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お待たせしました、10万HITお礼企画で募ったリクエスト小説です。

はくり様より頂きましたリクエスト
 『昏き(くらき)を透かす硝子を手のひらに沈め:土千』
 土千前提の転生SSL、土方記憶あり千鶴なし
 (土方視点で、嫉妬系のお話。何も覚えていない千鶴に対して憤っているイメージ)

えっと、ですね。
転生物なので、死ネタありです。
生まれ変わり前提として書いていたら死ネタは逃れられませんでした。
しかも何だか土方さんの独白っぽい…。
悲しいだけではないと…思いますけど…も。

千鶴がもし…で……だったら、な内容でして(汗)
書いていて大分書きたい場所を端折っちゃったんですよね…。
なのでいつかこの話の番外編的なものも書ければなぁと思います。
とはいえ、これはこれでひとつに纏めてみましたのでお気に召して頂けると嬉しいです。

では、小説は右下からどうぞ。



 

 

 


『昏き(くらき)を透かす硝子を手のひらに沈め』

 

 

「…ちっ」

 本日何度目になるのか分からない紫煙を燻らせながら思わず出たのは舌打ちだった。
 彼が背を預け立っているのは教頭室とのプレートを掛けられた、彼自身の執務室の窓辺。
 そこからは校庭が一望でき、眼下には多数の生徒が思い思いの昼休みを過ごしているのが映る。
 しかし彼の視線に先にあるのは学園始まって初の、しかも唯一の女生徒。

「いい気なもんだぜ…」

 幼馴染の少年に加え数名の上級生の男子生徒が彼女と共に弁当を広げている。
 それは薄桜学園の教頭であり古典教師である彼、土方歳三のよく知る人物達でもある。
 藤堂平助に、沖田総司。

「斎藤の奴まで…」

 昔は自分の片腕の様に働いてくれた堅物な男、斎藤一。

 そう、昔。

 土方にはこの世に生を受ける以前の記憶があった。
 つまり前世というやつだ。
 幼い頃は繰り返し見るおぞましい夢に何度も泣いては夜中に突然起き出し、両親を困らせていたと言う。
 しかしそれも年齢が上がるに連れ、少なくなっていた。
 夢を見なくなったわけではない。
 自覚したのだ。
 おぞましいと思った夢の内容。

 目の前の人間が血を流して死んでいく様。
 彼らに振り翳される銀の刃は人を斬る為の道具。
 そしてそれを操るのが、自分であるという事。

 自覚した後はそれを口にすることをやめた。
 それが普通ではないのだと、周りの雰囲気から察したからだ。
 新しい土方歳三としての人生を送り成長していけば縁とは続くもので、いつの間にかあの幕末と言われる時代、共に走りぬけた面々が揃っていた。
 
 だが、前世の記憶を持ったままなのは何故か…土方一人だった。
 
 理由は何となくだが、分かる。

「前世に未練が…後悔を残しちまってんのが…原因なんだろうがよ」

 新選組を率いて蝦夷の地で散った。
 その事に関しては悔いは無い。
 最後の最期まで、武士でありたいと願った。
 その志は貫けたと思っている。
 だがひとつだけ、心残りがあった。
 それはしこりとなっていつも土方の心を締め付けていた。

 それが視線の先の彼女、雪村千鶴…の前世。

 彼女が新選組の裏事情に巻き込まれて数年。
 何だかんだと解放してやる事もできずあの日を迎えた。
 今でも目を閉じれば不安がる少女の瞳が思い出されるのだ。

 

 

 時は慶応四年一月三日
 
 正月もそこそこに後に【鳥羽伏見の戦い】といわれる戦いが勃発した。
 それは【箱館戦争】にまで至る【戊辰戦争】の始まりでもあった。
 
 伏見奉行所に入り待機していた土方等新選組も戦いに身を投じる事になった、その前日。
 奉行所の中庭で大きな戦いを前に、不安げに土方を見上げてくる千鶴がいた。
 その彼女に、

