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土方さんです。
土千というより、土方さんと千鶴ちゃんです。

彼の方は、地で恥ずかしい人の様な気がします。
豊玉発句集も素直な気持ち満載だし?
それを口にさらっと出しちゃっても気にしない…な感じ。

自覚しちゃうと、大変そうだなぁ、なお話です。


右下からどうぞ。

 

 

 

 さらさらと、紙の上に筆が走る音だけが部屋の中に染み渡る。
 外から虫の声がする以外には余計な音もなく、お陰で集中して仕事が出来た。

「よし、間違いは…ねぇな」

 後は近藤さんに渡せば終いだな、と筆を硯箱に戻した。
 今日もこんな遅くまで黙々と仕事をこなしていた土方は、首元に手を置き、筋を伸ばす。
 夕餉を終えてからずっと文机に向かっていたので些か疲れた。
 そろそろ寝ようかとも思ったが、頭の芯が冴えていて睡魔の気配はない。
 ゆっくりと立ち上がり、障子戸を開ける。
 外は月明かりで、とても明るい。

「今日は満月だったか?」

 そう呟くように言い、廊下に出る。
 風も穏やかで気持ちが良い夜だ。
 少し散歩でもすれば眠くなるかもしれない。
 一度部屋に戻り羽織を肩に掛けると、縁の下にある草履を履いて土方は庭に出た。

「見事な満月だ」

 見上げれば、雲ひとつない夜空に神秘的に輝く綺麗な満月。
 一番好きなのは春の霞がかった月だが、秋の澄んだ空にある満月も美しいと思う。

「満月………中秋の名月…」

 何か良い句が浮かびそうな予感がする。
 発句帳を持って来るべきか、と思案し始めたその時。
 土方の後方で、障子戸が開く音がした。
 その音にゆっくりと振り返れば、自分の姿を見付けてきょとんとしている千鶴が立っていた。

「ひじ…かたさん?」
「目が、覚めたのか?」
「………覚めたというか、何だか寝付けなくて…」
「寝付けねぇ?」

 土方の言葉に千鶴はこくんと頷いた。
 彼女の側まで近付けば、千鶴その場に正座をした。
 立っていては見下ろす格好になるので、それを避ける為だろう。
 変な所に気を使いやがって、と思いながら土方はすっと手を伸ばした。
 ビクリと肩を震わした千鶴の額に触れる。

「ひ、土方さん?」
「具合が悪いわけじゃねぇんだな?」
「あ、はい。大丈夫です」

 そうか、と触れていた手を離し、乱れてしまった前髪を手櫛で戻してやる。
 今が夜でよかったと千鶴は思う。
 きっと今、顔は真っ赤だ。
 不意に優しくされるとどうも落ち着かない。
 そう思っても、きっと土方にすれば他意はない行為だったのだろう。
 気持ちを切り替えて、

「土方さんは…お散歩ですか?」

 と尋ねる。

「ん?…ああ、さっき仕事が片付いたんだが、どうも眠れそうになかったんでな」
「御一緒しても宜しいですか?」
「庭を少し歩くだけだぞ?」
「はい」

 千鶴は嬉しそうに返事をすると、土方と同じように縁の下にある草履に足を滑らせた。

「綺麗ですね」
「ああ、良く晴れ渡っている」
「お月様の光が強くて、真夜中とは思えません」

 空を見上げる千鶴を、なんとなく見下ろしてみる。
 普段高い位置で結い上げている髪は、紐に縛られずそのまま肩から背中にかけて流れている。
 身に纏っている物も男物ではない、桜色の寝巻き。
 秋の夜風に吹かれて少し乱れる髪を、両手で押さえる姿は間違いなく女の仕草。

「結構風が吹いてますね」

 そう言いながらも月を見上げ続ける千鶴のその姿から、目が離せない。

「土方さん?」

 流石に視線に気が付いたのか、千鶴が土方の方に顔を向けた。

「何だ?」
「いえ…何か御用かなって……じっと見てらしたので」
「ああ、別に用事はねぇんだよ。ただ」
「ただ?」
「女なんだよなぁって、見惚れてただけだ」
「みっみと!?」
「原田が、元は良いって言ってただろーが」
「ふ…ふぇぇ?」
「それを実感してただけさ」
「………」

 自分が言っている事を理解していないのかと思いたくなる土方の言葉に、千鶴は口をパクパクさせる事しかできない。
 土方という男はこんな男だったのか?
 どう返して良いのかなど分からない。

「千鶴?」

 土方が声をかけた時、少し強めの風が二人を通り過ぎて行く。

「風が強くなってきたな」

 土方は自分の肩に掛けていた羽織を脱ぎ、千鶴にふわりと掛けてやった。

「風邪を引かせる訳にはいけねぇからな」

 羽織っとけ、と土方が言う。

「土方さんは寒くないですか?」
「これくらいでどうこうなる様な鍛え方はしちゃいねえよ。ほら、袖を通せって」
「あ、はい。あの、ありがとうございます」

 暖かいです。
 千鶴がそう言って、羽織の袖に腕を通せば、土方の表情も和らぐ。

(…?)

