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【和花】 なごみばなと読んで頂けると嬉しいです。 乙女ゲーム系二次小説オンリーサイトです。
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えっと下の分に引き続き、こちらも『ほんわかふんわりのんびりと』です。
但し、こちらはサイト掲載に辺り手直しを加えたものになります。
提出分と流れは同じです。
ただ、言葉の言い回しが変わってたり無かった行動や会話が加わっていたり。
和花ならではの展開に変わってたり…です。
掲載分を読んで頂けた方にもまた違った意味で楽しんで頂けると思います…多分(汗)

では手直ししましたサイトverを右下からどうぞ。


 

 

 

「うー…はぁ、終わったぞ…」

 しんと静まり返った部屋の中に、その部屋の主である土方の声が浸透していく。
 今日も今日とて仕事に追われる彼は一日の殆どを部屋から出る事なく過ごし、夕餉すらまともに食べていない。
 だが視線をずらせばそこには清潔な布巾がそっと被せられた膳があった。

「冷えちまった…よなぁ…」

 そう呟きながらその膳を手元に引き寄せて布巾をそっと剥ぐ。
 布巾の下、お膳の上には綺麗に並んだ御握りが三つと沢庵が乗っている。
 夕餉の席に現れなかった土方を心配した彼の小姓(仮)である千鶴が持ってきていた物であった。
 とうに冷えてしまったそれを手に取り口へと運べば、ほんのりと心は温まる。

「ただの握り飯だってぇのに、よくこんなに美味く握れるもんだよな」

 ぺろりと一つ目を平らげ、次のお握りへと手を進める。
 添えてあった沢庵をかじりお握りを食む。
 そうして気が付けばあっという間にお膳の上には皿だけが残っていた。

「茶が飲みてぇな」

 今の時刻が夜中でなければ、千鶴が気を利かせて熱いお茶を淹れて来てくれる所なのだろうが。

「千鶴の茶か…」

 最近は本当に、驚くほどに千鶴は土方が『飲みたい』と思う頃合にお茶を運んで来てくれる様になった。
 それがまた土方好みのお茶であるのだから、ある意味困る。
 別の者が淹れた茶では満足できなくなっている自分に気が付いた時は『絆されたもんだよなぁ…』と一人ごちたものだ。
 が、流石に今は自分で淹れるしかないと渋々ながらに土方は立ち上がり、皿だけが載った膳を持ち上げた。
 障子戸を開けて外へ出れば身体がぶるりと震えるほどに冷え込んでいる。
 庭を照らす白い月明かりが更に寒々しく感じさせた。

「…さみぃ」

 ぼそりと漏らしつつ、勝手場へと向かう。
 火は既に落としてあるだろうから火起こしからしなければいけないかとか、それが面倒だからお茶は諦めるかなど考えながら歩いていた時、

「土方…さん?」

 先程まで脳内にいた少女の声で名を呼ばれ、まさかと、そちらの方へと視線を向ける。
 そこにいたのは確かに彼女、千鶴ではあったのだが、

「…だよな」

 『まさか』こんな時間に茶を淹れてきてくれてたのか?という土方の考えは、その姿を見て消え去った。
 千鶴が持っていたのは小さな手桶で、中には風呂場で使う手拭などが入っている様だ。
 土方の言葉に小さく首を傾げる千鶴の結わえられていない下ろされたままの髪の毛は湿っている。

 つまり、
 
「何だ、こんな時間に風呂に入ってんのか?」

 湯上りなのだと容易に想像できた。

「あの…今日はその…片付けが遅くなってしまって…」
「片付けだぁ?」
「えと…はい…申し訳ありません」
「別に謝る事じゃねぇだろうが。で、何の片付けをやってたんだ?」
「………お…勝手場の…」

 千鶴はそう言いながらもちらりと視線を泳がせる。
 それが一瞬の事であってもこの男が見逃すはずも無い。

「嘘吐くんじゃねぇ」

 少し厳しさを混ぜた声音で指摘すれば千鶴はビクリと肩を震わせて土方を見上げる。

「う…嘘じゃ」
「なんだぁ?お前ぇまさか鬼の副長を謀ろうってぇ魂胆か?」
「ふぇぇ!?」

 何故そんなに話が大きくなってしまうのだと千鶴はうろたえる。
 うろたえてしまった時点で嘘だと証明してしまったわけなのだが、千鶴がそれに気が付くはずがない。
 だが、