『大丈夫だ、直ぐに終わらせる』

 そう言って聞かせる。
 幼子をあやす様に頭を撫でてやればその瞳を潤ませながらもそれを溢れるさせることは無く、

『はい』

 と返事を返してきた。
 自分を見上げる瞳は不安げであっても、その瞳の奥には確かに信頼を向けてくれる心が見えていた。

 気付いていた…彼女の自分へと向けられる淡い恋心にも。

 それでも土方の置かれた立場はそれに応えてやる事も出来ず、しかもその頃はまだ可愛い妹程度にしか土方自身が彼女を認識していなかった。
 そして、翌朝。
 隊士等を引き連れて奉行所を出陣する直前。
 背中に何故か得体の知れぬ悪寒が走り、思わず振り返った。
 そこには見送りに来ていた千鶴、そしてその両側には井上と山崎がいた。
 突然振り返った土方に首を傾げる千鶴。
 思わず名を呼べば驚きながらも駆け寄ってきた彼女に土方自身もどこか戸惑う。

『源さんと山崎からぜってぇ離れんじゃねぇぞ』

 ただそれだけを告げ、じっと千鶴の瞳を見詰めた。
 それはまるで硝子の様な、どんな物でも映し出す綺麗な瞳。
 分からなかった、先程の悪寒の意味が。
 
『土方さん?』

 自分の名を呼ぶ千鶴の頭を前日にしてやった様に撫でてやる。
 大勢の隊士の視線もあってか恥ずかしそうに瞳を細める。
 そして、ほんのりとその頬を桜色に染めると

『御武運を』

 とふわりと微笑んだ…彼女の笑顔。


 それが…

 

 新選組に巻き込まれてしまった不運な少女を見た最後の姿だった。

 

 近代戦を主流とした薩長軍に、刀や槍を主流とした幕府軍が敵うはずも無く翌日には敗退。
 大阪へと逃れ再起を決しようと決めた。
 しかしその隊士等の中に彼女の姿はない。
 時間の許される限り、戦渦に巻き込まれた京の町を新選組幹部が走り回る。
 たった一人の、少女捜し求めて。
 あらん限りの声を出し彼女の名を呼ぶ者。
 崩れた建物の中に入り込み、その姿を必死に捜し求める者。
 逃げ惑う人を捕まえてはその顔を確認し落胆する者。

 だが、夜を徹した捜索も虚しく彼女は見付からなかった。

 京に残り彼女を探したいと詰め寄る者に

『馬鹿な事を言うんじゃねぇっ』

 と怒鳴り後ろ髪を引かれながらも大阪へ発つ。

『あの悪寒は…これの事だったのか』

 誰よりも本当は京に残りたかった男の手には、紅い結紐が握られていた。
 人の事に関しては恐ろしく聡いくせに自分の事には呆れるほど無頓着だった千鶴。
 土方が握るのは、彼女の綺麗な髪を纏めていた結紐が擦り切れかけていた事に気が付いた土方が贈った物だった。

 生き延びて、逃げ落ちてくれていればそれで良い。
 新選組から解放されて、どこかで幸せに暮らしてくれればそれで良い。

 そう願い続けて気が付いた。
 自分よりも小柄でどこか幼さを残す少女。
 出会った頃より口答えを覚え、自分にも意見するようになってきた千鶴。
 そんな彼女を決して疎ましいとは思わなかった自分。
 
 心のずっと奥まで、彼女の存在を許していた。
 
 近藤を置いて逃走する事になった日。
 振り返り彼の姿を見た時に、あの日の千鶴が重なる。

『ああ、またか…』

 と自分の不甲斐無さに唇をかみ締めた。

 大事なモノが掌に掬った砂の様にさらさらと指の間から零れ落ちていく。

 鳥羽伏見の戦いの折、山中で戦った西国の鬼。
 暫く姿を見ることがなかったその鬼と宇都宮で会し、未だ彼女がそいつの手に落ちていない事に安堵しつつ落胆もした。
 致命傷に近い傷を負わされて療養を余儀なくされた時、死の淵で聞こえた

『大丈夫です、お側にいます』

 という声。
 温かなものが頬に触れたと感じ目を覚ますと、映るのは心配げに顔を歪めていた島田や大鳥の姿。
 求めていた姿はあるはずもなく…。
 北へ北へと進み、最北の地へと辿り着いた頃にははっきりと自覚していた。
 目を閉じて思い浮かぶのはあの春の月のように温かく優しい光を放つ笑顔。

