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不思議な千鶴ちゃんの後編です。
一応ここで終わってはいますが、事件?はなにも解決されていません(汗)
(そもそも事件なのか?)
この設定で時々シリーズ物として書いていきたいと思ってます。

本日『薄桜鬼検索』様に本登録して頂いたお陰で、一気に沢山のお客様に来て頂けてとても嬉しいです。
頑張って運営していきたいと思います!
拍手もありがとうございます☆


後編は右下からどうぞ!


 

 

 

 取り敢えず、夕餉を取ろうと箸を握った。
 食べ難いだろうと、沖田の膝からは下ろされていた千鶴は困惑する。

「あれ?」
「どうしたの?」

 隣にいた沖田が酒の入った杯を口につけながら見下ろしてくる。

「おはちが、へんなんでしゅ」
「お…おはち、ぷっ」
「もー、おきたしゃん!」
「ごめんごめん。で、お箸が変って?」

 千鶴は箸を握った手を沖田に向けて伸ばす。

「おはちがしゅごくもちにくいんでしゅけど…」
「……小さい子って大抵お箸は握り締めてるもんねぇ。指が短いから持ちにくいんだよきっと」
「しょういえばしょうでしゅね」
「明日、子供用のお箸買ってきてあげるよ」

 僕巡察だから、と彼は言った。

「いえ、しゃんなんしゃんはいちにちとおっしゃってまちたから、こえでがまんちましゅ」
「約1日、だよ?」
「あい」
「や・く、だからね?」
「……あちたはもどやないかもちれない・・・でしゅか?」
「ん~、どうだろう」

 沖田の満面の笑みに千鶴は泣きたくなる。
 彼はこの状態を心底楽しんでいるようだ。

「取り敢えず、今夜は刺しちゃいなよ。行儀が悪いとか誰も言えないから」
「しょうでしゅね…はぁ」

 千鶴は溜め息を吐いて、お茶碗を持とうとしたが…。

「今度はどうしたの?」
「おちゃわんが……」
「お茶碗が?」
「……おもくてかたてやともちあがやなんでしゅけど…」
「ぶふっ」
「ちいしゃいこっていがいとちゃいへんなんでしゅねぇ…」

 沖田は蹲り、腹を抱えて悶絶しているので、返事はもはや期待せず千鶴は呟いた。

「ゆ、雪村」

 沖田とは反対側に座る斎藤に呼ばれた千鶴は、彼を見上げる。
 斎藤は千鶴と目が合うとまた固まりかけたが、一度大きく呼吸をすると言葉を続けた。

「おかずを食べ易く切ってやる、箸を貸せ」
「あい」
「……明日は…」
「しゃいとうしゃん?」
「朝餉は俺が食事当番ゆえ、もう少し食べ易いようにしておいてやる」
「あいがとぉごじゃいましゅ」

 にっこりと微笑むその姿は、いつもの彼女とあまり変わらない様な気がした。
 
(幼い頃と笑顔が変わらないというのは…彼女が成長しても純真で無垢だという事か)

 しかし口には出さない方がいいと思い、口は閉ざしたまま千鶴の膳に手を伸ばす。
 今日のおかずは里芋の煮付けだ。
 それを斎藤が小さくしてやり、それが終わると千鶴に箸を返した。

「碗はもうそのまま置いて食べた方が良い。落とせば怪我をする」
「あい」

 千鶴は沖田と斎藤に言われたとおり、おかずを箸に刺しそれを口に運んだ。
 ご飯も何とか掬う様にして食んだ。
 仕方ない。
 こうして食べるしかないようだ。
 もぐもぐと口を動かしながら、ふと前を見る。
 そこには未だに固まっている永倉と、今にも泣き出しそうな藤堂、何とか食事を始めてはいるものの千鶴を凝視している原田が。
 そして沖田の向こうを見れば井上が哀れみの眼差しでこちらを見ていた。

