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碧血録十八話を見て、沈み込んでいる月夜野です。
アニメにあんな展開が待ち構えていようとは…。
沖田君はともかく、左之さんに関しては心の準備が出来ておりませんでした…(涙)
そんな心境とは打って変わって、千鶴ちゃん更新しました。
今回は斎藤さんは心配性?です(笑)
小説は右下からどうぞ!
「すまんな。仕事があるから先に行くよ」
近藤がそう言いながら千鶴を自分の座布団の上に座らせて少し経つ。
同時に土方も席を立ち「ゆっくり食えよ」と千鶴の頭を撫でて出て行った。
朝の巡察当番である沖田と原田も準備の為、既にいない。
永倉も平隊士に稽古をつける為に一番に広間を出ていたし、先程までいた藤堂や井上も朝餉の片付けに動き始めていた。
つまり上座に一人残された状態の千鶴は、黙々と用意してもらった朝餉を胃の腑に納める事に専念していた。
思った以上に時間がかかってしまったが何とか残さずにすみ、膳の上に箸を戻す。
「おごちしょおしゃまでちた」
小さな手を合わせ千鶴がそう言うと、
「量は大丈夫だったか?」
静かに、彼女の食事が済むのを待っていてくれた斎藤が近くに座り尋ねて来た。
「ちょおどよかっちゃでしゅ。おしょくなっちぇしゅみましぇん」
「気にするな。…昼もそのぐらいの量で準備をしよう」
「え?でもおひるはしゃいとぉしゃんはおとぉばんじゃないでしゅよね?」
朝の食事当番だった斎藤が昼も当番になることは無い。
昼は確か…。
「わたちがおとぉばん…」
「その姿では無理だろう。今日俺は巡察も無い故、代わろう」
そう言いながら斎藤は千鶴の膳を引き寄せ持ち上げた。
「……おてちゅだいはちてもよりょちいでしゅか?」
「駄目だと言ってもそのつもりなのだろう?」
「おかちゃじゅけもおてちゅだいちましゅ」
「あんたは小さくなっても忙しいな」
「このちゅがちゃでもおやくにたちぇゆこちょがあえばやりたいでしゅ」
「あんたらしいな。しかし洗物は平助と源さんがやっている。それ故、あんたの仕事は無いと思うぞ」
「……あいましゅ!」
千鶴は手を上げて嬉しそうに言う。
「こんどぉしゃんとひじかたしゃんにおちゃをおだちちなければいけましぇん」
「…成程。確かにそれはあんたの仕事だな」
斎藤はそう言って立ち上がり、千鶴を見下ろした。
自分を見下ろす瞳がとても優しくて、何故か頬が熱くなるのを感じながら千鶴も立ち上がった。
「ならば勝手場へ行こう」
「あい!」
千鶴が屯所で暮らすようになって、いつの間にか彼女の仕事の様になっているのがこのお茶淹れだ。
自分達が使っていた茶葉と本当に同じもので淹れたのかと疑いたくなるほど、千鶴の淹れるお茶は美味しい。
あの好みがはっきりしている土方でさえ文句も言わず、それどころか必ず『美味い』と言わせている。
座っていた座布団を広間の端に重ねに行っていた千鶴が、トタトタと斎藤の元に戻ってくるとちょこんと彼を見上げてきた。
その動作に合わせて、小さな鈴の音が聞こえてくる。
「確かにその鈴は有効のようだな、雪村」
「しゃいとぉしゃん」
「何だ?」
「やまじゃきしゃんやいのうえしゃんのときもおもっちゃんでしゅが」
「?」
「えと、でしゅね…」
「どうした」
「このしゅがちゃのあいややけでも、ちじゅゆっちぇおよびいちゃだいちゃほうがよいよぉなきがしゅゆんでしゅ…けど」
普段、他の隊士の目がある時は幹部達は千鶴の事を姓の『雪村』のほうで呼ぶ。
千鶴と呼ぶのは幹部達の棟に居る時だけだ。
男子で千鶴という名は流石に珍しいという配慮からなのだが。
しかしこの姿の時に姓の方で呼ばれるのは、流石に違和感があるのではと思っていたのだ。
