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【和花】 なごみばなと読んで頂けると嬉しいです。 乙女ゲーム系二次小説オンリーサイトです。
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先日『堕天遊歩』の弓鳴一音様より素敵な小説を頂きました!
……先日と申しましても…その…一週間以上前なんですけども…(汗)
5万打を迎えられた企画としてリクを受付けて頂いたんです。
リクの内容は【喧嘩する土千と巻き込まれる箱舘組。気付いた時には仲直り】でした。
そしたらもう本当に堪らん小説を頂いてしまいましたっっ!!
しかも長い☆
こんなにたっぷり書いて頂けるなんて、本当にありがとうございました!

思わずニマニマしてしまう、読み応えたっぷりの素敵小説は右下からどうぞ。



で、私自身なんですが。
体調は大分回復してます…咳意外は。
のど飴くわえたままオフの仕事もこなせてますが、正直小説を書く気力が…ありません。
なので大変申し訳ありませんが、和花自体の更新は今月いっぱいお休みさせて頂きます。
来月からはまた頑張って更新していきますので、御理解頂けますと大変助かります。

皆様も体調を崩されたりなさいませんよう御自愛下さいね。
そして和花を見捨てず来月からまた遊びに来て下さると嬉しいです(切実)







戦争とは名ばかりの、行方の見えた戦い。
けれど兵達の士気が低いかと言えばそんなことはなくて、どちらかと言えば結束は高い。
せめて一矢報いてみせようと、天然の要塞であると同時に檻でも脅威でもありえる厳寒の中訓練を重ね、兵たちは着実に戦力に磨きをかけていた。
…けれど一つ、忘れてはいけない事がある。
旧幕府軍は箱舘政府――そう、新政権を立ち上げたのだ。
政治は戦だけで纏まる訳がない。


氷華を融かす小花


ぺらりと書類をめくる音が静かな執務室にやけに響く。
陸軍奉行並、土方の執務室は彼の立てる微かな物音に満たされていた。
それもその筈、普段は土方の側に控えてあれやこれやと世話を焼き休憩を勧める、見目愛らしい小姓殿の姿が部屋のどこにも見当たらない。
静かな部屋で干渉者もおらず、土方の仕事は快調かと思いきや…その眉間には、くっきりと深い皺が刻まれていた。
「……おせえ…」
ぽつり、と不意に落とされた声はかなり低く響く。
それはもうここ数ヶ月類を見ない低さだ。
今なら野山の樋熊すら怯むかもしれない、【いかにも危険地帯】な陸軍奉行並の執務室に、こんこん、と扉を叩く軽い音が届いたのは間もなくの事だ。
コンコン、と。
部屋に響いた軽い音に、土方はぴくんと眉を跳ね上げる。
一瞬伺うように扉に走った視線は直後更に険を増した。
「…何の用だ。」
「…せめて中に入ってからそれは聞いて欲しいんだけ…ど…」
かたりと戸を引いて入って来たのは大鳥で、苦笑気味に土方に向けた顔は、途中でぎしりと固まった。
射殺さんばかりの視線が容赦なんて欠片もなく向けられている。
――…僕、何かしたっけ…
思い当たるところは…一つもないと言えば嘘になるが、それでもこれほどに機嫌を損ねる真似はしてはいない筈だ。
後退しそうになる気持ちを押し止め、大鳥は口を開く。
「……えーと、急ぎの書類があったから打ち合わせがてら取りに来たんだけど…」
「どれだよ。」
内心びくつきながら話し掛けると、仕事の話には応じるらしい態度に少しほっとする。
大鳥は気を取り直して、目的を切り出した。
「この前の関税の話の。今なら榎本さんも手が空いてるから、こっちである程度詰めちゃおうと思って。君のとこまでは上がって来てるだろ?」
「さぁな。」
「…へ?」
さらっ、と今なんだか土方らしくない言葉が聞こえた気がする。
仕事の鬼たるところがある土方がまさか、自分の手元にある書類を把握していないなんて。
そんな珍しい事があるだろうかと大鳥は土方を見る。
「雪村君が纏めてくれてるんじゃないのかい?」
そう、何気なく告げた瞬間。
――ひぃっ!さ、殺気!?
一段と鋭利な視線が大鳥を突き刺した。
余りの剣幕に、今度こそ一歩たじろいだ大鳥は全力で逃げ出したい心理と格闘しながらそれでもなんとか声を搾り出す。
「あ、あれ…そういえば雪村君は…」
「戻ってねえよ。さっきあんたが連れてってからなぁ。」
――や、薮蛇…
大鳥は泣いてしまいそうな衝動に駆られながらも部屋を出ることはしなかった。
いやどう考えてもさせてもらえる雰囲気じゃない。
…背を向けたが最後刀が飛んでくる、そんな気がする。
「千鶴はどうした。」
「し、知らないよ。僕の頼んだ仕事はもう半時も前に終わってるし、てっきりここに戻ってるものだと…」
少し前、大鳥は土方に無理を言って千鶴を借り受けていた。
というのも、外来語を扱える人員の少なさが深刻でならないためだ。
陸海共に一般兵士に外来語を使える者は殆どいない。勿論学ぶ暇もない。
土方とて片言で辛うじて会話している状態だ。
大鳥や榎本達、一部の高官とその側近、一先ずの会話に困らない程度の語彙力を有す者はその程度しかない。
諸外国との外交は日々困難の繰り返しだ。
そんな折、発覚したのが千鶴の存在だった。
元々綱道を手伝って、また新選組で山崎と医術を学んでいた千鶴は、片言ながらも蘭語の心得があり、外来語への苦手意識も殆ど持っていなかった。
更に、ここへ来てからは土方の書類を仕分けるために辞書片手にいつの間にか知識を深めていた。
勿論それを知るのは土方一人…の筈だったのだが、ある日蘭語の医術書を読んでいる姿を榎本に見られ、そこから話が広まるまではあっという間の事だった。
結果土方は大鳥達に千鶴の事を隠していたことをつのられ、忙しい時には千鶴を借り出す事を約束させられる羽目になったのだ。
土方としては非常に…ひっじょーーーに面白くない展開だが、榎本にまで乗り出されては否とは言えない。
そんな訳で千鶴が大鳥に連れ出されたのが一つと半時程前。
それから今現在まで、一度も千鶴は部屋に戻ってはいない。

