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薄桜鬼で初めての小説です。
数年前までオフでも活動していたんですが、最近パッタリと小説を書かなくなっていました。
薄桜鬼に出会って執筆欲が暴発(笑)
とりあえず、かなり久しぶりに小説を書いたので、何だかまとまりがないものに。
誤字脱字あると思われます…。
それでも宜しければ右下からどうぞ。
「…これで終いか」
いつもの様に朝から書類に追われていた土方だが、どうやら今日の分は全て仕上げてしまったらしい。
「はぁ…ったく、何でもかんでもこっちに回しやがって」
溜め息混じりに愚痴りつつ、背を伸ばす。
殆どが近藤の名義で所司代に提出する重要書類なので、手は抜けない。
副長の座についてからはこういった仕事が殆どなのだが、実際自分も外で体を動かしていた方が性に合っていると思う。
だが、
『いつもすまんなぁ、歳』
と、局長である近藤に言われると何もいえない。
屈託のない、人好きのする笑顔が付属すると尚更だ。
「甘いよなぁ、俺も」
何だかんだで面倒見が良すぎるのだ、土方という男は。
しかし、日の高いうちに書類が片付くのは実に久しぶりだ。
一息つこうと側にあった湯飲みに手を伸ばしたが、中身は空っぽ。
湯飲みの底を見て、先程飲み干したなと思い出す。
普段なら茶が飲みたいと思うときには頼まずとも彼女が、屯所に軟禁中の千鶴が淹れ直しに来てくれるのだが。
そういえば、この茶を淹れてもらってから随分経っている。
(総司あたりに捕まってるのか…?)
屯所の中でもあまり自由に出来ない彼女にとって、行動できる範囲はとても狭い。
それでも部屋から出るなと言ってあった最初の頃に比べると、大分待遇も改善されているのではないか。
しかし、年頃の娘に男装をさせ男所帯に軟禁というのも如何なものかと、思ってはいる。
思ってはいても、それが最善策ともなれば他にやりようがない。
「はぁ…」
鬼副長だの何だの言われていても、土方だって人の子。
それなりに気を使っているつもりなのだ、自分なりに。
口に出しては言わないが、何事にも一生懸命で直向きな千鶴の事を可愛く思っている部分もある。
縁側に続く障子戸をみやり、自分で淹れに行くかとも思ったがどうせ飲むなら美味しいお茶が良い。
自分の好みの熱さに渋さをいつの間に覚えてしまったのか、千鶴の淹れるお茶が一番美味いと思う。
それが普通となっている事が、不思議でもあった。
「まぁ、近くにいるんだろうが…探すか」
そう呟いて湯飲みを持つと、土方は立ち上がり障子戸を開いた。
少し冷たくなった秋風がふわりと部屋の中に入り込む。
その清々しさに僅かに目を細め、部屋の外へ出る。
まずは勝手場に向かうかと視線を動かした先に、今まさに探そうとしていた人物がそこにいた。
縁側に腰を下ろし、庭先をじっと見つめている。
こちらには気が付いていない様だ。
何事かと思い同じ方に視線を向けてみるが、特に心惹かれるものはない。
あるとすれば、取り残した実が付いた柿の木だけだ。
「千鶴?」
呼びかければ、はっとした視線が土方に向けられた。
次いで、それが申し訳ないものに変わる。
「ひ、土方さん。すみません、御用ですか?」
「ん?あぁ、茶をな淹れてもらいてぇんだが」
「すみません気が付かなくて。すぐにお淹れしますね」
「いや」
「土方さん?」
慌てて立ち上がりかけた千鶴を手で制し、何を見ていたのかと尋ねる。
すると、千鶴はちょこんと首を傾げ、えっとですねと微笑んだ。
