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10,000HITありがとうございます、の感謝の気持ち小説です。
といっても土方編なうえに…千鶴編は製作途中…。
千鶴編はもうちょっとお待ち下さい。

仙台~函館辺りの話で、史実の人も出てきてたりしますが、あまり気にしないでやって下さいね。

土方さんだって心が弱って良いんだよ!
という月夜野の気持ちを詰め込んでみましたが…どんなもんだろう?

こんな土方さんいても良いんじゃない?という方は右下らかどうぞ!


 

 

 

『駄目ですよ、土方さん。こんな所で転寝なんてされちゃ』

 

 

 どこか遠くで声がしたような、そんな……気がした。

「ん……ちづ…」

 薄っすらと、目を開く。
 ぼんやりとした瞳に映るのは、朝方、大鳥から渡された軍事関係の書類だ。

 ああそうか、と心のどこかが軋んだ。

 どうやら頬杖を付いたまま、少し眠ってしまっていたらしい。
 頬に当てていた手を額へ動かし、両目を覆うように体勢を変える。

「俺は…救い様のない阿呆か…」

 夢の中ではない、どこかで聞こえてきたのは先月、森の中で別れた彼女の声。
 いつもいつも人の事を優先し、支えてくれていた女人。
 誰よりも傍にいて土方を支え続けてくれた、千鶴。
 彼女は、ここにいない。

 


 初めて出会った頃はまだ幼さの残る少女だった。
 その頃から変わらない真っ直ぐで澄んだ瞳。
 つい先月までは、その瞳がいつも自分を見上げていた。
 背中を押してくれていた。
 気付けば二十歳を目前にしていたにも拘らず、新選組と係わってしまった所為で女の幸せを掴むことすら出来なかった。
 本来ならばきっと良い家庭を築ける娘なのだ。 
 ならば、遅くなってしまったが今がきっと解放できる最後の時なのだと。
 彼女を秋の深まる仙台の森の中においてきた。

『私の幸せは手に入らなくたって構いません』
『土方さんと同じ道を歩きたいんです』
『何でもしますから…だからっ』

 耳と心に蘇る千鶴の言葉。
 必死に自分に言い募って来た千鶴。

『お願いです、私を傍において下さい…土方さんっっ』

 涙を堪え、声が震えるのも必死に我慢しながら、澄んだ瞳が訴えてくる。
 これ以上その瞳を見ていたら心が揺らいでしまう。
 激戦の約束された死地に連れてなど行けない。

 少し前からはっきりと土方は自分の気持ちを自覚していた。
 目の前にいる娘を、きっと自分は愛している。
 誰かをこれほど深く、強く想った事などないというほどに。
 彼女もそんな土方の事を深く想ってくれていることは感じていた。
 互いに気持ちを伝えた事はない。
 もし伝える事ができたのならば、祝言を挙げ夫婦となり…所帯を持つ事もできたかもしれない。 
 だが己の立場がそれを許さなかった。
 生まれた場所、時代が悪かったのだろうか。
 だがこの時でなければ自分達は出会う事もなかっただろう。

『お傍に…いたいんです……!』

 本当は引き寄せて、腕の中に閉じ込めて。
 小さく細い身体をかき抱いて、その唇を貪りたい。
 頭の天辺から足の爪先まで口付けて、自分のものにしてしまいたい。
 少しでも気を抜けば、たとえ場所がどこであろうと、実行していただろう。

『――蝦夷地への同行は許さん。お前の存在は、俺達の邪魔になる』

 土方の告げた言葉に千鶴が酷く動揺しているのが手に取るように分かる。
 本当は一度たりとも邪魔などと思った事はない。
 彼女がいたからこそ踏ん張って、先へ進めた。
 千鶴がいなければ…自分は背中に背負った物の重みに潰されていただろう。
 
『これは新選組局長の命令だ』
   ―ウランデクレテイイ
『土方さんのお傍じゃなきゃ、私は生きている意味さえ失うんですっ!』 
   ―コンナノイヤダ
『俺は、お前を幸せには出来ない。お前は女として、この地で生きろ』
   ――ココロガチギレソウダ
『私は幸せにして下さいとお願いした覚えはありませんっ』
   ――ヒトリニシナイデ
『これは命令だ、ち…雪村。黙って従えっ』
   ―――アイシテイル
『…土方…さん……』
   ―――アイシテマス

 心がギシギシと軋む。
 辛い、苦しいと悲鳴を上げている。
 これ以上の反論は無駄だとばかりに土方は背を向けて、歩き出した。
 そうしなければ己の心が持たなかった。