上官なのに…なんて言い訳は今の土方に通じる気配ではない。
これは取り敢えず一刻も早く千鶴に帰って来て貰わねば。
――何処にいるんだ雪村君っ!
と、大鳥の必死の願いが通じたか、扉をノックする音が部屋に響き渡る。
「雪村君!?」
咄嗟に振り返り土方の反応も待たずにがらりと扉を引いて…大鳥は固まった。
「…す、すみません。」
「どうした?大鳥君。」
そこにいたのは、ここに来る前自分が打ち合わせの為にと声をかけた、島田と榎本だった。
背後に感じる気配が、一段と危険性を増してのしかかる。
――ヒイィッ!
目の前の二人も、何処か重苦しい空気と大鳥の異常にぴたりと動きを停めた。
「…あー…土方君、大鳥君から声が掛かったんだが、今時間あるか?」
「ちょ、榎本さんもその方が都合がいいかって乗り気だったじゃないですか!」
「いやいや、言い出したのは大鳥君でな?」
「榎本さんっ!」
もはやこの場に来ては意味のない責任の押し付け合いをする横で、島田はそろりと部屋を見渡す。
「えっと、土方さん雪村君は…」
「ああそれ禁句ーっ!」
きっと救いを求めたのだろう島田の気持ちは分からなくもない。
だがしかしその地雷は先程大鳥も踏んだばかりの今一番の危険物だ。
案の定、鋭い視線が三人纏めて突き刺さる。
「え、えーと…?」
「ああ?千鶴がいないからどうした。どうせ頭が良くて便利な俺には過ぎた小姓だからな、俺じゃ物足りなくて余所で仕事してるんだろうよ。」
「わー…完全に拗ねてるよ。」
不機嫌丸出しな声と台詞に大鳥は小さな声でげんなりと漏らす。
ここまでくると、からかう余裕など存在しない。
一刻も早く千鶴に帰ってきて貰い機嫌を回復してもらわねば、打ち合わせもままならいだろう。
――まったく、どこにいるんだよ雪村君…
「あの…皆さん入口で何されてるんですか?」
大鳥が盛大に―ただし土方にばれぬよう心のなかで―溜息を吐いた直後。
漸くその場の誰もが待ち望んでいた少女の声が響いた。

