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あれです、碧血録DVDの四巻を見た所為です。
なのでアニメ設定ちょっと入ってます。
突発的に書きたくなって書いたはいいけど、く……暗いなぁ…(涙)
内容的には以前書いた『想いを馳せて心を寄せて』の番外編的扱いです。
えっと、土方さんが仙台で千鶴に『局長命令』を下す少し前と思って頂けると助かります。
想いを~を書いた時から間が空きましたので、違和感がないか辻褄はあっているか不安ですが…まぁそこはご愛嬌ということで!
(いや、で!じゃないし…)
大鳥さん、大好きです!
函館組大好きです!
想い~の番外編的な話はまだ考えてる分や書きかけのもあるのでちょこちょこお披露目出来ればなぁと思いつつ…次はいつになるかなぁ…。
い、色々頑張ります!
小説は右下からどうぞ。
「茶が飲みてぇな…」
今の時勢とは裏腹な長閑な午後。
一仕事を終えた土方がポツリと漏らした。
手元にある湯飲みは空っぽ。
仕事の量を大体把握している彼の小姓は終わる頃を見計らっていつもなら新しいお茶を持ってきてくれるのだが。
「……仕方ねぇか…」
昨日の今日だ、と土方はゆっくりと息を吐いた。
昨日…。
この仙台の城で彼の唯一の小姓である千鶴は、育ての親を亡くした。
ずっと逢いたくて、それこそ江戸から京に一人で探しに来るほど、大せつな父親を…目の前で亡くした。
同時に千鶴にとって新選組の中でも一番気を抜くことが出来ていたのであろう藤堂や、新選組も彼女の事も決して軽んじてなどいなかった山南も亡くしたのだ。
「鋼道さんを喪って…あいつを帰す場所がなくなっちまった。俺は…どうすりゃいいんだろうな…」
昨日の出来事は土方にとっても少なからず動揺を与えていた。
目の前で羅刹と化した仲間の最期の瞬間を看取った。
二人が灰と化し青白い炎を上げて燃え尽きた時、自分の最期もこうなんだろうと悟る。
そして、峠の大地に突き立てられた一本の刀の事を思い出した。
見覚えのある太刀。
刃はぼろぼろで、本来の役目を果たせない状態になっていた。
その持ち主もきっとあの二人のように最期を迎えたのだろう。
たった一人で。
「山南さんに平助、そして…総司。羅刹になった幹部で生きてんのは…俺だけ…か…」
それだけではない。
この日の本で最後の羅刹だ。
羅刹は時代の徒花だと山南が言っていた。
そこにあっても何も生み出しはしない。
あるのは本来の寿命よりも遙かに早く訪れる最期の時。
井上を喪って山崎を喪って。
近藤を沖田を喪って、斎藤に藤堂、山南さえも喪った。
原田や永倉も今は共にいない。
江戸にいた頃もし京へ進む道を自分が近藤に持ちかけなかったら。
もし武士になりたいと願わなければ…こんなにも多くのものを喪わずにすんだのだろうか。
そう考えて土方は頭を大きく振った。
今更そんな事を考えても仕方がない。
進んできた道が巻き戻るわけではないのだから。
はぁと溜め息を吐いた時、戸の向こうに人の気配を感じた。
「?」
千鶴ではない。
誰だ、と声を発する前に、
「土方君、ここにいるかい?」
最近聞きなれた声が自分に呼びかけてきた。
「何だ、大鳥さんか」
「入っても?」
「ああ、構わねぇよ」
入室を土方が許すと、どこか曇った表情の大鳥がそこに立っていた。
「合流するのは数日後だと聞いていたが、何かあったのか?」
「え、ううん。ちょっと榎本さんに用事があって先行してきただけで、この後一度隊に戻るよ」
正式に合流するのは数日後、そう言った表情はやはり晴れない。
「じゃあ何だよ」
「ねぇ土方君。君のお小姓は?」
「…部屋にいるんじゃねぇか」
「何かお使い頼んだんじゃなくて?」
