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まずはリンゴ様より頂きましたリクエスト。
『願わくば 花の元にて:土千』
本編ED後、子供無しの切甘であだると匂わせ
でございます。
当初考えていたストーリーとかけ離れてしまいまして…。
ゲストで『あの人』が出てきちゃった所為でそれまで考えていたものが綺麗にリセットされてしまいました(苦笑)
時間もかかってしまいましたが、お気に召して頂けると嬉しいです。
小説は右下からどうぞ。
『願わくば 花の元にて:土千』
「う……ん………さむ…い…」
夜中に寒さを覚え、千鶴は珍しく目を覚ました。
あの意地と志をかけた戦いが終わって初めて迎えた桜の季節。
この北の地にも遅めの春が訪れていた。
だが、温かくなったのは昼間だけで、陽が暮れてしまえば気温はぐっと下がる。
「………?」
それでも、この蝦夷の地に住まうようになって寒さで目が覚めたのは久しぶりかもしれない。
いつもなら、朝までぬくぬくとぐっすり眠れるから。
寒くない様にと、あの人の腕の中に包まれていたから。
「とし…ぞうさん?」
彼に望まれて夫婦となった。
夫婦となってからは同衾が普通となり、身体を交えぬ夜でもずっと抱きしめてくれていた人が…いない。
「歳三さん?…歳三さん!」
眠る前。
歳三は確かに千鶴のすぐ隣りにいた。
それなのにその姿がない。
どくんっと嫌な音をたてる心の臓。
呼吸をするのも辛く感じる。
それでも、カタカタと小刻みに震え出した手で、彼がいたはずの場所を触った。
「つめ…たい…」
現状が示すのは、彼がここを離れて大分経つという事。
それは、千鶴が一番…心の奥底で恐れていた事ではないのか?
「歳三さんっっ!」
弾かれた様に千鶴は立ち上がり、そう広くはない家の中を探し回る。
彼の名を呼びながら必死になって呼んで回るが、返事は無かった。
姿が見えない。
「歳三さんっっ!歳三さんっっ!!」
まさか、という予感がよぎる。
彼は変若水を飲み羅刹となった人だ。
羅刹の力を使っていた以上、いつか別れがくるのは必死。
それはきっとこんな風に突然なんだろう。
「嫌ですっ、こんなの嫌ですっ!」
それでもこんな別れ方は絶対に嫌だと千鶴は叫ぶ。
寝間に使っている部屋に飛び込みもう一度布団に触れた。
やはり冷たい。
ふと、濡れた頬に冷たい風を感じた。
顔を上げれば、外に続く障子戸が少し開いている。
隙間風が入らないようにいつもきっちり閉めていたはずの戸に不自然さを感じ、千鶴は立ち上がるとそれを開いた。
「歳三さ…ん?」
縁に出て、地面を見下ろす。
そこにあるはずの草履が一足なかった。
「外?…歳三さんっ!いらっしゃいますかっ?」
思わず裸足のまま飛び出す。
家の周りにはいない。
足に伝わる地面の冷たさなど気にしている余裕はない。
ただ心が思う方向へと駆け出していた。
空に懸かる月は望月で、この夜道を明るく照らしていた。
息を切らせながらただ真っ直ぐに駆けて行く。
どうしてこちらなのかは分からないが、こっちだと直感が告げていた。
だが一度も休む事なく駆けていた千鶴の足が止まる。
進んで行った道が二つに分かれていたのだ。
「どうしよう…分からない……」
右か、左か。
それまでは迷う事なく進めていたのに、なぜここに来て足が止まってしまったのだろう。
「歳三さん…いらっしゃいませんか…?歳三さん…」
呼んでも返事は返って来ない。
何故だか片方の道しか選べない気がして、どちらにも進めないでいた。
間違えば、きっとあの人に逢う事はできなくなる。
「どう…しよう…」
千鶴がそう呟いた時、一際強い風が吹き抜けてゆく。
「んっ」
寝巻きのままの千鶴にとって、身体に凍み込む冷たさだ。
だがそんな冷たい風の中にも僅かに温もりを感じ、思わず瞑っていた瞳をそっと開いて…言葉を失った。