『父様が…死んだから……私はもう用済みですか?』

 そんな背中に投げかけられたのは、心を抉る様な悲しい言葉だった。

『風間さんが…私ではなく貴方との決着を望むようになったから…守ると仰って下さった約束も…反故ですか…?』

 きっと堪えきれなくなった涙が、彼女の頬を濡らしているのだろう。
 違う、そんな事は無いと、戻って抱きしめたい。
 流れる涙を拭ってやりたい。

『……私は…貴方の元に…厄介ごとを持ち込んだだけ…ですね』

 そんな風に思って欲しいわけじゃない。
 全てを忘れて、幸せに、なって欲しいだけだ。

『ふ…うっ…ふぅうぅっ、土方…さぁん…』

 可愛くて、愛しくて…狂おしくて。
 だからこそ、ここで手放す事が最善だと思うしかない。
 今までだって辛い事や悲しい事は沢山あった。
 それでもこんな悲痛な千鶴の泣き声は初めて聞いた。

『土方さんっっ!土方さーんっっ』

 必死に呼びかける声が聞こえなくなった頃、土方はやっと息を吐いた。
 振り返る事はできない。
 自分は新選組局長、土方歳三だ。
 鬼といわれた男だ。
 振り返る事は許されない。

『すまねぇ…』

 無意識に零れた言葉は、すぐ後ろを歩く島田にも聞こえた。
 土方が彼女をこの地に置いて行く事を前日に知らされていた島田だったが、やるせない気持ちに今にも押しつぶされそうだ。
 今からでも迎えに行った方がよいのではないか。
 そうは思っても口には出せない。
 愛しい者を激戦が待っている場所へ連れて行くことなど、きっと自分もできやしない。
 こんなにもお互いに愛し合っている者達が引き裂かれる、悲しい時代。
 気持ちを告げる事さえ許されない、不器用で優しい上官。
 そんな彼をずっと支えてきた少女。

『ひでぇ事をしたもんだよな…俺は』
『局長…』

 土方の言葉に、島田が静かに言う。 

『彼女に酷い事をしたのは局長だけではありません…新選組が彼女を縛っていたのですから、俺達、と』
『馬鹿、お前まで気にすんな。悪かった島田…』

 こうやって全てを背負い込む彼を、彼女以外の誰が支えられるというのだろうか。
 その後はただ無言のまま、蝦夷地へ向かう船へと歩みを進めた。 

 

 

 ぼうっと少し前のことを思い出していたとき、土方の部屋の扉にコンコンと音がした。
 これはノックというもので、西洋式の扉を開ける前に入って良いかを伺う為のものらしい。

「土方さん、宜しいですか?」
「………鉄之助か何だ?大した事じゃ無ぇならそこで言え」
「大鳥陸軍奉行より差し入れ、だそうです」
「んだよ、それ」
「あの…お渡しすれば分かるそうで、自分は必ず渡すようにと大鳥陸軍奉行の命を受けております」

 ですから入る許可をと、千鶴の代わりに小姓に付いた市村鉄之助が言う。
 大鳥の命を受けて来ているとなると、無碍には出来ない。

「はぁ…入れ」
「はい。失礼します」

 扉を開け、中に入ってきたのはまだどこか幼さの残る少年。
 髪を高い位置で1つにまとめたその姿に、昔の千鶴が重なる時がある。
 年も確か15かその位だ。
 市村は手に持った盆に急須に湯のみ、そして茶請けを乗せてきているようだ。

「甘い菓子だったらお前が食え」
「お菓子じゃないんです」
「?」
「…お漬物なんですけど」

 そう言いながら、市村がソファーの前のテーブルにそれらを並べた。

「漬物?」

 怪訝そうに顔を顰めながらも、土方は椅子から立ち上がりソファーの方へ移動する。
 そこにあったのは、土方の好物でもある沢庵だった。

「沢庵じゃねぇか」
「お好き…なんですか?」
「昔からの好物だ。つか、大鳥さんが何で知ってんだよ…」

 弾力のある革張りのソファーに腰を下ろし、一枚摘んで口に入れた。
 カリッと音がする。
 噛んだ瞬間、懐かしい味が口腔内に広がった。
 土方の動きが止まる。

 懐かしい、味。

「お茶淹れてます」
「おい」
「何でしょう?」
「これは、どうしたって?」
「大鳥陸軍奉行からの」
「どこから持ってきたか言ってたか?」
「どこ…?あ、確か新政府軍の動向を探る為に偵察に行っていた方たちが持ち帰ったとか…仰っていたような」
「……そうか。鉄之助、もう良い下がれ」
「あ、はい」