聞こえた声に入口にいた三人共がはっと振り返る。
そこにはきょとんとした顔で見返す千鶴と、その直ぐ後ろに一人の青年―新選組隊士・相馬主計の姿があった。
「会議ですか?でしたら直ぐお茶だけお持ちしますね。」
部屋の内側のひしひしと張り詰める空気には気付かないのか、千鶴はにこりと笑って告げる。
そして言葉の通り勝手場の方へとくるりと足を向ける何気ない千鶴の行動に、ひぃっとこの箱舘新政府の高官たる男達が硬直した。
「ゆ、雪村君待った!お茶より、ちょっと待ってこっち来て!」
慌てて大鳥が声を上げると、千鶴は素直に足を止める。
それに傍の二人が安堵の息を吐くのを感じながら、大鳥は千鶴を招き寄せる。
千鶴は首を傾げながらも足をこちらへと向けてくれた。
「どうかしましたか?」
「どうかって言うか…雪村君一つ聞くけど、僕の仕事が終わった後何処にいたんだい?」
「え?あの後ですか?相馬さんと書庫で資料を探してましたけど。」
さらりと告げられた言葉に、びくっと大鳥は身を強張らせた。
刺さっている。
背後からざくざくと土方の視線が刺さっている。
「…雪村君。」
「はい。何でしょうか大鳥さん。」
「……頼むから取り敢えず今は此処にいてほしい。」
「??此処に…ですか?」
切実に告げる大鳥の言葉に千鶴は何が言いたいのだろうといわんばかりに目を瞬かせる。
いくら土方との線上に大鳥がいる形になっているとはいえ、何故土方の感情の機微には誰より聡い千鶴がこの状況に気付かないのか。
余りに傍にいすぎて、感覚が鈍ってしまっているのではないかとさえ疑ってしまう。
「うん。頼むから。お願いだから。…土方君の傍にいて。お茶も、仕事も、会議も全部気にしなくていいから。」
「…は、はい…?」
戸惑いながらも千鶴が頷いたのを確認し、大鳥は千鶴を部屋へと押し込むよう誘導した。
と、其処まで来れば流石に千鶴もビクリと身を固める。
漸く、土方の状態に気が付いたようだ。
「…え、あの。ひ、土方さん?どうか…されましたか?」
それを聞けるだけ千鶴は勇者だ。あるいはやはり本当に鈍ってしまっているかだが。
「仕事はもういいのか。」
「は、はい。翻訳も、資料探しも、もう終わりました。」
土方はふうんと頷いて見せるが、一向に機嫌回復の目処は見えない。
千鶴は困惑しつつも沈黙に耐えられずに口を開く。
「書類、纏めますね。あ、でもその前にお茶をお持ちしましょうか。」
「いやいい。」
「え、お茶いりませんか?」
「ああ。それよりこっちにこい。」
取り敢えず思いついた提案はすげなく断られ、呼び寄せる手の動きに千鶴は小さく頷いて傍による。
そしてほんの少し怯える心を隠しながら土方の机の横に立つと、突然ぐらりと視界が大きく揺れた。

