々ムッとしながら土方は言う。
「自分の身も護れないようなそん所そこらのお嬢様じゃ、俺にとってはただの重荷だ」
「トシの事を理解し、甲斐甲斐しく世話を焼き、何かあっても動じる事無く対応できる女子か」
「そこまで言ってねぇだろ…」
「だが、そういう事だろう?」
「ん…まぁな…。まぁ、それに料理が出来て掃除や洗濯の手際も良くて、気立てのいい江戸の女なら考えもするけどな」
「トシの理想は高いな…」
「ったりめーだ」
「今からそんな娘を探すのは骨を折りそうだな」
「代役を立てるにも付け焼刃じゃ直ぐにばれるだろ?…どうすんだよって、振り出しに戻るのか…」
「戻ったなぁ」
いつの間にか近藤の部屋の前まで来ていた二人は揃って溜め息を吐いた。
「トシが嫁を貰う気があればな」
「さっきの条件を満たす女がいるなら俺は間違いなく惚れるな。嫁に貰ってもいい」
「…?」
「どうした、近藤さん」
「いや、部屋の中に人の気配が」
「総司じゃねぇのか?」
「総司は俺がいないときに勝手に入り込んだりはせんよ」
「……俺の部屋にはよく出入りしているがな」
「好かれとるな」
「真顔で言うな…じゃなくて」
「…開けてみるか」
近藤はそういうとスッと襖を引いた。
間者とも考えられるので左手では鯉口を切っている。
が、それが杞憂だった事は直ぐに分かった。
そこは見慣れた自室で、本来なら誰もいない。
だが今日は床の間の前に、こちらに背を向けた人物が一人そこにいた。
よく見知った姿だ。
「雪村君?」
「んだよ、千鶴か…」
二人の呼びかけに彼女は反応しなかった。
その珍しい様子に気配を思わず消して背後に忍び寄る。
そして千鶴の前方に視線をやれば、そこには綺麗に生けられた花があった。
「ほ~お!これはまた見事な物だな」
「っっ!?」
背後から突然かけられた声に千鶴が思い切り身体を震わせた。
「こっ…近藤さんっ?それに土方さんも」
「ああ、驚かせてしまったね。すまんすまん」
「お、お帰りになっていたのですね。すみません。私、気が付かなくて」
バクバクと胸を打つ心の臓を深呼吸する事で少し抑え、握っていた鋏を置くと千鶴は膝を付いたまま身体ごと振り返った。
そしてスッと綺麗な所作で三つ指をつくとゆっくりと頭を下げた。
「お帰りなさいませ、近藤さん土方さん。お疲れ様でした」
そう言ってあげた顔は彼女らしい優しい笑顔。
「御近所の方からお花を頂きましたので局長室に飾りたいなと思って。井上さんにお部屋に入る許可を頂いたんです」
勝手をしてすみませんと謝る千鶴に近藤は笑顔を向ける。
「そうだったのか。ありがとう、とても心が和むよ」
「良かった」
「しかし驚いたな。雪村君は花を生けるのも上手い。素人の俺でもこれが見事な物である事は分かるぞ」
「いえ、そんな」
「習い事をしていたのかね?」
「江戸にいる頃に少し…。父がどこにお嫁に行っても私が恥ずかしい思いをしなくて済む様にと、いつくか学ばせてくれました」
「ほう。…ん?」
何か思い付いた様に近藤が顎に手をやる。
「雪村君…」
「はい」
「雪村君っっ!」
「え?あ、はい!」
「雪村君はトシの理想の女子だっ」
「え?えぇっ?」
「トシの理想の女子はここに居ったではないかっ!しかもトシが言った様に屯所で共に暮しとる!!」
「ちょっ、あんた何言ってんのか分かってんのか近藤さんっ!」
千鶴の前に膝を付き、しっかりと手を握った近藤が声高らかに言った。
「雪村君、君にトシの嫁になって欲しい!!」
続く