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久佐様より頂きましたリクエスト。
『雪融けてのこるもの:土千』
ED後、二人の元に誰か(新選組幹部希望)が訪ねてくる話
(少し切ないほのぼの甘)
でございます。
土千か?という感じになってしまいましたが…土千です!
お待たせしてしまったのに微妙な感じになってしまいましたが、私自身は気に入ってます。
(って、私が気に入っても仕方ないのですが…orz)
廃藩置県やら色々あった頃だとは思うのですが、そんな時代考証は一切無視でお願い致します(汗)
先に書いた企画小説1の『願わくば 花の元にて』とちょっとリンクしてたりしてなかったり…。
小説は右下からどうぞ。
※補足※
和花のED後土千には3人の子供が居る設定で書き綴っております。
(つまり子供が出てきます…ちょっとですが)
長女『千歳-ちとせ-』とその5歳下に双子の男の子『誠-まこと-』・『新-あらた-』の3人です。
『雪融けてのこるもの:土千』
「なぁ島田」
「何ですか原田さん」
自分の先を歩く男に呼びかけて原田は小さく息を吐く。
「京であんたと再会して、新選組の辿った道程を旅してみたいって言ったのは俺だけどよ」
「はい」
「蝦夷地のこんな山奥に、何かあるのか?」
―――数年前。
江戸は寛永寺のすぐ側の川縁で生死の境を彷徨った原田は不知火の力を借りてどうにか命を繋ぎ止めた。
命を繋ぎ止めたとしても、彼は元新選組の組長であり靖共隊の幹部でもあった為、名と顔が知れ渡っていた。
新政府軍に見付かれば命は無いだろう。
それでも自分の行動に後悔は感じていなかったのでこのまま死ぬのも悪くは無いと思っていた。
しかし、お互いにそれと認める好敵手でもあった不知火に『生きてみろよ。自分の目で色んな物見て来い』そう言われて半強制的に大陸に渡る船に押し込まれてしまった。
数年間自由気ままに旅をしていたが、やはり祖国や親友、同志達の動向が気になって仕方が無かったので数ヶ月前、この日の本に戻ってきていた。
数年ぶりに踏みしめた日の本の地は驚くほどに変わっていたが、どこかで『ああ、やっぱりな』と冷静に感じている自分もいたのだ。
まず訪ねたのは思い出深い京の都。
自分にとって一番思い出深いこの地から歩いてみたいと思ったのだ。
そこでまず偶然にも再会できたのが、島田魁その人だった。
島田は最後のその時まで新選組にいたのだと言う。
「旧幕府軍は明治2年5月18日に新政府軍へ降伏しました」
どこか遠くを見詰めるような眼差しで、島田は静かに告げる。
「当時の土方局長の上司であった大鳥さんが、生きて未来をなす為に降伏するのだと、仰られました」
「………土方さんは?………千鶴はどうなった?」
原田の問いかけに島田は寂しそうな表情で、首を横に静かに振った。
「私や大鳥さんの居た弁天台場が急襲を受けて苦戦している際に…応援に駆けつけるため馬を駆っていらっしゃたそうですが…」
「ま…さか…」
「敵の銃弾の的となり、落馬していたと…知らされました…」
「土方さんは…羅刹だ。撃たれたからって」
「落馬したと思われる場所にお姿はなく…そこにあったのは夥しい血の痕でした。五稜郭にいた隊士の話によると雪村君も土方局長と共に乗馬していたと」
「……死んだってのか?土方さんも、千鶴も!?」
「実は、土方局長と雪村君は一度離れ離れになりました。局長は彼女を仙台の地に残しました…雪村君を守る為に戦場から遠ざけられたのだと思います。ですが、三ヶ月ほど経った頃…雪村君は海を渡り蝦夷の地まで局長を追って来たのです」
「千鶴が…」
少しだけ口元に笑みを浮かべ島田は続ける。
「局長は追い返そうとしたらしいのですが、雪村君が珍しく声を荒げて言い募ったのだそうです。内容まではお聞きしてませんが…」
【俺ぁよ島田…覚悟できてなかったんだよな…。てめぇの死ぬ覚悟じゃねぇ……あいつの死を見取る覚悟がよ…】
「彼女が来た後の局長は傍から見ても変わられました。心の拠り所を見つけたとでも言うのでしょうね」
【何人もの部下を死なせといて…たった一人…たった一人の女の死を見る事がこんなにも恐ろしいんだ】
「再会した後のお二人は本当に仲睦まじく、局長も随分と優しく甘やかしていましたよ」
【護る為にあいつを残したんじゃねぇ、俺が…あいつから逃げちまったんだ。護るって約束してたのによ……情けねぇよなぁ】
「祝言こそ、情勢の事を考えて挙げられてはおりませんでしたが、誰が見ても仲の良い夫婦のようでした」
【こんな所まで追って来られちゃあよ、俺も逃げ様がねぇよな】
「局長…土方さんも雪村君も穏やかな空気に包まれていて、とてもお幸せそうでした」
【腹ぁくくったぜ。もしあいつに、千鶴に最期の時が来れば俺はきっとあいつと共に逝く。それでも出来るだけ足掻いてやるさ…きっとな】
「お幸せそうでしたよ、原田さん」
島田から事の次第を聞いた原田は大きく息を吐き『そうか』とだけ呟いた。
そして数日の後、原田は島田を伴って新選組の辿った道を旅する事にしたのだった。
京を出て、江戸へ立ち寄る。
その後は駆けつける事の出来なかった会津を目指し、仙台へと向かう。
そして運よく見つけた蝦夷地へ向かう船に乗せて貰いこの地へと辿り付いた。
5月11日
土方が凶弾に倒れたとされるその日に島田に案内された原田は、血痕のみが残されていたその場所に佇んだ。
年数が経って血痕など残っていないのだが、無性に遣る瀬無い気持ちに押し潰されそうになる。
あの時隊を抜けるという親友を説得し、新選組に残っていたならば。
自分達も土方と共にあったならば、この様な思いはしなかったのだろうか?