「ふぇ…??」
「わー…」
きょときょとと状況が理解できず千鶴が目をまたたくと、誰かがそんな呆れとも感嘆とも付く声を漏らした。
右を見ると先ほどまで入り口近くにいた四人の姿。
左を見るとぶつかりそうなくらい近くに整った顎。
舌を向けば自分はどこかに座らされていて…千鶴は一拍どころかかなり遅れた反応で、ぼっと頬を染め上げた。
「ひ、土方さん!?何されてっ…お、降ろしてくださいっ!」
「耳元で騒ぐなうるせえ。今大鳥さんに言われただろうが。茶はいいから此処にいろ。」
「此処って、居ろって言うならこのお部屋だろうと入り口で見張りだろうとしますけど、此処って違いますよね!?」
「ちがわねえよ。」
がっちりと腰を掴まれて…土方の膝の上に抱え上げられた千鶴はじたばたとその腕の中でもがく。
だが土方の手は緩むどころかよりしっかりと回しなおされ、千鶴は羞恥と戦いながら助けを求めるように大鳥を見た。
「お、大鳥さんも何か言ってください。これじゃお仕事の邪魔だし、会議もできませんよね?」
「いやー…別にいいかな。雪村君だし。」
「守秘義務という点に付いては、疑う必要もありませんね。」
「そもそも土方君の書類を普段から手伝ってるんだ。俺たちだけだし会議の場にいてもらったところで不都合はないよな。」
「ええ!?」
だが返って来たのは否定どころか実にあっさりとした肯定。
さらには島田どころか、箱舘政権の最高官、総裁の榎本まで何故か頷いてみせる。
状況がよく飲み込めず情けない声を漏らした千鶴は、最期の望みを託すよう残る一人に声をかけた。
「そ、相馬さんもおかしいと思いますよね?」
「え…」
ぴた、と。その瞬間にその場の空気が固まった。
千鶴を腕に僅か緩み始めていたはずの土方の気配が再び張り詰める。
それはそうだ。土方を苛々とさせていたこの空白時間最期の半時、書庫で、千鶴と二人で、資料探しをしていたのは相馬なのだというのだから。
相馬はその反応と周囲の気配を敏感に感じ取り、慌てて口を開いた。
「ゆ、雪村先輩はそれ程皆さんに信頼されているんですね!流石です!」
そんな風に千鶴は遠巻きに土方へと売り渡され、本格的に戸惑い露に土方を見上げた。
「ひ、土方さん。あの、冗談はこれくらいにして放していただけませんか?」
「冗談なんか誰も言ってねえだろ。」
「これじゃお仕事の邪魔になりますっ。」
「ああ…そうだな。右手が使えねえのは不便か。」
「そうですよね!だから降ろして…」
土方が漸く同意を見せたことに、千鶴はほっと表情を緩めた。
そして土方の膝から降りようと身を揺らした次の瞬間…ひょい、と土方の左膝へと場所を移され今度は左手でしっかりと捕捉された。
確かにこれで右手は空く。
空く…が。
「土方さんっ、そういうことじゃないです!降ろしてください!」
「いいんだよこれで。つか黙れ。大鳥さん、会議どうするんだ?」
「あー…やっても大丈夫かい?」
「あぁ、かまわ…」「かまいますから!」
ぐいっと、なんとか無理矢理土方の腕を押し広げた千鶴は、辛うじて出来た隙間からすばやく逃げ出す。
そのまま窓際まで後退し、ぜいぜいと息を荒くしながらも土方を睨み上げた。
「なんなんですか!いきなり。皆さんまで一緒になって!小姓の私が幹部会議に混ざるなんておかしいです!ご用があるなら言って下さい。でもそうじゃないなら私は別室で資料の整理をしてますから、普通に会議をしてください。」
はっきり言って千鶴に睨まれたところで迫力などないのだが、千鶴なりに必死になっているのは皆にもよく伝わった。
とはいえ先ほどまでのあの外にいるかのような厳寒の室内にて会議などごめん被るところだし、何よりその状態で会議になるとは思えない。
つまりまぁ、先ほどの体勢はやはりやりすぎかと思わないわけではないが、千鶴にいてもらわなくては大鳥たちも困るのだ。
「えっと、まぁ雪村君。榎本さんの許可も出たし、仕事はこの部屋でするといいよ。別室にまで行く必要はないからさ。」
「ああそうだとも。」
「そうはいきません!」
大鳥も榎本も切実さを押し隠しいとも大した事では無いと言うように笑って頷く。
だが千鶴は、頑として首を立てには振らなかった。
「会議、されるんですよね?じゃあ私はもう一度書庫に行っています。急ぎではありませんが探したい資料もあるので、そちらで仕事をしています。」
「必要ねえ。」
「あります。」
ぎりりと。土方が千鶴を睨むように見る。
千鶴はそれにも怯まず、じっと見返す。
数瞬の膠着状態の後、動いたのは千鶴だった。
「…私は…土方さんの小姓でいたいんです!」
それだけ告げると千鶴は脱兎の勢いで部屋を出て行った。
言葉に不意をつかれた土方達が反応する間もなく。
ぱたぱたと軽い足取りが遠ざかって漸く、大鳥がはっと意識を取り戻す。
「えっと、今のは一体…」
「……俺が知るかよ…」
くそっと呟きながら前髪をかきあげた土方は、困惑というよりも、苦しそうな瞳で千鶴がいた場所を見詰める。
鬼と讃えられる副長とその小姓殿。
それは間違っていないけれど、二人の関係がそれだけではないことなどこの場の誰もが知っている。
新選組を支える土方を、支えられる唯一無二の女性。
それが、千鶴の存在なのだと。