 千鶴が何かに気付き、土方の羽織に鼻を近付ける。
 くんくんと、嗅いでみた。

(何の匂いだろう?)

「何だ?何か匂いでもすんのか?」
「いえ、その」
「?」

 訝しげに土方は首を傾げ、千鶴に掛けた羽織の裾を掴み、自分も匂いを嗅いでみる。
 千鶴の目の前に土方の頭がある。

(ち、近い…あ、あれ?)

 羽織と同じ匂いが彼自身からしてきた事に気が付いた。

(……土方さんの…匂い…なんだぁ)

「特に気にならねぇが、…どうした千鶴」
「え~と、あの、その…墨の…」
「墨?」
「墨の匂いみたいです…」

(墨と、多分土方さんの匂いが混じってる…なんだろう、安心する…)

「部屋ん中に掛けてるからな、墨の匂いが移っちまってんだろう」
「みたいですね」

 あはは~と千鶴は笑いながら、

(墨よりも先に土方さんの匂いに反応しただなんて言えない…)

 心の中で呟く。
 何故土方の匂いが安心するのかは分からない。
 出来ればもう暫くはこの羽織を借りていたい、そんな気分だ。
 と。

「…ふぁ…」

 千鶴の口から出たのは欠伸。
 慌てて袖口で口元を隠す。

「…ふ…あふ」

 千鶴とほぼ同時に、土方も口元を手で覆い欠伸をひとつする。
 自然と二人は顔を見合わせて、笑った。

「散歩の甲斐があったみてぇだな」
「ふふ、そうですね」
「なら部屋に戻れ、千鶴」
「あ、羽織」
「構わねぇ、そのまま持ってけ」
「でも」
「同じ屯所内にいるんだ。返すのは何時でも良い」
「…はい」

 ほら戻れ、と土方が背中を押す。
 自分の部屋に向かい歩いていた千鶴だが、不意に立ち止まり土方を振り返る。

「土方さん」

 千鶴の背中を見送っていた土方が、何だ?と返す。

「御存知ですか?月には兎が棲んでいるのだそうです」
「…兎?」
「はい。お餅をついているそうですよ」
「へぇ」

 二人してもう一度満月を見上げる。

「それでは、土方さん」
「うん?」

 視線を千鶴に戻すと、そこには綺麗な笑顔があった。

「今夜は御一緒させて頂けて嬉しかったです。おやすみなさい」
「…あ、ああ。おやすみ」

 千鶴は一度お辞儀をすると、今度こそ部屋へと戻っていった。

「…今が、夜でよかった」

 ボソッと土方が漏らす。
 何だか顔が火照っている気がする。
 あの笑顔は反則だろ、と溜め息を吐く。

「ったく、こんな所を総司にでも見られた日にゃ面倒な事になるぜ…」

 ポリポリと頬をかきながら、自分も部屋に戻る。
 気分も落ち着いて、これならゆっくり休めそうだと。
 布団の中に身を入れた。

 

 次の日。
 少しばかり寝坊した土方が遅れて広間に姿を見せた時、

「誰かさんは夜中に庭で何してんですかねぇ。遅くまで起きてるから寝坊しちゃうんですよ?」

 と沖田に言われてしまった。
 その後、顔を紅くした土方が怒鳴ったのは言うまでもない。
 
「あれ?千鶴もまだ起きて来てねぇの?」
「みたいだな。千鶴にしちゃ、珍しいんでないの?」
「おーい平助、起こしてきてやれよ」
「んぁ?俺、朝餉の準備がまだ終わってねぇもん。そう言う新八っつぁんが様子見てきてよ」
「たーく、仕方ねぇな。行ってくっか」

 永倉が広間を出て千鶴の部屋に向かう。
 その頃千鶴はまだ夢の中。
 布団の上に掛けて眠ったはずの羽織をいつの間にか抱きしめるようにして眠っている姿を見られ、一騒ぎ起こるまで、あと少し。

 

 

終わり


 

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