「頼んじゃいねぇよ。何が言いたいんだあんたは」
大鳥は小さく首を傾げ、
「じゃあ人違いかも」
とそう言った。
「…?」
「さっき外でね、君のお小姓、えっと雪村君っていったけ。彼女が一人で歩いてたから声をかけたんだけど、気が付かなかったみたいでさ」
大鳥が千鶴の事を彼女と言っている事が、もう男装が無意味なものだとが分かる。
千鶴は綺麗になったと思う。
初めて会った時はまだ何も知らない、本当にただの小娘で。
その表情にも言動にもどこか純真、というより幼い感じが漂っていた。
そんな子供だったのに。
最近、益々綺麗になってきた。
「外?」
「うん。ほら、ここの宿から少し離れた所に大きな桜の木があるだろう?…知っているかい?」
「町外れのか?」
「そうそう。その近くだよ。何だかぼーっとしてたから声をかけたんだけど、返事が無くてね。あの子だったらきっと振り返って笑顔で挨拶してくれるだろうし…って思ってたんだけど」
でもやっぱり気になってね、と大鳥がいう。
「………悪い大鳥さん、あんた急ぎの用事か?」
「さっきも言ったよ、榎本さんに用事があったんだって。ここへは少し顔を見に寄っただけ」
「そうか。…ちと気になるんでよ、俺も出てくる」
「部屋にいるんじゃなかったのかい?」
「…茶を淹れて来ねぇ。あいつは…俺の仕事が終わる頃には必ず茶を持ってくるんだ」
「へぇ。よく出来たお小姓だね」
「俺には…勿体ねぇかも…な」
「………土方君」
「何だよ」
「さっきの訂正しようかな」
「はぁ?」
「お小姓じゃなくて、まるで気立ての良い奥方だね」
「………」
驚いた様に大鳥を見る土方に、彼は笑う。
「羨ましいよ、君が」
「……何言ってんだ。それこそ………」
「うん?」
「………そういや言われた事があったな…」
「土方君?」
「千鶴は俺達…いや、俺には過ぎたもの、だ」
「……土方君」
(そろそろ、いい加減ここいらが潮時なのかもな…)
「何でもねぇ。…忘れてくれ」
「…ねぇ土方君」
「まだ何かあるのか?」
「君はもっと我侭言っても良いんじゃないかな」
「何だよ突然」
「君が今まで通してきた我は君自身の為じゃなく、新選組の為だろう?新選組を抜きにして、君の土方歳三の我侭を…ぶつけてみたらって言ったんだよ」
「…何の為に」
「君が幸せになる為、かな?」
「俺から新選組を取ったら何も残りゃしねぇよ…ただの抜け殻になっちまう」
「そうかな?もう、君自身だって気が付いてるんじゃないの?」
ここにいる人、と大鳥は自分の左胸を押さえて静かに言った。
「…俺のここにあるのは……新選組だけだ。…じゃあな」
土方も自分の左胸を叩きそう言うと、部屋から出て行った。
足音が遠ざかっていくのを確認して大鳥は大きな溜め息を吐いた。
「自身の事に関しては思い切り不器用だよねぇ…土方君って。それが裏目に出なきゃいいけど…」
視線を落とした先には空っぽの湯飲みがある。
「あのね、土方君。大切なのは君の想いだけじゃなくて、相手の意見も想いも全て大切なんだよ?」
彼の為に準備される一息吐く為のお茶。
きっとそれは彼好みの渋さや熱さ。
仕事の邪魔にならない様、差し入れを断られない様きっと彼女の中でしっかり計算されているんだろう。
「土方君は自分が幸せになる為のものは切り離しちゃうタイプだよね…念の為に手を打っとくかな」
確かあの老医師が助手を欲しがっていたっけ、小さく呟きながら大鳥もその場を後にした。
大鳥を置いて部屋を出た後、念の為に千鶴の部屋も覗いてみたが誰もいなかった。
彼女の事が気になって土方も宿を出ると、大鳥の言っていた町外れの桜の場所へと足を向けた。
「桜…か」
秋の深まりだしたこの地方ではもう殆どの葉も散っている。