「ああもう、取り敢えず僕は雪村君探してくるから。土方君は充分反省しとくように。」
当人も混乱状態である、というのは分かっていたが、ちっとも動こうとしない土方に大鳥は呆れたようそう告げた。
「…んだよ。反省って…」
「君の気持ちも分からないではないけどね、さっきのはやりすぎ。純粋な雪村君にあんな態度とったら警戒されるの分かってただろう?紳士失格だよ。」
それだけ言うと既に身を廊下へと滑らせ、言葉の通り千鶴を探すのだろう大鳥は早足で歩いていく。
かつかつと靴音が遠ざかる気配に、土方は小さな舌打ちを漏らす。
こと千鶴の件に関してはどうも大鳥に立場が弱くてならない。
拗ねたようなその態度に、榎本が苦く笑いながら近づいてくる。
「大鳥君から話にゃ聞いてたが、土方君とあろうもんがあの子のことに関しちゃ随分と余裕ねえもんだな。」
「…何を聞いてるんですか何を…」
またくだらない噂立てやがってと土方が歯噛みすると、榎本は軽く笑って見せる。
「小姓じゃないと思ってるなら、ちゃんと言ってやったほうがいいぞ?」
「っ!」
「やっぱり言ってねえのか。まぁ、そんなとこだよなぁあの態度は。」
はははと笑う榎本を、土方はカマをかけたのかとじろりと睨んだ。
だがそれは先ほどまでの凍るような視線でも、殺気の篭った視線でもなく、人間らしい感情を覗かせていて、榎本は更に漏れそうになる笑いをかみ殺す。
「こんな戦況で、それでも彼女を傍に置くのはなんでなんだ?」
「そりゃ…大鳥さんが勝手に呼び寄せたからですよ…榎本さんの認証付きの辞令まで用意しやがって…」
「そんなもん、君が本気なら全部意味をなさねえもんだろ。取り敢えず受け取って、解雇だっていやあ済む。」
「……辞令に許可をした本人がそれを言いますか…」
榎本の言う事は最もで、土方は苦虫噛み潰した気分になりながら最期の抵抗を試みる。
そもそも、千鶴の存在は大鳥の行動だけではない、榎本の認可がなければ成立しないのだ。
あの時…一度は千鶴が破った辞令書は確かに榎本の認可がされていて、それ自体が土方にとって衝撃だった。
なぜ誰もが、あんな少女を戦場に巻き込むことをよしとしようと言うのかと。
「ああ、あれはな。大鳥君が是非にと押すからだ。」
「…やっぱあの人なのか…」
「まあそういってやるな。結構手間かかってるんだぞ。君の小姓としての辞令ではあるが、ここに呼び寄せる理由に医療班での実績まで調べてたからなぁ…」
榎本の言葉は初耳だったのだろう、土方は一瞬瞠目し、がっくりと肩を落とした。
「なんでんな事を…」
「それだけ君に必要に見えたってこったな。実際、それは正解だったんだろう?」
問われれば、否と土方に言うことは出来ない。
たったあれだけの時間、姿が見えないだけでこれ程までに落ち着かない存在など他には居やしない。
もう二度と、千鶴が傍にいない日々に耐えられるとは思わない。
土方はそっと、先ほど千鶴を抱きしめた手に視線を落とした。

