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山崎君から左之さんへバトンタッチな話、です。
新八っつぁんまで行き着けなかった。
長くなりそうだったのでお兄さん組が揃う前に一度切りました。
左之さんって山崎君の事なんて呼んでたっけ?と悩みつつ『君』付けにしてみました。
違ったらすみません~。
小説を書く時はサントラ『息吹の天』がBGMです。
歌詞があるのはどうも集中できないので。
しかし、土方さんのテーマに来ると聞き入ってしまふ…。
そんな感じで今回も書いてみました☆
右下からどうぞ!
目が覚めた時、外から楽しそうな声が聞こえてきた。
聞き覚えのある男の声と、幼い女子の声。
「そうか、千鶴か…」
頭をぼりぼりとかきながら身体を起こす。
膝を付いたまま布団から出ると、そのまま庭に続く障子戸を少し開ける。
朝の光が射す庭先で、二人の人物が洗濯物を干していた。
監察方の山崎と、新選組預かりの千鶴だ。
総長である山南の実験台にされてしまった為に幼くなった千鶴。
昨夜も沖田が可愛い可愛いと連呼していたが、確かにあれは反則な程に可愛らしい。
「ったく、あんな姿になっても雑用を進んでしてんのか」
苦笑交じりに呟いて、自分も起きて着替えるかと行動を始めた。
着替えを終えて障子戸を開け庭を見ると、どうやら洗濯干しは終わったようだ。
山崎と千鶴が何か話しながら笑っている。
(山崎君があんなに笑うなんてな…)
二人の様子を戸の壁に背を預けたまま眺める。
千鶴がこの屯所に住むようになって、周りの男達も、もちろん自分も含めて大分変わった。
それはきっと良い事なのだと思う。
「あ、はりゃだしゃん。おあようごじゃいましゅ」
こちらに気付いた千鶴が挨拶と共に頭を下げた。
それに山崎も続く。
「原田組長、おはようございます」
「おはよーさん、二人とも」
「…いつからそちらに?」
「おいおい、山崎君。監察方ともあろう者が気配を感じ取れないってーのは不味いんじゃないか?」
意地悪っぽく言えば、山崎は眉間に皺を寄せ申し訳ありません、と小さく言う。
「冗談だって、ここに来たのはたった今だよ」
「そうなんですか」
「話し声が聞こえてたから、少し前から起きてはいたけどな」
「おこちてちまいまちたか?」
舌っ足らずの千鶴の物言いが、なんとも和む。
千鶴に向かい来い来いと手招きをすると、トテトテとこちらに向かって走ってきた。
(……これは可愛いなぁ)
「はりゃだしゃん?」
「ん…ああ、丁度良かったんだ、気にすんな」
「しょうでしゅか?」
「っても、もう起きて部屋にいない奴もいるけどな」
「しゃいとおしゃんとへーしゅけくんでしゅか?」
「まぁ、あいつらは飯当番だからな」
「ちがうんでしゅか?」
「新八だよ。早朝稽古に行ったみてぇだな」
「ながくやしゃんが?」
「まだ寝こけてる感じがするだろ?」
千鶴は困ったように笑い、次いでこくんと小さく頷いた。
「だろーな」
原田もそう言って笑った。
「今から俺も境内の方に行くところなんだ。千鶴も行ってみるか?」
「え、でも…おてやは」
「今はお前は近藤さんの知り合いの娘、だろ?」
「といあえじゅでしゅが」
「だったら、堂々としてりゃぁいい」
いつもは境内など、平隊士が集まる場所には行けない事になっている。
素性がばれるのは出来るだけ避けたいからだ。
しかし今はちょっと違う。
元の姿に戻るまでは、近藤が知り合いに押し切られてしまい数日預かるようになってしまった娘、というのが今の立場だ。
近藤は、それで皆が納得するだろうか?と心配していたが、多分問題はあるまい。
何せ、近藤だからだ。
人情に厚い彼ならば、押し切られても仕方ないと殆どの隊士がそう思う事だろう。
「折角その姿なんだ、いつも出来ない事をやってみるのも良いかもしれないな」
「やまじゃきしゃん」
「ここの片付けは良い。原田組長と行って来い」
「よよちいんでしゅか?」
「ああ」
「よっし、決まりだな。山崎君、千鶴を上げてくれ」
「はい」
山崎が千鶴を後ろから抱き上げそのまま彼に渡した。
原田は軽々と千鶴を左腕に乗せ草履を脱がせるとそれは山崎に渡した。
「雪村君、ご苦労様でした」
「おかたぢゅけおねがいちましゅ」
「後よろしくな」
「ええ」
千鶴は原田に抱っこされたまま、稽古場となっている壬生寺に行くため玄関へと向かった。
「さて、後は掃除をしておかないと彼女がまた動き出すだろうな」
二人の後姿を見送った後、山崎は苦笑と共にそう漏らした。
どのような姿であれ、千鶴は千鶴なのだから。
「あのぉ、はりゃだしゃん」
境内に向かうのは良いのだが、先程から自分の足で歩いていない。
玄関で赤い草履を履いた後も原田の左腕に乗せてもらっている状態だ。
「うん?どうした?」
抱っこのお陰で同じ顔の高さの二人の目が合う。
なんだか原田は上機嫌だ。
「わたち、じぶんであゆけましゅ…けど」
「まぁまぁ良いじゃねぇか。そうそうある機会じゃねぇんだし」
「しょうしょうあっちゃやこまいましゅ」
「だな」
そう言いつつも、下ろす気は彼にはないらしい。
しっかり抱かれているので居心地が悪いわけではないのだが、やはり男性の顔が近くにあるのは恥ずかしい。
外見は2~3歳児でも中身はいつもと同じ15歳。
恥ずかしいものは恥ずかしいのだ。
それを出来れば分かって欲しいのだけど。
「堂々と千鶴を連れ回れるのが嬉しいんだよ。諦めてくれ」
楽しそうな原田に結局強くは言えない。
幼い姿になって、この屯所内の近しい男達が何故か機嫌がいいのだ。
沖田はなんだか甲斐甲斐しく世話を焼いてくる。
いつもは無表情に近い斉藤もなんだか優しい目で見下ろしてくるし。
あの鬼の副長でさえ、寝る前に様子を見に来たうえ『さっさと寝ろよ』と優しく頭を撫でていった。
(男の人って分からないなぁ…中身はいつもの私なんだけど…)
微笑んだままの原田の顔をちらりと盗み見る。
(でも、喜んで下さってる…んだよね?)
千鶴の視線に気が付いた原田が笑みを返してくる。
「どうした、千鶴」
(なんだか微妙に複雑だけど約1日って山南さんも仰っていたし)
「にゃんでもあいましぇん」
「ははっ!にゃんでも、か。総司が聞いたら喜びそうだな」
「だいばくしょおでしゅよ…」
(私も楽しませてもらっていいのかなぁ)
少し気持ちの切り替わった千鶴は、威勢のいい声がして来る境内に原田に抱かれたまま入っていった。
続く…