「何してたんだ、言え」

 土方にそう言われてしまえば、逆らう事など出来はしない。
 観念した千鶴は若干上目遣いになりつつ、

「繕い物を…」

 観念した様にそう告げた。

「繕い物?」
「はい…あの……近藤さんに…反物を頂いて…」
「はぁ?」
「時間がある時に何か…仕立ててみてはどうかと…それで……」

 実に言い難そうに白状した千鶴に、土方は大きな溜め息を吐いた。

「で、夢中になって時間が遅くなった、か?」

 千鶴はこくんと頷いた。

「千鶴」
「は…い…」
「お前ぇ馬鹿か」
「すみません…」
「今日風呂に入らねぇでも腐りゃしねぇだろうが」
「………すみません」
「こんな時間にそんな恰好で、平隊士に見られたらどうすんだ」
「……………すみません」
「別に汚れるような事しちゃいねぇだろ」
「………すみま…せん」

 土方の言葉に同じ返事ばかり繰り替えす千鶴に、土方は呆れながら距離を縮める。

「すみませんすみませんってぇ、お前ぇ…な…」
「土方…さん?」

 距離を縮めた事で、何故千鶴がこんなに遅い時間でも風呂に入る事を選んだのかを分かってしまった土方は言葉を途切れさせた。
 土方が千鶴に近付いた事で気付いたものは、彼女から僅かに届く…血の臭い。
 浪士組としてこの京にいた頃から否応無しに馴染んでしまったその臭い。
 千鶴が人を斬る筈も無く。
 ならば何故かと考えれば、千鶴が年頃の女子であるという所で答えに行き着く。
 まぁ、永倉や藤堂辺りはそこにはまず結びつかないだろうが。

(…月の障り(月経)か……そりゃ身を清めてぇって思うもんなんだろうが…まずったな。そんなこたぁ気ぃつかなかったぜ)

「土方さん?」

 まさか土方が千鶴の身に月が来ている事に気付いているなど思うはずも無く、ただ黙ってしまった土方を不安そうに見上げて首を傾げている。

(これも男所帯の落とし穴…か。しまったな…)

「あの…」
「はぁ」
「えと…土方さん?」
「何でもねぇよ。足止めさして悪かったな。部屋に戻って休め」
「…あ、あの」
「何だ」
「お握り…召し上がって下さったんですね」

 土方の手に持たれている物が、夕餉の後自分が運んだ膳である事に気が付いた千鶴が嬉しそうに声を上げる。

「足りましたか?」
「ん、ああ。美味かった。ありがとよ」
「いいえ。良かった…」

 仕事に没頭してしまうと、土方は本当に食事さえもまともに取らない。
 だからこそ完食してくれているというその事が、千鶴にとっては何よりも喜ばしい事だった。

「あ、お茶を淹れて来ますね」

 それ頂きます、と手を伸ばし土方の腕から膳を受け取ろうとする千鶴に思わず土方もそれを渡しかけたのだが、

「って、そうじゃねぇ!今夜はもう休めって言っただろうが。俺の世話は焼く必要ねぇ」

 ぎりぎりで思い止まりその膳を上に上げた。

「ですけど…」
「いいから湯冷めする前に部屋にもど………おい」
「はい」
「お前ぇ今、湯上りだよな?」
「え?…はい」
「ちゃんと温もったのか?」

 いくら寒くても、いくら土方が足止めしてしまったとしても、さすがに湯上りの身体が冷えてしまうには早すぎるだろう。
 だが夜目であっても千鶴の肌には明らかに赤みは無く、それどころか唇には色が無い様に見える。
 空いている手をスッと伸ばしその頬に触れればひんやり所ではない冷たさが伝わってきた。

「風呂入ったってぇのに何だその冷え方」
「あ、あの」
「お前、風呂はちゃんと焚き直したのか?まさか冷えた風呂に入ったんじゃねぇだろうな」
「あ…あの…」
「馬鹿野郎っ」
「ひゃあっ」

 夜中というのに思わず怒鳴った土方の声に千鶴は身を竦める。

「来いっ」

 持っていた膳を廊下の端に置くと千鶴に触れていたその手で千鶴の手を引くと湯殿に向かいすたすたと歩き始める。
 土方の突然の行動に千鶴は驚きながらも引かれるままに歩くしかなく。

(……ど、どうしよう…怒られるなんて思わなかったし……でも…)

 自分の手を引いて歩く土方の背を見詰め、

(土方さんの手…結構ごつごつしてて…大きくて……温かいなぁ…)