そんな会話の一方、千鶴を探している大鳥はきょろきょろとあたりを見回しながら奉行所内を歩いていた。
千鶴の行動範囲など限られている。
少なくとも一人で奉行所の外に出るような筈はなくて、いる場所といえばいくつか候補は絞られる。
そして案の定、先ほどの言葉にあった書庫を探しに来たところで、大鳥はその小柄な陰を見つけることが出来た。
「…雪村君。」
「…大鳥さん…」
呼びかける声に、千鶴が俯いていた顔を上げる。
てっきりあの時のように泣いていることを心配したのだが、そうではなかったようだ。
それでも悲しみをたたえたその表情に、大鳥は痛むものを感じる。
「…すみません。会議の邪魔をしてしまって…」
「そんなの、雪村君が気にすることじゃないよ。どうせ直ぐには始められる状態じゃなかったし。」
そうなんですか、と小さく笑ってみせる千鶴だが、無理をしているのが丸分かりだ。
大鳥は傍によると、窓辺の小さな椅子に千鶴を促して自分は窓に寄りかかった。
「土方君の傍は、辛い?」
念のためにと問いかければ、千鶴はふるふると首を横に振る仕草に安堵する。
最も、ここではいと返って来ようものなら嬉々として自分の小姓にと言いだしてしまう考えもあったが。
「じゃあ傍にいてあげなきゃ。…確かにさっきのは土方君も悪いけどね。」
いきなり女の子にあれはないよねぇと大鳥が笑って見せると、千鶴は再び首を横に振った。
「違うんです…その、恥ずかしかったけどあれが嫌だったんじゃなくて…」
「うん?」
「土方さんの…お仕事の邪魔になるのが嫌なんです。…もう、足手まといになりたくないから…」
それは土方が千鶴に落とした影の深さだ。
はっきり言って千鶴は足手まといどころかかなり有能な人材だ。
普段は目立たないようにしているとは言え、女性という点を差し引いてもこの箱舘政権で果している役目は大きい。
医療、翻訳、そして何より土方を支えるものとして。
千鶴ほど学識高いものは少ないし、あの暮れまでの土方と今の土方を見比べれば誰もがその必要性を疑いはしないだろう。
けれど千鶴にとって、やはり重要なのは土方の考えだということか。
――こーんなに思いつめさせちゃって…土方君も今更なに言葉を惜しんでるんだか。
大鳥は困ったように笑い、千鶴の頭をぽんぽんと軽く叩くように撫でる。
「雪村君、まず一つ。さっき言ったとおり、僕らだけの会議に君が居たって邪魔にはならないよ。君は土方君の小姓なんだから、決まった内容は書類の整理をしてれば絶対目を通すんだ。会議の細かい内容に付いての守秘義務さえ守ってくれれば絶対に邪魔なんてことはない。」
島田が先ほど言っていた通り千鶴の口の堅さは疑うまでもないのだろう。
荒くれものだ狼だと揶揄された新選組に、何故千鶴がいるようになったのか大鳥は知らない。
けれど口の軽い、役立たずな女がこうして生きながらえるともましてやあんなにも大切に守られるとも思えない。
言い聞かせると、まだ少し不安そうに千鶴が見上げてくるから、大鳥は更に言葉を重ねる。
「それからもう一つ。雪村君は土方君の傍にいてあげてくれないと僕らが困るんだ。」
「大鳥さん達が、ですか?」
不思議そうに見上げる千鶴に、大鳥は大きく一つ頷いて答える。
「そう。土方君が無茶した時に止められるのは君だけなんだから。君が居なくちゃ土方君が過労で倒れちゃうよ。そうしたら、みーんな仕事が滞っちゃう。」
笑って告げられる言葉に、千鶴はきょとりと目を瞬く。
そして、少しの間をおいてその意味を理解したのだろう、くすくすと小さな笑いが千鶴から漏れた。
「はい!土方さんの健康管理は任せてください!」
「うん。よろしく。さって…じゃあ部屋に戻ろうか?」
「はい。」