京にいた頃、何度か仕事のついでだと言って千鶴を連れて花見をした記憶がある。
はらりはらりと舞う花弁を、それは幸せそうに見上げていた彼女に、目を奪われた事も。
「桜は、あいつに似合う花だな」
白でもなく、赤でもない。
薄い桃色の柔らかくて優しい色。
見る者を魅了して心を癒す。
それでいて驚くほどに潔く凛としている。
「…気付いてるさ…だからこそ…」
自分の心の臓の上で右の拳をぐっと握る。
時機に蝦夷へ発つ日が来る。
今はまだはっきりと決まったわけではないが、榎本や大鳥の話からするとそれが決定される日も遠くは無いだろう。
(傷付ける事は分かってる…でもよ、これが俺の我侭なんだ)
自分の為に我侭を言えと言うのなら、これが最初で最後の我侭だ。
(生きてくれ)
死地を求める土方が願うのは、ずっと傍にいて支えてくれた彼女の生。
自分と共に来る所為で、彼女の笑顔が消えるなど考えたくない。
鬼といわれた土方だって、愛しいと認めた女の泣き顔なんて見たいと思う筈もない。
だが、だからと言って死に顔なんて以ての外。
千鶴の死に顔を看取るくらいなら、泣き顔のほうがずっとましだ。
(許してくれなんて思わねぇし恨んだって構わねぇ…ただ、生きて欲しい)
そんな事を考えながら歩いていると、いつの間にか目的の場所に着いていた。
視線の先には、桜の幹にもたれる様にして立っている千鶴がいる。
姿を見付けて、ほっとしている自分がいた。
「ったく…情けねぇよなぁ……母親を探す子供か、俺は…」
口に出しながらも、それが違うという事は分かっている。
彼女の姿が見えてほっとしているのは彼女の優しさに依存しているから。
彼女のくれる温かさに安心しているから。
そして…
たった一人の特別として、心が求めているから。
千鶴が欲しい。
この腕に閉じ込めて、誰の目にも映らぬ様に隠してしまいたい。
もし自分が新選組で無かったら。
もし自分が土方歳三でなかったら。
もし生まれた時代が動乱の世で無かったら。
心が騒ぐ。
心が求める。
心が…軋む。
たった一人、目の前に立つ女が欲しい。
もし新選組で無かったら。
もし土方歳三でなかったら。
もし戦いの無い平和な世であったなら。
心が望むように生きられたかもしれない。
愛しい者と生きる道があったのかもしれない。
だがいくら想ってもどうにもならない。
…だから―――
「千鶴」
彼女の名を後幾度呼べるだろう。
「土方さん?」
後幾度彼女が自分の名を呼んでくれるだろう。
「ったく、勝手に居なくなるんじゃねぇよ」
後幾度心配してやれる?
「すみません、何だか歩きたくて」
この表情はまた見ることが出来るだろうか。
「戻るぞ。…戻ったら茶を淹れてくれ」
千鶴の淹れる茶を後幾度飲めるのだろう。
「はい」
素直に頷く千鶴の傍に後どれだけ居られるのか。
歩き出す土方に、付かず離れず千鶴がついて来る。
(後どれだけ、お前の足音を聞けるんだろうな…なぁ……千鶴)
不意に目の奥が熱くなる。
込み上げてくるものがあるが、それを見せるわけにも流すわけにもいかない。
ふぅと大きく息を吐き、どこまでも高い秋の空を見上げる。
(せめて、お前を傷付けるその日までは…)
彼女の足音も、少し高めの声も。
笑った顔、怒った顔、困った顔、拗ねた顔。
千鶴が土方に見せる全てのものを、大切に見守って心と記憶に焼き付けよう。
「…甘いもんが食いてぇな」
「え?」
「団子でも買っていくか」
「はい!」
どんなに自分が辛くても絶える事のないその笑顔。
(ああ、お前は俺の―――――……)
どんなに遠く離れても。
どんなに千鶴に嫌われようとも。
彼女への想いは海を越えて馳せて行くだろう。
心を寄せる合う事はできなくても、最後のその日まで、最期のその時まで。
ずっと、きっと
愛してる……
終わり