「―――っ!」
まさか、そんな事あるはずがない。
そう思ってもそこから目を逸らす事ができない。
瞳を開いた千鶴の視線の先には、とても見覚えのある姿があった。
その人はただじっと千鶴を見詰め、暫くすると小さく溜め息をついたように見える。
そしてその人の唇が言葉を紡いだ。
『 』
告げられた言葉に戸惑いつつも千鶴は小さく頷く。
その姿が指差すのは己の立つ右の道ではなく、木々が生い茂り闇を作っている左の道。
望月の光はその道には届かない。
こくりと息を呑み、もう一度道を示してくれた人を振り返ったが。
「…いない…。………ありがとうございます」
先程見た姿は幻か。
だが確かに彼の人は千鶴の進むべき道を示してくれた。
だから深く頭を下げて。
お礼の言葉を唇に乗せて。
そしてまた、駆け出した。
迷っていた事が嘘の様に足が軽い。
暫く闇の中を走り続ければその先に光が見えた。
木々の作ったトンネルの様な道を抜けると、一気に視界が広がる。
「うわぁ…」
そこで千鶴が目にしたのは、先程まで木々によって遮られていた望月の光に満ちた場所。
淡く優しい光に照らし出されているのは満開の桜たち。
優しい風が吹きその枝を揺らすと、はらりはらりと花弁が舞う。
なんて幻想的な風景なのだろうと思わず見とれてしまった。
呆然と眺めていたその先に、一番大きな桜がある。
悠然とその枝を伸ばす姿は淡い光の中でより厳かに見える。
「あ…」
その桜の根元の方に、背中を幹に預け座り込んでいる人影がある。
静かに、千鶴はそこへと向かった。
近付けば、その人影が自分の愛しい人だと確認が取れた。
側に寄ろうと踏み出した先に小枝があり、ぱきんとそれが鳴る。
音に気が付いた彼がゆっくりと振り返った。
「…?」
「何…してるんですか」
「千鶴?」
「千鶴…じゃありませんっ!」
「…どうした?何かあったのか?」
「何かって…」
桜の根元にいた歳三は心底驚いた表情で彼女を見上げている。
「どれだけ心配したとっ!」
「…文机に手紙置いてたろ?」
「………え?」
「目が冴えちまってるから、散歩してくるって」
「う…そ…」
何とも言えない結末に千鶴はぺたりと地面に座り込んでしまった。
「俺がいなくなったと思って探しに来たのか?」
「…寒くて…目が覚めてしまって…」
「ああ…悪かったな」
「歳三さんが…消えてしまわれたのかと…思って…」
座り込んだ千鶴の瞳からぼろぼろと大きな涙が零れ出す。
「こんなに早く一人ぼっちにっなって…しまったのかと…怖くてっ…さみし…」
「千鶴…」
歳三は立ち上がり彼女の元へ近付くとその腕の中へ引き込んだ。
「すまねぇ…不安にさせちまったな」
「…よかった…歳三さんが…いらっしゃって……」
千鶴も縋り付く様に、夫の背中に腕を回した。
「悪かった」
「今度…は、起こして下さいね…。私もお散歩に誘って下さい」
「ああ、そうする」
涙を流す妻の頬をそっと包み、唇を寄せる。
「…冷てぇな」
重ねた唇を離し、眉を寄せて歳三が言った。
「すみません…」
「謝んのは俺だ。千鶴、木の下に移動するぞ」
「はい」
座り込んだまま抱きしめていた千鶴に手を貸し立ち上がらせると、二人して先程まで歳三の居た根元へと移動する。
寝巻き姿のままの千鶴を自分の羽織の中に招き入れ背後からそっと抱きしめた。
「こんな綺麗な場所があるなんて…知りませんでした」
歳三の腕の中から桜を見上げ、千鶴が言う。
「御存知だったのですか?」
「ん?…何となく歩いてたら…ここにいた。つか、お前もよく分かったな」
「…家を出た頃は迷う事なく進めたんですけど…ここに通じる分かれ道で…どちらか迷ったんです」
でも…と千鶴は歳三に甘えるように擦り寄り、
「教えて頂いたんです…歳三さんの居場所を」
そう言ってもう一度桜を見上げた。
「教えてって…誰にだよ」
「…懐かしい…方でした」