「原田さん」
「うん?」
「ここから少しばかり離れた地に私の知り合いが住んでおります。出来ればそこを訪ねたいのですが一緒に来て頂けますか?」
「俺も行っていいのか?」
「ええ、是非とも。お子さんが三人いて、とても賑やかな御家庭なんです」
「島田にはここまで付き合ってもらったからな、いいぜ」
「ありがとうございます」
そんな会話をしたのが7日前。
―――冒頭に戻る。
今日は、新選組という形が無くなった日。
土方を失った時点できっと新選組は終わっていたのだろうが、降伏した日まで新しい局長が居たらしいので、この日がやはり新選組最期の日なのだろう。
「随分歩いたよな」
「もう少しですよ。きっとあそこだと思うので」
島田と共に訪ねた家は生活の痕跡はあるのだが人がいない。
周りにも民家はなく、ひっそりと佇むそれは決して寂しくは感じなかった。
出かけている様だと言った島田は迷う事なくその道を進み始めたのだ。
山の中を歩き、木々の生い茂る少し薄暗い道を進む。
…と。
「―――!」
「―――――っ」
道の向こうから子供の声が聞こえてきた。
「ああやはりこっちでしたね」
「島田?」
「この辺りは冬になれば雪に覆われて身動きがとれなくなります。血で染まったこの蝦夷の地を真っ白に覆い隠してしまいます」
「………」
「蝦夷の地で起こった戦争は現実として残り消える事はありません。それでも春が来れば、雪が融ければ優しい色に包まれるのです」
「それは…?」
「さぁ道を抜ければ驚きますよ」
「驚く?」
「初めてここを教えてもらった時はそのあまりの美しさ、神秘的な光景に息が止まりました」
「?」
「行けば分かります。さあ進みましょう」
ずんずんと進んでいく島田の後を追い、原田も歩みを速める。
進めば進むほど聞こえて来ていた声を言葉として捉えることができてきた。
「ちちうえー!ぼく3まいとれたよっ!」
「お、すげぇじゃねぇか」
「ちちうえ、おれも」
「お前も3枚か。上出来だ」
小さな男の子だろう子供の声と、大人の男の声。
「母様見て。お茶の中に花弁が入ったの」
「まあ、とても綺麗ね」
少女の楽しそうな声に、温かい女性の声。
原田は息を呑む。
光が溢れるこの向こうにあるはずのない姿が想い浮かぶ。
だが聞こえてくるその声は、確かに聞き覚えのある声で。
「島田…あんた俺を騙したのか?」
丁度道が開けた少し先の高い場所に立った島田が振り返る。
「申し訳ありません。ですが確かにあの日あの場所で彼の人は亡くなったのです」
「………」
「ですからこの先にいらっしゃるのはあの方ではなく………雪村歳三さんと仰る、私の大事な知り合いでございます」
「そういう…事か」
『未来をなす為に』
「千鶴と共にある未来を選んだんだな、あの人は」
原田の言葉に島田が笑うと、
「さあ参りましょう」
と促され、再び歩き出す。
薄暗いこの道を抜け、息が止まったといった島田の言葉が理解できた。
息をするのもおこがましいと感じるその風景。
一面の桜。
満開の桜が、さながら海のようだ。
その桜の海の、一番大きな桜の木の下に、人の姿があった。
「…夢……じゃねぇよな?」
「行きましょう、こちらに気が付かれた様ですよ」
桜の下に居た男性が驚いたように腰を上げ、こちらを凝視している。
地面に座っていた女性は既に涙を零しているようだ。
熱い物が込み上げて来て、目の前が霞んでしまう。
「なんだ…すげぇ幸せそうじゃねぇか」
懐かしい顔が、両親によく似た3人の子供達と共にこちらへと駆けて来た。
「左之助っ!」
「原田さんっ!」
会いたかった姿
聞きたかった声
「………会いたかったぜ」
ああ
何から話そう
何から聞こう
久しぶりに取り合った手がとても暖かくて。
満開の桜の下で。
子供の様に、泣いた。
沢山話したい事があると、そう告げる。
時間はゆっくりあるさと。
幸せそうな彼らが、笑った。
終わり