 頬をほんのり赤らめ小走りで付いて行きながら千鶴は思う。
 そんな千鶴の前をすたすた歩く土方は、

(こんなに冷てぇ手ぇしやがって)

 小さく、千鶴が気が付かない程度の溜め息を吐く。

(しっかし…やっぱ女だな。…細っこくて小せぇ、女の…いや、ガキの手だ)

 目的の場所である湯殿へと続く脱衣所の扉を開けた土方は強制的にそこへ千鶴を押し込め、

「入りなおせっ」

 その言葉と共にぴしゃりと戸を閉めてしまう。

「あ、あのっ!」
「風邪を引く気か!馬鹿がっ。俺が焚き直してやるから湯に浸かってろっ!」
「え…えぇ?ふぇーっっ!?」
「喧しいっ」
「だ、駄目ですっ!土方さんにそんな事っ!」
「さっさと入れっ」
「ですがっ」
「副長命令だっ。入れっ!!」
「そ、そんな…」

 こんな事に副長命令だなんて大それた物を使わないで下さい、千鶴は思わずその場にしゃがみ込んでしまう。
 
「いいか千鶴」

 そんな千鶴に、戸の向こうから土方の声がかけられる。

「こんな事に遠慮してんじゃねぇ。風邪でも引かれて倒れられた方が迷惑なんだよ」
「…でも」
「でもじゃねぇ。…お前ぇが倒れたら誰が俺の茶ぁ淹れてくれんだよ」
「土方さん…」
「直ぐに火を起こしてやっから入って待ってろ。いいな」
「…はい。ありがとうございます」
「おう」

 
 その後

 土方に焚き直してもらった風呂でしっかり温もった千鶴が、桜色に染まった頬からほこほこと湯気を上げ頭を下げる。
 その土方が風呂を焚くという世にも珍しい光景を、騒動を聞きつけた幹部達に目撃されちょっとした騒ぎになったのだが…。

 

 

 ―――幕末という動乱を乗越えた、数年後…。


「あら、お久しぶりですね豊玉先生」

 日本の北に位置するとある山間の一軒家の縁側で、女の装いへと戻った千鶴がにっこりと微笑みながら、短冊と筆を手にした彼の横にお茶の入った湯飲みをことりと置いた。

「今日は小春日和で気持ちがいいからよ、たまには良いだろ」
「悪いなんて一言も言ってません。何か良い句でも浮かびました?」
「ん~…ぼーちぼちな。のんびり考えるさ」
「ふふっ」

 着流しの上に羽織を一枚羽織った歳三が、幸せそうに微笑む妻である千鶴を見てつられる様に微笑む。
 
「歳三さん」
「ん~?」
「その羽織…そろそろ仕立て直しても良いですか?」
「必要ねぇ」
「でも」
「別にどこも解れちゃいねぇ。これは俺の気に入りなんだ。手ぇ出すなよ」
「もう…。今の方が、まだましな物を拵える事ができると思うのに…」
「それはそれで、これはこれだ」
「歳三さん」
「こいつはお前ぇが俺に初めて仕立ててくれたもんだろ」
「…はい」

 嬉しそうに言う歳三に、千鶴ははにかむ様に小さく頷いた。
 歳三が羽織るその羽織。
 それは昔、近藤に反物をもらった千鶴が土方の為に仕立てた羽織だった。

「これをもらったあの頃はよ、まさかお前ぇと添い遂げるなんざ考えもしなかったけどな」
「私は…お傍に置いて頂けたらな…くらいは想ってましたよ?」
「近藤さんに貰ったもんで、俺の羽織を繕うくれぇだしなぁ」
「もう!あの頃の私をからかわないで下さい」
「そうむくれるな。可愛いだけだぞ」
「歳三さん!!」
「何でぇ、本当の事言っただけじゃねぇか」
「うぅ……もう!」
「はははっ本当にお前ぇは変わんねぇな」

 歳三が『鬼の副長』と恐れられていたあの頃。
 そんな彼が冷えきっていた千鶴の為に風呂を焚き直すという珍しい行為をしたあの日。
 千鶴の入浴が遅くなった原因となっていたあの時の繕い物が、この羽織だった。
 婚姻後も何度も仕立て直しをさせて欲しいと千鶴が言っても歳三は絶対に首を縦に振ろうとはしなかった。
 この日も言ってはみたがやはり駄目で。

