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GWは頑張るぞ、ということで、10万HITお礼企画で募ったリクエスト小説です。

はるか様より頂きましたリクエスト。
 『It's a wonderful life?:新選組オール』
 屯所時代でギャグっぽいの

でございます。
【wonderful】には不思議なさまという意味もあるようなので、そっち系で。
ギャグという物は難しいですね…。
何だか方向性を誤ったかもしれません…。

そんな小説は右下からどうぞ。






『It's a wonderful life?』


 まだ薄暗い、早朝。

「千鶴ちゃん、君朝餉の当番なんだけど。千鶴ちゃーん」

 千鶴の部屋の前で、一応伺いをたてる沖田がいた。
 だが、その声はとても小さい。

「ちゃんと呼んだからね、入るよ?」

 そう告げた声もやはり小さい。
 障子戸に手を掛け静かにそれを横に引く。
 すると想像通りの姿がそこにあった。

「全く、お寝坊さんにも程があるね」

 部屋の中央に敷かれた布団にはまだこんもりとした山がある。
 その姿に少し違和感を覚えた沖田はこっそり近付き、静かに布団を剥がす。
 布団に中には小さく身体を丸めた千鶴が眠っていた。

「千鶴ちゃんがこんな風に眠るなんて…珍しいな」

 面倒だなんだと言いながらも、実は物凄く楽しみながらかなりの頻度で千鶴を起こしに来る沖田は、彼女が大体どんな風に眠っているのかは知っている。
 横を向いたりとかはあってもこんな風に布団の中央まで潜り込んで丸まっている寝姿は初めてだ。

「ま、いっか。千鶴ちゃん、千鶴ちゃんってば」

 千鶴の身体を揺らし起床を促す。
 いつもなら直ぐに驚いたように目を覚ますのだが、今日はどうも違う。
 ゆったりと、まどろむ様に身体を起こしぼんやりしたまま正面の沖田をじっと見詰めてきた。

「お早う、お寝坊さん。全く君って学習能力って物がないのかな?」

 嫌味を含めた言葉を笑顔で投げかけるが、青褪める様子も無い。
 それどころか、まるで猫の様に背筋を伸ばし、四つんばいのまま沖田の方へ近付くとその膝に手を乗せ、

「にゃ~ん」

 と、鳴いた。

「は?」
「にゃ~」
「ちょ、ちょっと、千鶴ちゃん?」

 思ってもみなかった千鶴の行動に、さしもの沖田も動揺してしまう。
 膝の上に手を乗せてきた千鶴は沖田の顎の下辺りに頭を摺り寄せてくる。

(木から落ちた時にどこか打ったのかな?)

 昨日、八木家の子供達にせがまれた千鶴は、木の上に登ったまま降りられなくなった仔猫を助けるために慣れない木登りをしたらしい。
 何とか無事に仔猫は捕まえられたものの、下りる際に足を滑らし、落ちてしまったという。
 気を失った千鶴を巡察から帰って来たばかりの原田が見付けすぐに部屋に運び介抱したところ、夜中に一度目を覚ましそのまままた眠ったと聞いた。
 助けられた仔猫は八木家の子供達が連れて行ったらしいが。

 と、考えていた時。
 沖田の顎をぺろりと千鶴が舐めてきた。

「ち、千鶴ちゃん?」
「にゃあぉ」
「ふざけてるわけじゃないよね?」
「にゃ」

 顔を近付けて来たかと思うと、今度は頬をぺろりと舐めた。
 それも続けざまに何度も舐めてくる。

「ちょっと、あははっ。くすぐったいよ」

 まるでそれは甘えてくる猫の様だ。

「…猫?」
「にゃぁ」
「……………まさかね?」

 ありえない想像をしてしまった沖田だったが、何故か全力で否定も出来ない。
 普段なら絶対にありえない千鶴の行動。
 しかもその口から出るのは猫の鳴き声を模した物。
 ごろごろを喉を鳴らしてきそうな千鶴が沖田にのしかかり、

「え、うわっ」

 予想しようもない事態に、身体の均衡を崩した沖田はそのまま後ろに倒れてしまった。
 千鶴はそんな沖田に乗っかったままだ。
 嬉しそうに鳴いた千鶴はなおも沖田に顔を寄せ、ぺろぺろと舐めては顔を摺り寄せてくる。

「どうしよう…ちょっと可愛いかも」

 千鶴の背に手を回し優しくなでてやれば、更に擦り寄ってくる。
 頬を舐めていた舌が沖田の唇に近付いたその時。

「なっ何をしているっっ!?」

 怒った様な戸惑っている様なそんな声が、開けっ放しの戸の向こうから掛けられた。

「にゃ」
「あ、一君。おはよ」
「おっお早うではない!総司、貴様何をしているっ!」
「何って…」

 自分の上に乗りかかったままの千鶴を見て、斉藤の顔を見る。

「千鶴ちゃんに押し倒されてるとこ」
「何を出鱈目な事をっ」
「これ、どう見ても千鶴ちゃんが僕の上に乗ってるでしょ」
「にゃぁ~ん」
「ゆ、雪村もいい加減総司からおり…にゃあん?」
「にゃっ」
「うっ」