大鳥が千鶴を連れて土方の執務室前まで戻ると、榎本、島田、相馬と三人は揃って部屋の前に佇んでいた。
その光景に、おやと大鳥は足を止める。
「どうしたんですか?まさか、また絶対零度の…」
「いや、そういう訳じゃねえよ。ただ、ちょっと考えこんでるみてえだからな。席を外しただけだ。」
会議どうすっかなぁと榎本がぼやくのに、大鳥は苦笑する。
「その辺は雪村君に任せましょう。雪村君、土方君にちゃんと一度謝らせるといいよ。」
「そ、そんな…」
慌てる千鶴を扉の前へと押しやり、大鳥はにこにこと榎本たちの方へと戻る。
千鶴は躊躇いながらも、扉を小さく叩いてみる。
「…土方さん、雪村です。」
「…入れ。」
何時ものやり取りが、ほんの少しぎこちない。
それでも千鶴はからりと戸を引き、室内へと足を踏み入れる。
土方は気まずそうに窓の方へと視線を向けていて、それでも千鶴の気配に振り返る。
「…あー…あのな。」
「はい…」
土方にしては歯切れの悪い言葉に、千鶴はじっとその姿を見返す。
大鳥は謝らせるといいと言ったが、千鶴にそのつもりは毛頭ない。
かといって自分が謝るにもどう切り出すべきかと視線を彷徨わせていると、ことりと土方の机から音がした。
「………茶、淹れてくれるか。鉄之助のじゃ味気ねえ。」
「…はいっ。」
差し出されたまだ少し残る湯飲みを、千鶴は頷いて受け取った。
そうすると、土方が小さく笑いかけてくれるから、千鶴も自然に笑顔を浮かべる。
「直ぐにお持ちしますね。」
「ああ、熱いの頼む。」
「はい!」
そうしてぱたぱたと軽い足音が…今度はどこか嬉しげにかけていくのを眺めていた大鳥と榎本は、戸惑いを隠せない。
謝罪も、言い訳も、先ほどの件には何も触れてはいないのにいいのだろうか。
そう思っていると、すぐ傍で島田と相馬が小さく笑う声がした。
「し、島田君あれって…いいの?土方君何も謝ってないんだけど。」
「いえ、土方さんと雪村君らしい和解の仕方だと思いますよ。」
「ええ?あれで?あれで和解なの?」
「そうですね。せめて雪村先輩のお茶じゃなきゃ駄目だ、の一事くらい言えばいいと思いますけど…まあ雪村先輩には伝わってるみたいだから、いいんじゃないですか。」
「…ぜんっぜん分かんないんだけど…」
「安心しろ大鳥君。俺にも理解できん…」
戸惑う大鳥に榎本が同意するが、新選組出身の二人はあれで納得しているらしい。
武士としての考えが理解できない…というだけではなく、新選組とはやはり特殊な集団なのかもしれない。
いや、ことこの件に関しては、あの二人が特殊であると言うべきか。
「とりあえずこの分じゃ会議は後回しですね。」
「そうなのかい?」
「ええ。少なくとも土方さんがお茶を飲みきるまでは。休憩時間、ですよ。」
さて、雪村君が戻ってくる前に解散しましょうか、と島田が促すのにあわせ、四人はその場を後にした。


~おまけと言う名の蛇足~
「そういえば相馬君。雪村君半時も捕まえて書庫で何探してたの?」
「え?ああ、あれは俺の探し物じゃなくて、雪村先輩の探しものを手伝ってただけなんですが…」
「あれ?そうなの?」
「はい。何でもえげれすの関税関係の資料を探してたらしくて…俺英語殆ど読めないので雪村先輩に教えてもらった単語が書いてる資料を手当たり次第に探してただけで、実際に使える書類なのかの中身の確認は全部雪村先輩任せでしたけど。」
「……榎本さん。」
「ああ。雪村君に今度条約文書の翻訳でも頼んでみるか。」
「そうしましょう。あーホント、有能な小姓さんで羨ましいなぁ…」
ちなみに…結局会議が出来たのは、翌日のことだったとか。




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