『…千鶴』

 羅刹へと身を窶した自分に襲い掛かる血への渇望を堪え、憔悴しきった時に思わず口に出る名前。
 どんなに呼んでも、どんなに求めても彼女は側にいない。
 それでもこんなにも彼女の存在を願ってしまう。

『…俺は…お前に惚れてんだろうな…』

 陣羽織を模した西洋式の軍服の内側にある小物を入れられる場所。
 丁度心の臓の上にあるそこには、今もあの紅い結紐が入っていた。
 それを取り出してそっと口付ける。

『千鶴…』

 お守りの様に、ずっと持ち歩いている。
 これを贈った時の千鶴の嬉しそうな笑顔。
 それは色褪せる事なく土方の脳裏に焼きついている。

『…情けねぇよなぁ……なぁ、千鶴』
 
 何も無い天井を見上げて震える息を吐いた。

『愛してる…お前を…たった一人の特別な存在として求めてんだよ………千鶴…』

 溢れる想いが知らず知らずにその頬を濡らした。
 紅い結紐を握り締め再度唇へ、そして目頭へと押し付けた。

『逢いてぇなぁ……』


 彼女を想う時だけ 本音が零れる

 彼女を願う時だけ 本心が漏れる

 彼女を欲す時だけ 決心が揺れる


『千鶴…逢いてぇよ』

 どんなに願ってもそれが叶えられる事は無かった。


 無いと思っていた。

 
 一本木の関所で撃たれて最期を迎えた時。
 担ぎこまれた五稜郭内で息を引き取る間際に…彼女が現れるまでは。

『お疲れ様でした…土方さん』

 俺の名を叫ぶ様に呼び続ける新選組の隊士や蝦夷共和国の同志達。
 そんな彼等の声は段々と遠ざかるのに、

『最後の最期まで無茶をなさいましたね』

 すっと染み入る声ははっきりとしている。
 目を開ければ全てを見透かすような透き通った瞳がそこにあった。
 
『ずっと走り続けていたのですもの、今日こそは休んで頂きますからね?』

 微笑む笑顔が可愛くて。
 紡がれる声が愛おしくて。
 ずっと告げたかった言葉を塞き止める事はできなかった。

『千鶴、逢いたかったんだぞ。どこほっつき歩いてやがった』
『ずっと、ずうっとお側に居りましたよ』
『そうか』
『はい』

 彼女に手を引かれて土方は光の射す方向へと歩いていく。

『なぁ千鶴』
『はい土方さん』

 柔らかな笑顔に目頭が熱くなる。

『     』

 それを堪える事をせず、彼女を抱き寄せて…そっと告げた……。

 

 


 ふぅと、もう一度紫煙を燻らせると机の上にある灰皿にそれを押し付ける。
 思い出される前世の事。
 決して消える事の無い後悔と…彼女への想い。

「千鶴…お前は何で覚えてねぇんだよ」

 理不尽とは思いつつも、それでも遣る瀬無い。

「俺を迎えに来るくれぇはおめぇも俺に惚れてたんだろうが」

 再会した彼女は土方を見ても【教師】と【生徒】としてしか触れ合わない。
 窓の外を見やればあの頃と変わらない綺麗な瞳の柔らかい笑顔が、自分以外の男達へと向けられている。

「それは俺だけのもんだ。だから…」

 醜い嫉妬だというならそれでも構わない。
 たった一人になって彼女を思い続ける事に比べればなんて事は無い。


「千鶴、愛してる」


 閉め切った窓越しに、彼女の名を呼び想いを告げる。
 すると、まるでそれが聞こえたかのように彼女がこちらを見上げて、そして手を振って笑った。
 それに気付いた周りの面々も顔を上げて手を振ってくる。
 何時の間にか千鶴を囲む男の数が増えている。

「左之に新八に…山崎まで」

 どうやら土方にも降りて来いと言っているらしい。

「何も遠慮する事も憚る事もねぇしな…」

 片手を挙げて返事を返すと窓辺を離れる。
 誰にも渡さない。
 必ずこの手に掴んでやる。

「春の月は俺だけのモンだ」

 牽制しまくってやると、椅子にかけていた上着を取ると部屋を後にした。

 

 

終わり

 

 

 

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