「……近藤さんか総司辺りが出てきたか?」
「いいえ」
「……じゃあ」
「風間さん…でした」
「か…ざま?」
「はい。…風間さんが暗くて光も届かない方の道を示して『お前の望むまま生きろ』と」
「あいつを倒したのも…こんなでけぇ桜の木の下だったな。んだよ…鬼をやめて桜の精にでもなったのか?」
「歳三さん」
「京にいた頃は千鶴千鶴って煩かったのによ」
「…そうでしたか?」
「気が付きゃ俺の命を付け狙ってやがったな」
「……なんだか、違っている気もしますけど…」
「まぁ結果、俺はお前を奪われずに済んだ」
「…はい。…道に迷った時…仙台に一人残された時の事が過ぎったんです…」
千鶴は胸の前で交差している土方の腕をそっと抱きこみ、静かに話す。
「歳三さんを……土方さんを追いかける道と…このまま別の誰かと添い遂げる道と。どちらが土方さんの為になるのかなって…」
「手前の為に生きろって…あの時言ったはずだがな」
「土方さんの為に生きる事が、私の為に生きる事だって、信じてましたから」
「お前って奴ぁ…馬鹿なくらい一途で…本当に馬鹿だよ」
「馬鹿馬鹿言わないで下さい」
「でもそんな馬鹿な女に心底惚れちまった俺は天下の大馬鹿だな」
「もうっ」
「膨れるな。睨んだって怖かねぇよ」
可愛いだけだ、とそう言って歳三は千鶴の肩に顔を埋め彼女に回していた腕に力を込めた。
「ひじ…歳三さん?」
「振り返るんじゃねぇ」
「え?」
「じっとしてろ」
「…ま…さか…」
歳三が言った言葉には覚えがある。
数年前、初めて血を与えたあの時に言われた言葉。
「発作…なんですか?」
「ばぁか、ちげぇよ」
答えた歳三の声は明るい。
だったらどうしたんですかと千鶴が聞く前に、歳三が顔を埋めていた首筋に吸い付いた。
「ひゃあっ!と、ととととっ歳三さんっっ!?」
「動くな」
「動くなって…―――っ!」
千鶴の胸の前にあった歳三の手が、最近その膨らみが主張してきた場所を下から掬い上げる。
「歳三さんっっ!!」
「俺の努力の賜物だよなぁ」
「なっなにをしみじみ仰って、って…やぁんっ」
「可愛いな、千鶴」
千鶴の首に熱い吐息がかかる。
「と、歳三さんっ」
「…お前が、欲しい」
「ふっふぇええっ!?」
歳三の手が更に動き出し千鶴はそれに抗えなくなる、が。
「千鶴」
「ひぅっ!…歳三さぁ…ん。手…冷たいです、からぁ」
「ならお前の身体で温めてく」
「温めませんっ!」
睦言の様な言葉と歳三の手を必死で跳ね除け、真っ赤な顔をした千鶴が涙目で睨んできた。
(だからよ…それが余計に俺を煽ってんだって。…可愛いんだよなぁ)
だが、これ以上苛めたら本気で怒らせてしまう。
愛しい妻を怒らせて悲しませる事だけは避けたいので、歳三は苦笑しながら羽織を脱いだ。
それを少し距離をとっていた千鶴の肩に掛けてやる。
「そろそろ帰るか」
「……はい」
「帰ったら続き、な」
「知りませんっ」
「逃がさねぇよ…つか、お前裸足じゃねぇか!」
「…飛び出して来ちゃいましたので…」
「……馬鹿」
「また馬鹿って…え?」
千鶴の身体がふわりと宙に浮く。
横抱きの形で歳三に抱き上げられたのだ。
「お、重いですよ」
「ったりめぇだろ、俺の大事な、愛おしい女の命だ。軽いわけがねぇ」
「歳三さん」
「黙って抱かれてろ。さぁ、帰るか」
「…はい。あ」
「ん?」
「桜が散る前に、またここに来ましょうね」
「あぁ」
家路に着いた二人の後方に、呆れた様な面倒臭そうな表情の男が現れた。
『貴様がこちらへ来るのはまだ早い…今暫くはその生にしがみ付いていろ』
ざあぁっと風が吹き花弁が舞い落ちる。
『薄桜鬼よ』
不意に、歳三が振り返る。
そこにあるのは満開の桜と、まるで吹雪のように舞う花弁。
「うるせぇ」
悪態を吐く様にそう零せば、抱き上げた千鶴が不思議そうに見上げてくる。
そんな彼女に何でもねぇと告げて、再び歩き出した。
終わり