「えと…」

 何だか食べ難い。
 それに、泣き出しそうな藤堂も気になる。

「みなしゃん、といあえじゅおしょくじをなしゃってくだしゃい」

 千鶴がそう言った時、突然藤堂が立ち上がり彼女の前に来ると額を床にぶつけた。
 勢いはかなりあったが、土下座しているようだ。

「ちっ千鶴っっ!」
「あ、あい!」
「ごめんっっ!」
「へーしゅけくん?」
「俺が山南さん呼んで来てって言ったばっかりにっ!」

 そう。
 そもそも、千鶴が山南の部屋を訪ねたのは、食事当番の平助に彼を呼んで来て欲しいと頼まれたからだった。
 平助に頼まれなければ千鶴は元の姿だったのかもしれない。
 しかし、山南の口ぶりからすると遅かれ早かれ千鶴はあの飴玉を飲まされていただろう。

「へーしゅけくんはわゆくないよ?」
「けどっ!」
「しゃんなんしゃんはもどえゆっていってちゃかや、だいじょぉぶよ……ちゃぶん」
「千鶴ぅ~」
「ごはんちゃべて?ひえちゃうよ」
「千鶴の着物は明日俺が買いに行って来る!」
「へーしゅけくん!?」
「頼むっ、そんくらいはさせてくれ!」
「平助がそう言ってるんだから、頼んであげたら?」

 右を見上げれば、笑いが落ち着いて起き上がっていた沖田がそう言った。

「好みの色を教えておくといい。そうすれば平助も選びやすいだろう」

 左を見上げれば、普段よりも穏やかな表情の斎藤がそう言った。
 そしてそのまま視線を右にずらすと、近藤と土方がうんうんと頷いているのが目に入る。
 これは頼んだ方がいいのかもしれない。

「ほんちょにいいの?」
「ああ!」
「じゃぁね、ももいよのおきものがいいなぁ。むかちのおきにいりがしょんないよやったの」
「桃色な!分かったっ」
「おかねは?」
「心配すんなって」
「むいちないでね?」
「明日朝一で行って来るな!」
「あいがちょお」

 へへっと藤堂は笑うとやっと自分の席に戻り食事を始めた。
 しかし、どうやらその隣人はまだ固まっているようだ。

「……ながくやしゃーん、おしょくじなしゃってくやしゃーい」
「ぅえっ!?う、ああああ、ああ、食べる」
「こえでみなしゃんうごきだちまちたね」

 千鶴は里芋を箸に刺し、口に運ぶ。
 身体が小さくなった以外には特に不調も感じられない。
 ここはもう山南の言葉を信じるしかない。
 味噌汁を飲む為にお箸を置いて、汁碗を両手で挟んで持ち上げる。
 少し冷めている様で、持ち易いのが助かった。
 が、大きい。

「あのぉ、いのうえしゃん…」
「ああ、私かい?何かな雪村君」
「きょおのごはん、のこちてもいいでしゅか?しゃしゅがにはいやないきが…」

 食事の事に関して、一番厳しいのは井上だ。
 食べ物を粗末にしてはいけないと、幹部を含む隊士達に懇々と言い聞かせている人だ。
 怒らせるとかなりおっかない。

「ああ、それは仕方がない。明日の朝は少し量を減らしてもらわないといけないね。頼んだよ斎藤君」
「承知しています」

 千鶴はほっとした顔をする。

「ちーづる」
「はりゃだしゃん?」
「残ったもんは新八の器に入れとけ。片付けてくれるさ」
「おお、任せときな」
「あいがちょぉごじゃいましゅ」

 原田も永倉もどうやら落ち着いたようだ。
 

 新選組に出会った最初の頃は、これから先自分はどうなっていくのかとても不安だった。
 でも今は。

「千鶴ちゃん、こぼしちゃうよ?」
「雪村、口をつける前に新八の器に汁物を移して来よう、貸してみろ」
「お、んじゃちょっと待ってな………ん、よし移してくれ」
「桃色の着物かぁ。桜柄とかあると似合いそうだよな、平助?」
「ったく。平助、後で俺の部屋に来い。仕方ねぇから少し手出ししてやる」
「マジで!やーりぃ、助かるよ土方さん!左之さんの意見も参考にする~」

 なぜだろう。
 どんな状態でもきっと大丈夫だって思えてしまう。

「雪村君、何も心配は要らんぞ」
「あい、こんどぉしゃん」
「どんな姿であろうと我らが君を守るからな!」

 とても嬉しい言葉を貰って、

「あいっ!」

 千鶴も元気良く返事をした。

 

 

 

取り敢えず、終わり。
(シリーズで続きます)

 

 

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