「おいやでちたらしょのままでもよよちいのでしゅけど…」
「俺が呼んでも、あんたは嫌では無いのか…?」
「しょんなこちょあいましぇんよ」
小さな瞳にじっと見つめられ、斎藤は思わず視線を逸らす。
(何故、動悸がするのだ)
「しゃいとぉしゃん?」
(彼女の名を呼ぶことぐらい…どうという事でもない筈だ)
「どぉちたんでしゅか?」
(名を呼ぶ…それを思うだけで何故動悸など)
流石に反応のない斎藤が心配になって千鶴が、彼の着物の袖をくいっくいっと引っ張った。
「だいじょおぶでしゅか?」
「な、何でも無い。確かにその姿の時に姓の方で呼ぶのは違和感がある…な」
「ちいしゃなこをしぇいのほおでよぶのはめじゅやちいでしゅよね」
「あい分かった。あんたの事を姓で呼んでいる者達には俺から伝えよう…千鶴」
「あい!」
千鶴の名を口にすると胸の奥が温かくなる。
それに伴い動悸も強くなってきている気がする。
(後で石田散薬を服用しておくか)
「勝手場に早く行かぬとな。片付けに間に合わなくなってしまう」
動揺を隠す様に、斎藤はすたすたと広間を出て行った。
千鶴は慌てて後を追う。
自分もお茶を淹れる為に勝手場に用があるのだ。
しかし何故か斎藤の歩みは速い。
すたすたと足早に歩く彼の背中をぱたぱたぱた、ちりんちりんちりりんと小さな音が追った。
(ど…どうなさったんだろう斎藤さん)
怒っている風ではなかったと思うが、置いていかれそうなくらいに早い。
この小さな身体ではいつもの廊下も倍くらい長く感じる。
故に、斎藤の早歩きには走ってでしかついていけないのだ。
千鶴の息が少し上がっている事に斉藤が気が付いたのは、勝手場について藤堂に指摘をされてからだった。
「一君…千鶴がなんか疲れてんだけど」
「……何故?」
「………きになしゃやないでくだしゃい…ふぅ」
「で?どうしたんだよ二人揃って」
斎藤から千鶴の膳を受け取りながら藤堂が尋ねる。
「局長と副長にお茶を淹れるとゆ…千、鶴が言うのでな」
「そっか。…ん?あ、一君が千鶴って呼んでる」
「このしゅがちゃのあいやはしょうよんでいちゃやくよぉにおねがいちたの。だかや、いのうえしゃんもよかっちゃや」
「ああ、確かに小さい子を姓で呼ぶのは不自然かもしれないねぇ。分かったよ。じゃあ千鶴ちゃんと呼ばせてもらおうかね」
「あい」
小さな姿で火を扱うのは危ないからと、お湯は井上が用意してくれた。
急須に茶葉を入れ、熱湯をそこに入れてもらう。
「土方さんってさ、よくこんな熱いの平気で飲めるよなぁ」
「へーしゅけくんはちょっとしゃめたのしゅきよね」
「ぐいって飲めるのが良いんだ」
千鶴の小さな手が火傷をしないようにと見守りながら、お茶の準備が整うのを待つ。
二つの湯飲みにお茶が注がれると、
「近藤さんのは俺が運ぶよ。ま、俺が運んだのでも千鶴が淹れたって言えば喜んでくれるだろうし」
藤堂がそう言って、湯飲みをお盆に乗せた。
「いいの?」
「千鶴はさ土方さんの方に持って行けよ。副長室のがこっから近いしさ」
「へいしゅけくんあいがちょ」
「んじゃ冷める前に持ってくよ」
また後でな、と藤堂は言い残して局長室の方へ向かっていった。
「千鶴ちゃん、こっちのお盆を使いなさい」
土方の湯飲みを、井上がもう1つのお盆の上に乗せてくれた。
「あいがちょおごじゃいましゅ」
「さて、持てるかい?」
「こえくやいだいじょおぶでしゅよ」
そう言ってお盆を持ち上げたのだが、
「あえ?おもっちゃよりおもい…?」
いつもなら平気なその重さが、ずしりと腕に感じた。
「千鶴…俺が持っていこう」
「だいじょおぶでしゅよしゃいとぉしゃん。がんばいましゅ」
千鶴は自分の手元を見ながら歩き出す。
その姿は実に可愛らしいのだが、持っている物が物なだけにこけはしないか、ぶつかりはしないかと心配になる。