 土方に退室を命じられ、素直に頭を下げて出て行こうとする市村。

「大鳥さんに」
「え?」
「余計な世話焼いてんじゃねぇよって、伝えてくれ」
「お伝えすれば宜しいんですね?」
「ああ」

 それでは失礼致します、ともう一度頭を下げて市村は出て行った。

「気に…かけてくれてたんだな…」

 お皿の上にある沢庵をもう一枚つまみ、カリッと噛む。
 塩加減から漬かり具合まで、土方の好みのものだ。
 こんなもの作れるのは、彼女しかいない。

 

『土方さん、千鶴です』
『おう、入れ』
『お茶をお持ちしました』
『ありがとよ、っと沢庵じゃねぇか』
『漬けてみたんです。味を見て頂いても良いですか?』
『…ん、いい塩梅だ。が、もう少し塩気があっても良いな』
『分かりました。次の分をそうしてみますね』
『次のが楽しみだな』
『頑張ります!』

 

 屯所の中で交わした会話が、遠い昔のように感じる。
 カリッカリリッと噛む度に、千鶴の優しさが身に沁みて来る。
 自分の好みに合わせてくれた千鶴。
 市川が淹れて行ったお茶を口にして、さらに実感する。

「温い…薄い…」

 淹れた本人の前では言えないが、明らかに土方の好みとは違う熱さに渋み。
 千鶴はいつの間にか土方の好みを知り尽くし、お茶や茶請けを準備してくれていた。

「千鶴、お前は生きてくれてんだな…」

 もしかしたら、命を自ら絶ってやしないかと考えた事もあった。
 しかし、この沢庵がここにあるという事は彼女が偵察の者に持たせてくれたという事で、それはつまり、彼女がきちんと生活をしているという事に繋がる。

「こっちは寒さが増してきやがったが、そっちはどうだ?風邪なんか引いてねぇだろうな?」

 誰もいない部屋に土方の小さな声が、音も立てずに落ちていく。

「お前がいないというだけで、こんなに心が空っぽになるなんて思いもしなかった。小せぇ身体で、どれだけ俺を支えてやがったんだよ」

 音を拾い、返してくるものはいない。

「淋しいなんて…思えるくらい俺の一部になってたんだな…」

 呟く声が心なしか掠れてくる。

「幸せになってくれ…幸せでいてくれ……」

 目頭が熱い。
 ソファーの背凭れに頭を乗せ、両手の腕で顔を覆う。

「千鶴」
 『はい、土方さん』
「千鶴…」
 『時々休憩なさって下さいね?』
「ち…づる…」
 『私の血を、飲んでください』
「………っ」
 『…土…方さぁん!』

 知らず知らず、両の掌を強く握り締めていたらしい。
 その片方で強くソファーの背凭れを叩き付けた。

「……幸せに………」

 叩き付けた手に痛みがあるが、彼女の心につけた傷の痛みに比べれば大した事ではない。
 土方が願うのは、戦争に勝利する事ではなく彼女の、愛しいと思う千鶴の幸せのみ。
 自分はきっとこの地で死ぬだろう。
 添い遂げる事が叶わぬのだから、死ぬその瞬間まで、たった一人の女性を想い続ける事くらい許して欲しい。 
 それでも。
 それでも願わくば。

  
 一目でも千鶴に逢いたい
 千鶴の瞳に自分が映りたい
 あの優しい声が聞きたい
 千鶴の甘く香る匂いに包まれたい
 隣りに並びたい
 抱きしめたい
 口付けたい
 千鶴に呼ばれたい


 叶う事はないけれど。
 願う事くらい、許して欲しい。
 たった一人。
 心から、愛した人を。
 本当は…

「幸せに……したかったんだっ」

 心の奥深くに、その気持ちだけは大事にしまっておく。
 自分の本音。
 死ぬ事なんて怖くは無い。
 けれど彼女に逢えなくなる事が、こんなにも淋しい。

「千鶴……愛してる。お前だけだ…」

 頬を流れるものが何かなんて考えなくても分かる。
 それはきっと、自分の心。
 今だけ、そっとしておいてくれ。
 こんなにも弱い自分を出すのはこれっきりだ。
 
 ただ一人。
 彼女への想いに心を馳せて。
 強く瞳を、閉じた。

 

 


 
土方編:終わり 

 


 

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