 沖田の呻きと共に千鶴は斎藤に飛び掛った。

「なっ!?」
「にゃお」
「雪村?」

 千鶴に踏みつけられた腹を擦りながら沖田が身体を起こす。

「酷いなぁ千鶴ちゃん。この僕を踏み台にするなんて」

 文句を言う沖田を気にする事もなく、今度は斎藤に擦り寄っていた。
 訳が分からない斎藤はされるがままである。
 沖田の様にそれを楽しむ事などできるはずも無く。

「丁度良かった、暫くその千鶴ちゃん宜しくね」
「なっなっ」
「言いたい事は分かるんだけど、僕にも確証って物がなくてね。ちょっと調べてくる」
「総司っ?」
「猫だと思って接するといいよ」

 じゃあ宜しく~と沖田は戸を閉めて出て行ってしまった。

「ね、猫?」
「にゃお」
「雪村…こ、これは一体…」
「な~ん」

 沖田の様に押し倒されてしまってはと、畳の上に正座をした斎藤の顎の下に千鶴が頭を摺り寄せる。
 この甘える様子は、確かに猫そのものだが…。

「……………まさ…か、な」

 何となく、何となくなのだが、この甘え方には覚えがある。
 いつも自分の姿を見つけると足元に擦り寄ってきて、膝を着いてやれば嬉しそうにそこに乗ってきてこうして顎の下に頭を摺り寄せて来る。

「にゃぁ~お」 
「………」
「んにゃあ」
「………………こゆき…」
「にゃっ」
「………冗談だと…言ってくれ…」

 斎藤が口にしたのは、雨に打たれていた姿を見てしまい思わず助けてしまった仔猫の名前。
 その肢体は真っ白で迷わず雪を連想させるほどの仔猫…故に何となく、こゆきと呼ぶようになっていた。
 名を付けてしまうと情が沸くのが必定。
 斎藤もそれに漏れる事なく、こっそりと餌を与えたりしていた…のだが。
 ゴロゴロと喉を鳴らしていそうな千鶴の背をそっと撫でる。
 すると千鶴は嬉しそうに目を細めた。

「こ、こゆき?」
「にゃお」

 名を呼んでやればいつもの様に返事が返って来る。

「夢であってくれ」
「夢がなん…だっ!?―――さ、斎藤っっ!?」
「左…之…」

 千鶴に擦り寄られている姿を騒ぎを聞きつけた原田に見られてしまうが、半放心状態の斎藤はただ顔を上げるだけで動けなかった。

「うわっ、一君何やってんだよっっ!?」
「おいおいマジかよ斎藤っ!」

 そして原田の後ろから騒がしい声がもう二つ発せられる。

「……俺も…よく分からん。そもそも始めにここに居たのは総司だ」
「にゃあ」

 三人の大きな声に驚いたのか、千鶴は斎藤の背後に回りこむ。
 そんな千鶴の様子に3人は首を傾げた。

「つか、千鶴だよな?」
「………今…千鶴さ、にゃあって言わなかった?」
「何かの新しい遊びか、千鶴ちゃんよ。…総司に何か言われたとか?」
「にゃあ~ん」

 畳に両手を付いた千鶴が斎藤の背中に身体ごと擦り寄る。
 そんな可愛らしい行為を斎藤は動かず受け止めている…様に見える。

「さ、斎藤…こりゃどういう状況だ?」
「左之」
「んん?」
「俺はこういった事には慣れておらぬ故どう対処、否、対応してよいのか皆目検討も付かん…頼む、後生だ、代わってくれ」

 斎藤は動かないのではなく動けないようだ。

「代わるって言ってもなぁ…ずいぶんおめぇに懐いてる様に見えるが」
「一君っ説明してくれよ!何で?どうしてだよ!何時の間に千鶴とそういう関係になったんだよっっ!俺聞いてねぇしっっ!!」

 そういう関係とはどういう関係なのだと斎藤が溜め息を吐いた。

「おーい千鶴ちゃん。なんか悪いもん食ったか?」

 永倉がそう言って千鶴の方に手を伸ばす、と。

 パシンッ

 という音と共にその手が千鶴によって叩かれてしまった。

「左之」
「んだよ、新八」
「俺…気付かないうちに千鶴ちゃんに嫌われることしちまったか?」
「知らねぇよ、んなの。けど、明らかに様子が変だな。見かけは千鶴だが中身は猫みてぇだ」
「……やはりそう感じるか?」
「そう言うって事は一君もそう思ってるわけ?」
「名を呼ぶと…返事をする」
「名って?」
「……………こゆき」
「なぁ~ん」