「あ…」
「ん?」
「あの日の事なんですけど」
「あの日って?あの日だけじゃ分かんねぇよ」
「えと、ほら歳三さんが私の為にお風呂を焚いて下さった」
「うん?…あぁ!懐かしいな。…そういやあの後からだったよな。お前の風呂焚きが当番制になったの」
「幹部の方々にお風呂を焚いて頂くなんて…申し訳なかったです」
「お前ぇはどうしても一番最後になっちまってたからな。気付いてやるのが遅くなって申し訳ないって言ってよ」
「近藤さんにまで焚いて頂いた時はどうしていいか分からなかったんですよ」

 もう昔の事なのに、まるで昨日の事の様に千鶴は本当に申し訳なかったと目を閉じて息を吐く。

「皆千鶴を構いたかったんだろうな。で?それがどうした」
「今更なんですけど…、あの日、廊下でお会いした時、歳三さん私の傍にいらっしゃって不自然に言葉を切られたでしょう?」

 と尋ねれば歳三は少し思案顔になったが直ぐにああと頷いた。

「何かお考えだったようですけど、それが気になったんですよね」
「変な事覚えてんな」
「思い出したんです。覚えていらっしゃいますか?」
「確か…。ああ、そうだ。お前ぇから血の匂いがしてよ」
「はい?」
「月のもんが来てんだって気が付いたな」
「そ、そうなんですか!?」
「あの頃は特に血の臭いには敏感だったからよ」
「うあぁ…は、恥ずかしい…」
「今更だろ」
「でもですね」
「まぁ今は月のもんは眠ったまんまだろうがなぁ」

 歳三はそう言いながら筆と短冊を横に置き、身を少し屈めると隣りに座っている千鶴の膝の上に顔を近付けた。

「もう時期、だな」
「はい」
「でっけぇ腹だよな。千歳ん時よりずっとでけぇぞ」
「多分双子ですから」
「だったら俺はもう時期3人の子の父親、か」
「千歳が最近しっかりしてきましたから、安心してます」
「良い姉になるさ」
「ええ」

 身を屈めていた歳三はそのまま千鶴の膝の上に頭を乗せた。

「千鶴」
「はい?」
「愛してる」
「ふぇ?」
「ぷっ、ほんっとに変わんねぇよ。お前ぇは」
「だ、だって」
「でもよ、そんなお前ぇとこうして居られて幸せなんだ。ありがとな、千鶴」
「歳三さん…私もあい」
「ほう?雪村、貴様は歌を詠む趣味なぞを持ち合わせておったのか」
「「!!??」」
「…ふむ」

 千鶴の言葉を遮る様に声をかけてきたものは、歳三が横に避けた短冊や発句集の前にすとんと座りこちらを見上げてきた。

「かっ風間!」
「風間さんお出かけになっていたんじゃ」

 細身の肢体はそれはそれは手触りの良い金色の毛に覆われ、きらりと光る紅玉の様な切れ長の瞳を持つ人の言葉を話すこの猫は、何とも驚いた事にあの風間であって。
 縁があったその男…否、雄猫はこの雪村家に棲み着いてしまった。
 千鶴と共に生きる為に土方姓を捨てた歳三を風間は雪村と呼び、千鶴の事は相変わらず千鶴と呼んでいる。

「用は済ませた。問題ない」
「問題が有る無いじゃねぇ!いつも言ってんだろうがっ。気配無しに近付いてくんじゃねぇって!!」
「諦めろ雪村。猫とはそういうものだ」
「開き直ってんじゃねぇ!」
「まぁ、ふふふっ」
「ととさまぁ、かかさまぁ!ちかげ、こちらにきたでしょ?」

 今年5歳になった愛娘が家の奥からパタパタと駆けて来る。

「千歳」
「ととさまとちかげ、またけんか?」
「大丈夫よ、千歳」
「ほんとぉですか?」
「ええ。本当ですよ」
「お、千歳もう起きたのか?」
「はい、ととさま」
「最近昼寝の時間が短くなってきたな。これも成長なのか?」
「そうですね。少しずつ身体が成長している証拠なのだと思います」
「だってちとせもうすぐねねさまになるですよ。ねねさまはおひるねいっぱいしているおひまはないの」
「そうだよなぁ…。やや子が生まれたら、かか様は忙しくなってとと様も千歳も構ってもらえねぇもんな」
「ちとせおてつだいしますもん!かかさまいそがしくならないようにちとせがねねさましますもん!」
「お!ねね様の心構えは完璧じゃねぇか」
「でも…ときどき、ちょっとだけねねさまおやすみして、かかさまにぎゅうするのいいですか?」