「斉藤君、頼んだよ」
「はい」
井上の頼みに斎藤はすぐさま返事をし、勝手場を出て行った。
「孫がいるっていうのはこんな感じなのかねぇ」
嬉しそうに井上は言いながら片付けの続きに戻った。
その頃。
ゆっくりと歩く千鶴の後ろを気遣わしげに斎藤が付いていく光景を平隊士達が目撃し、ちょっとした話題になっていた。
「斎藤組長のあんな心配そうなお顔は初めて見たぞ」
「あの小さな娘が局長の預かり子か?随分と愛らしい娘だな」
「成程、幹部方が大事になさっているという噂は本当だったんだな」
千鶴が小さくなったのは昨日の夕方だ。
それなのに彼女の噂は意外とかなり広がっていた。
「幹部方があんなに大事にされている娘だ。何かあったら…」
「おいおい、恐ろしい事言うなよ…だが、もしもを思うと…」
「我々も出来る限り気を配っておこう」
「そうだな」
そんなわけで。
屯所のあちらこちらに小さな千鶴を見守り隊が発足し、隊士が急増していたとか。
そんな事も露知らず、必死にお茶運びをしていた千鶴はどうにか副長室である土方の部屋の前に到着していた。
斎藤の顔に疲労が浮かんで見えるのは気のせいではないだろう。
「ひじかたしゃっ!」
「ん?…っと千鶴か」
部屋の前で千鶴が声をかけるのとほぼ同時に、障子戸が開かれた。
驚いた千鶴の手元が揺れる、が。
「案ずるな」
千鶴の背後にいた斎藤がすかさず左手で湯飲みを、右手で盆を、そして千鶴を包み込むような形でその身体を支えた。
「茶は一滴も零れてはおらぬ」
「……行動が早ぇえな斎藤は。つか、どうした?」
「ひじかたしゃんにおちゃをおもちちまちた」
にっこりと微笑み自分を見上げてくる千鶴に、
「ったく、お前は俺以上に仕事虫だな」
土方が苦笑しながら千鶴の頭を撫でる。
(小さくなってから、よく土方さんに頭を撫でて頂いている気がする)
頭を撫でられる事が嫌と言う訳ではないのでされるがままになっていたが、彼の手に一通の書状が握られていた事に気が付き問いかけた。
「いしょぎのおちごとちゅうでちたか?」
「ん、ああそうだった。お前を見るとつい和んじまう。斎藤、巡察の奴らはもう出たか?」
「玄関の方から声がしていましたので、そろそろでは?」
「そうか。ああ、茶はその辺に置いといてくれ。ちょいと行ってくる」
どうやら土方はその書状を巡察のついでに送り届けさせようとしているようだ。
「ひじかたしゃん、それわたちがおわたちちてきましょうか?」
「お前がか?」
「あい。おみおくいもちてみちゃかっちゃんでしゅ」
「……なら頼むか。間に合わなくても別に良いからな」
土方が千鶴の頭から手を離しお盆ごと湯飲みを取ると、斎藤も立ち上がった。
「おあじゅかいちましゅ」
「総司でも原田でもどっちでも構わねぇ」
「あい!」
千鶴は書状を土方から受け取り、それを大事そうに胸に抱く。
「いっちぇきましゅ」
土方を見上げそう言うと、鈴の音と共に玄関に向かい走り出した。
「………斎藤」
その姿を見送った土方だったが、何だか嫌な予感がする。
「行け」
「御意に」
土方の短い命令に斎藤は頷き、去っていった。
「こけなきゃ良いけどな」
そう呟きながら、盆の上の湯飲みを手に取り一口啜った。
「相変わらず美味い茶ぁ淹れやがる」
ふぅと一息吐いた時、玄関の方からなにやら大きな音がし、慌てた様な声が聞こえてきた。
「……斎藤も行ったし」
大丈夫だろうとは思うが。
―――気になる
千鶴の淹れたお茶をもう何口か啜ると、それを零さない様に文机に置いた。
「行ってみるか」
いつもだったらそんな行動は起こさないのだが、千鶴が小さくなってからはどうも気にかかる。
まぁそれはきっと自分だけではないのだろうけれど。
後ろ手に戸を閉めると、土方も玄関の方に向かい歩き出した。
続く…