 斎藤に呼ばれ千鶴が鳴いて返事をする。

「こゆきって、お前がこっそり世話してる真っ白い猫か?」
「一君が餌やってる白猫のこゆき?」
「お前が可愛がってる白猫か!」

 3人がほぼ同時に思い当たった事を口にした。
 斎藤は誰にも見付からない様にと細心の注意を払っていたのだが…どうやらバレバレのようだ。

「な、何故それを…」
「君が仕事以外では隠し事なんて出来ないって事でしょ。って言うか近藤さんも知ってるし」

 ただいま、と沖田が部屋に戻ってきた。

「はい、この子が件のこゆきちゃん」

 その腕には真っ白い仔猫が抱かれていた。
 だが、何故だろう。
 斎藤の方を見詰めたまま固まっている様に見えるのだが…。

「勇坊のところから連れてきたんだ」
「総司、その猫はもしかして昨日千鶴が助けた猫か?」
「そう。そして中身が千鶴ちゃん」

「「「「は?」」」」

「見事に揃ったね。証拠見せてあげようか?」

 沖田はそういうと腕の中の子猫を自分の方に向けて抱えなおす。

「可愛くなった君に口付けしてあげる」
「にゃ…にゃおにゃにゃん?」
「可愛いね、千鶴ちゃん」
「にゃっっ!?」
「いくよ~」

 白猫に沖田が顔を近付けると小さな前足がピンと伸ばされ沖田の顔を押し返した。

「にゃにゃ~っっ!!」

 どうやら必死に抵抗しているようだ。

「ほらね?」

 何故だか勝ち誇ったような笑みを浮かべる沖田に4人がその猫を凝視した。

「ち、千鶴なのか?」
「にゃん」
「本当に千鶴ちゃんか?」
「にゃん」
「またなんとも可愛い姿になっちまったな千鶴」
「にゃーーーん」
「ではやはり…こっちの千鶴は…こゆきなのだな?」
「にゃー」
「なぁ~ん」

 千鶴の姿をしたこゆきは斎藤に名を呼ばれ気を良くしたのか彼の膝に頭を乗せるようにしてころんと転がった。

「そっちの千鶴ちゃんは君に懐いてるから責任持って君がお世話してよね、一君」
「総司っ?」
「こっちの千鶴ちゃんは僕が面倒見てあげる」
「にゃん?」
「僕猫好きだし、心配しないで」
「にゃ…にゃ…にゃにゃ~んっっ!」
「あはは、そんなに喜ばないでよ」
「にゃにゃーーーっっ」
「もう本当に可愛いよね」
「にゃーにゃーーーーーっっ!」

 沖田に捕らえられた猫の千鶴は必死にもがき彼から逃げようとした。
 しかしこの姿で敵う筈もなく。
 斎藤の膝の上で甘える自分の姿を見ながら………

 

 

「元に戻してーーーっっ」

 と、飛び起きた。

「元…元に…え?」

 思わずペタペタと自分の頬を触る。
 手触りは人の肌だ。
 触った掌も肉球では無く人間の手だった。

「ゆ…夢?」

 周りを見回せば、見慣れた自分の部屋だ。

「ゆめだぁ…よかったぁ…」

 千鶴は大きく息を吐いた。
 障子の方に目をやるともう外が白んできている事が分かる。
 そろそろ明六ツ頃だろうか。

「すごい夢を見ちゃった…」

 昨日、確かに千鶴は木から下りられなくなった猫を助けた。
 だが落ちて気を失うこともなければ、助けた猫も真っ白な雌猫では無く真っ黒な毛並みを持つ雄猫だった。

「なんて夢…夢でよかったぁ…」

 ほっと一安心したその時。

  なぁ~ん

 と障子戸の向こうから猫の鳴き声がした。

「え?」

 まさか、と思いつつ四つん這いでそこへ近付き障子戸を開ける。
 すると目の前には黒猫がちょこんとお座りをしていた。

「昨日の猫ちゃん?」
 
  な~ん

「お礼を言いに来て…くれたの?」

  な~お

「そう」

 ありがとうとその猫に告げる為に唇を動かした時。

「あ、歳三そんなところに居たの?」

 沖田の声が聞こえてきた。

「あれ、今朝は早起きさんだね千鶴ちゃん」
「お、沖田さん…」
「何?」
「今…この猫ちゃんを…と、と、歳三って」
「うん、だってこの子どう見ても土方さんでしょ?」

 この目付きの悪さとか真っ黒いとことかと沖田が言うが千鶴の耳にはまったく入っていなかった。
 夢だと思っていた事が、別の形で現実になってしまったと絶望感に打ちひしがれる。

「う…」
「う?どうしたの千鶴ちゃ」
「うわぁぁんっっ!土方さんが土方さんがっっ!」
「え、ええっ!?何??」
「猫ちゃんになってしまいましたぁーーーっっ」
「はぁ?」
「うわぁ~んっ!」

 夢と現がごちゃ混ぜ状態の寝起きの千鶴は目の前にいた黒猫を抱きしめて泣き始めた。


 その後。
 騒ぎを聞きつけてきた土方に、

『俺は猫じゃねぇっ!つーか人の名前を猫につけるなって何度いや聞くんだ総司っっ!!』

 と怒鳴られるまで、その状態が続いたという…。

 

 

終わり



 

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