 心配そうにちょこんと首を傾げる娘に両親は揃って悶えそうになる。
 可愛い。
 文句なしに我が娘は世界一だ。
 歳三と千鶴の心の声が一致する。

「千歳、来い」

 歳三が両手を広げれば千歳が満面の笑顔で歳三の胸の中に飛び込んできた。
 
「えへへ~」
「とと様にもぎゅうしてくれないと、とと様が寂しいぞ」
「だいじょおぶ。ちとせととさまもかかさまもだいすき!だってととさまとかかさまはなかよしさんですもん」
「よーく分かってんじゃねぇか」
「あのね、かかさまがにっこりするとととさまほんわかさんになるの。ととさまがにっこりするとかかさまふんわりやさしいの。ちとせそんなととさまとかかさまがいっとうすき」
「ちーとーせーっっ!」
「うぎゅう~!ととっしゃまぁ!くゆしい~」
「千鶴も千歳も愛してるぞ!」
「あらあら、歳三さん腕を緩めてあげて下さい」
「ととしゃまぁ!」
「もちろん腹のやや子も愛してるぞ!」

 小春日和の、のんびりとした麗らかな優しい光が暖かく幸せに過ごす三人を包み込む。
 こんなにも幸せで良いのだろうかと歳三の脳裏にふと過ぎった時、それをぶち壊すような声が聞こえてきた。

「知れば迷い 知らねば迷う 恋の道…ほう」
「かーざーまーーーっっ!!」

 仲良し家族の会話の隣りで、器用にその前足の肉球を使いペラリと発句集を捲る金色の猫がそれはそれは姿勢正しくお座りをしていた。
 猫の、風間の視線の先には歳三の秘蔵書とも言える豊玉発句集。

「静かだと思ったらろくな事してねぇなっ!」

 抱きしめていた娘を千鶴の隣りにそっと下ろすと、その後の動作が目に留まらぬほどの勢いで発句集を取り上げた。

「人の俳句を勝手に読むなっ!総司かお前ぇはっ!!」
「折角書いた物を人に見せぬとは、勿体無い」
「何が勿体無いだっ」
「良い句だと思うが、何だ自分で詠んでおいて気に入っておらんのか?」
「何が良い句…だ………良い…句?」

 発句集を取り上げた恰好のまま固まった歳三を、それがどうしたとばかりに風間が見上げた。

「それを読めばその時の情景がスッと浮かぶ。変に凝った句よりも素直な気持ちが現れていて読みやすい。俺は良いと思うが?」

 昔、隣りに座る妻が同じ様な事を言ってくれたと思い出す。

「そうやって剥きになるからからかわれるのだ。素直にそう詠んだのだから当然だという顔をしておけば良い」
「う…」
「分かったら発句集をここへ置け」
「………はぁ…負けた…」
「よし」

 歳三は渋々ながらも風間の前に発句集を開いて置いた。

「ふむ…春の月が多い様だが?」
「朧月っつーか、春のあのちょっと霞がかったまあるい月が、好きなんだよ」
「成程。ならば時期にその月の下で酒が呑めよう」
「…おう」

 そんな二人(一人と一匹)のやり取りを見ていた千鶴がふふっと微笑み、立ち上がった。

「かかさま?」
「お茶を淹れて来ますね」
「ちとせもおてつだいする~」
「じゃあお願い」
「はーい」

 一緒に立ち上がった娘に手を引かれながら、大きなお腹を抱えた千鶴は縁側の方を振り返る。
 そこには発句集を見ながらああだこうだと言葉を交わす二人がいる。
 数年前には考えられなかった光景だ。

「ねぇかかさま、ととさまとちかげもなかよしさん?」
「そうね…きっとそうなっていくわ」
「じゃあみんななかよしさんね」
「まぁ、凄く素敵」
「うん!すてき!だってみんなにっこりだもん。ほんわかで、ふんわりなの」

 娘の笑顔に千鶴も自然と笑顔になる。
 のんびりと過ぎていくこの優しい時間は、きっとまだ今後も続いていくのだと願いたい。
 いつか終わりが来るとしても…それでもこの時間は宝物となるのだから笑っていたい。

「かかさま?」
「ほんわかふんわり…のんびりと、ね」
「うん!」

 

 優しい日差しに包まれた

 それは、元気な男の子二人に恵まれる

 一月ほど前の物語

 

 

終わり

 

 

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