「柿の木に実が残っているじゃないですか」
「全部採るのは野鳥が可哀相だって近藤さんが言うからな。ま、実際はカラスが来るくれぇだろうが」
「一番上の実を見ていたんです」
「一番上?」
千鶴に言われて土方も軒から覗く様にして見上げてみるが、一番上は見えない。
仕方なく千鶴の横に腰を下ろし、今一度柿の木を見上げる。
「カラスじゃないのが来てるな」
「はい。なんていう鳥かなって」
「ありゃあ尾長だな」
「オナガ?」
「この辺りじゃあ、珍しいんじゃねぇか?江戸にいた頃は良く見かけたもんだが」
「そうなんですか。…土方さんお詳しいんですね」
「一般的なものならな。…で、それを見てただけなのか?」
「あの子達、周りにもまだ実は残っているのに、1つの実を一緒に啄ばんでいるんです。片方の子は小さいし、その」
親子かなぁって…思って、と千鶴が言う。
その時の表情をちらりと見て彼女がなぜあの2羽を見ていたのかが分かった。
未だに行方が知れない千鶴の父、鋼道。
千鶴が京に来た本来の目的は父親探しだ。
2羽の鳥に自分達親子を重ねていたのだろう。
新選組とて彼の行方を追ってはいるのだが、情報は1つも入って来ない。
これだけ情報が無いというのも不自然な感じがしないでもないのだが…。
そんな事は、千鶴には関係のない事。
親の無事を知りたい、それが最優先だ。
(…暗い顔しやがって…)
新選組の屯所に来てからは、落ち込んだ表情などめったに見せない千鶴。
無理をしている事は重々承知している。
「可能性はあるだろうが、どっちかってぇと番かもしれねぇぞ」
「…そっか、そうですね」
土方の言葉に千鶴は俯いてしまった。
(なぜそこで落ち込む…ったく仕方ねぇな)
俯いてしまったその頭の上に、ぽんと手を置き、軽く撫でる。
「子供ってのは親の知らないところで成長していくもんだ」
「土方さん?」
「鋼道さんは見つかる。見つけてやる」
「はい」
「だからお前はここで自分を自分なりに成長させてみろ」
「自分なりに?」
「掃除・洗濯・飯作りに繕い物。花嫁修業と思えば悪くねぇだろ」
「は…花嫁修業!?」
「つーか、俺らの雑用を押し付けてるんだがよ」
「そんなっ!私がやりたくてさせて頂いているんです!」
そういって顔を上げた千鶴の表情には暗さはなく、いつもの明るい笑顔が戻っていた。
千鶴につられて土方の表情も柔らかくなったが、その瞬間千鶴がまたも顔を俯かせたので怪訝そうに土方が覗き込む。
何故か、彼女の頬が紅く見える。
「どうした千鶴?」
「いっいいえ!」
普段見せない土方の笑顔に、千鶴は戸惑いを隠せない。
(かっ顔が熱いし土方さん近いっ!お願いですから覗き込まないで~)
「ちづ」
「お、おおおお茶!」
「は?」
「熱いの淹れてきますね!」
「お、おお。頼む」
「お茶請けに沢庵も!」
「…任せる」
「美味しいの頂いたんです。すぐにお持ちしますね!」
そういって立ち上がった千鶴はパタパタと走って行く。
「廊下を走ってんじゃねぇよ。危ねぇだろうが」
後ろからかけられた言葉には、叱り付ける様な強さはなかった。
呆れは混じっていた様な気もするが。
土方のいる場所から離れた千鶴は、紅くなる頬を両手で挟み立ち止まる。
(うわぁうわぁどうしようっ)
胸を打つ鼓動がどんどん早くなる。
父親を思い、落ち込みかけていた気持ちはどこかへ吹き飛んでしまった。
今は鋼道には申し訳ないが、それ所ではない。
(落ち着け、落ち着け、私)
左手は頬に当てたまま、右手は熱くなる顔を扇ぐ。
そんな行動を沖田に見付かり、からかわれるのはまた別のお話。
終わり