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【和花】 なごみばなと読んで頂けると嬉しいです。 乙女ゲーム系二次小説オンリーサイトです。
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5月17日にお誕生日を迎えられた『桜と月に盃を』のしょこら様に捧げる、お誕生日プレゼント小説です。
サイトを通じて知り合いになったしょこら様ですが、今では素敵なメル友さんとして仲良くして頂いてます~。

と言いつつ…はううっっ!
い…一週間近く遅れてしまった…。
しょこら様~ごめんなさいですorz
遅ればせながらお祝いを言わせて下さい。

お誕生日おめでとうございます!

どんな内容がいいかお尋ねしたところうちのサイトの【成り立つ会話】をお気に召して頂いているようで、そんな感じのものがいいとの事。
なのでそんなノリの内容にしてみましたが、如何ですか?
この前頂いた小説が箱館編だったので、私からも箱館編でプレゼントさせて頂きます。

というわけで、この小説はしょこら様のみお持ち帰りOKですので、良ければもらってやって下さい。

【成り立つ会話】はありがたい事に根強く御支持頂いている小説ですので、皆様にもおすそ分けです。
小説は右下からどうぞ。


 

 


 ガタガタと窓が雪と風に叩かれて軋んでいる。
 窓の外は昼間だというのに真っ暗で、先ほどから更に雪が降り積もっていた。
 外は容赦の無い極寒。
 しかし…。

「土方さんこちらは榎本総裁に提出する分ですし、先に目を通された方が良いと思います」
「ん?ああ、そうだな。…千鶴」
「はい」

 名を呼ばれた少女、いや女性が別の所に重ねていた書類を取り出しこの部屋の主である蝦夷共和国陸軍奉行並の土方へと渡した。

「ん」

 それが何かは分からないが、土方が必要としていた物だったらしく、ペラリペラリと捲っては内容を照らし合わせている様だ。

「………」

 書類に目を通している土方が、トントントンと机を指で叩いている。
 彼からすればその行為は多分無意識なのだろうが、土方の小姓である雪村千鶴は小さく微笑むと少し側を離れて、別の棚においていた湯飲みにお茶を注ぐ。

「まだ熱いですから気を付けて下さいね」

 そう言って土方の手の届く場所に湯飲みを置くと、自然な流れの様に彼はそれを手にとってズッと啜った。

「美味い」
「ありがとうございます」

 それで一息ついたのか、土方が一度書類から手を放し背筋を伸ばすと、すかさず千鶴が清書用の紙を彼の前に整えて置いた。


「…あのさ」


 執務室にあるソファーに腰をかけたまま一連の流れを見ていた彼、陸軍奉行の大鳥が溜め息混じりに問いかけた。

「京にいた頃から、君達ってそんなだったの?」

 そんな問いかけに硯に置いていた筆を持ち上げた土方と、その隣りに立ち別の書類をまとめて始めている千鶴が顔を見合わせ二人して大鳥を見やった。

「そんな…ですか?」
「んだよ、突然」
「だって…」

 二人の様子を見ていた大鳥が感じたこと。
 それは…

 

 ―――時を少しだけ遡る…

 

「大鳥君」

 五稜郭にある箱館奉行所内を仕事が一段楽した大鳥が目的の場所に向かい歩いて居た時、その背後から声をかけられた。
 大鳥の事を『君』と呼ぶのは限定される。
 蝦夷共和国の高官である大鳥をそう呼ぶことが出来るのは、彼と同等、あるいは立場が上の人物となる。

「あ、荒井さん。お帰りなさい」

 そこに居たのは海軍奉行の荒井郁之助だった。
 会議でもない限り彼がこの箱館奉行所にいるのは珍しい。
 今日だって新兵の海上訓練に当たっていたはずだ。

「何かあったんですか?」
「いや何も」
「?」
「海も陸地と同じで猛吹雪だわなんだの大時化でね。新兵をこんな海につれて出たんじゃ俺の命が危ないよ」

 荒井はそう言って笑った。

「どうです?新兵は」
「ピンきりだ。でもまぁ使えない訳でもないから、訓練次第でどうにかなるさ」
「陸軍も似たような感じです。でも春までには何とかしますよ」
「春か…」
「今はまだ自然の要塞がここを護ってくれていますけど、雪が融け始めれば…」
「でかい戦になるな」
「ええ」

 二人してふぅと溜め息を吐く。

「ま、それも俺達が望んだ事だ。やれるだけやって悔いの残る様な終わり方だけはしたくねぇしさせたくねぇよな。負けるつもりは無いが」
「そうですね。ええ、負けませんとも」

 お互いに顔を見合わせ頷いた時、大鳥の進行方向からやってきた人物と目が合った。
 彼は一瞬眉間に皺を寄せ、それから小さく息を吐いたのが見える。
 どうしてそういう反応するのかな…と呆れたように思いつつ大鳥が彼に声をかけた。

「やぁ、土方君。お疲れ様」
「大鳥さん、あんた確か出かけてたんじゃなかったのか?」
「…こんな猛吹雪の中どうしろっていうんだい…」
「訓練にもなって丁度いいじゃねぇか」
「……胸を張って言うよ。僕は間違いなく遭難する」

 そして凍死は免れないね、と言い切った大鳥に対し土方は呆れた目で彼を見た。

「あんたなぁ…」
「相変わらずだな土方」
「荒井さん、同じ軍の奉行として何か言ってやってくれ」
「はっはっはっ。陸と海とでは勝手が違うからなぁ。俺もこんな状態で海には出れないって判断して戻ってきた口だしよ」
「それよりも、どうかしたのかい?」
「ん…ああ、大鳥さん」
「うん?」
「うちの、見なかったか?」
「うちの?…………雪村君…の事かな?」
「他に誰がいるんだよ」

 平然と言ってのける土方は別段意識しているようではないのだが、その言い方だとまるで、

(まるで夫が妻を指す時に使う言葉みたいだよね)

 そう思った大鳥がクスリと笑った。

「んだよ」
「雪村君だったらさっき書庫室の前で市村君といるのを見かけたよ」
「鉄之助と?…そういや朝資料を頼んだっけか」
「でもその後、厨の方に向かって行ったみたいだよ」
「……そうか」

 厨か、と土方が顎に手を当て呟く姿を見ていた荒井が、 

「ゆきむら…ああ、噂の土方の嫁」

 ポンと手を打ってそう言った。

「よっ―――っっ!嫁じゃねぇっ!あいつはっ…はぁ?噂??」
「お前の嫁なんだろ?」
「荒井さんっ!」
「中島の親父さんも土方の嫁がこんな蝦夷まで追いかけてきたって、何か嬉しそうだったぞ」
「何で箱館奉行並の中島のおやっさんが知ってんだよっ!?つか、だから嫁じゃねぇって荒井さんっ!」

 土方が叫ぶ様に否定するが、当の荒井はニコニコと笑顔のままだ。

「随分といい顔をするようになったじゃないか土方。んんっ、至極結構!」

 口癖の言葉をその口に乗せながら、荒井は土方の肩を叩いた。

「俺達みたいな戦しかし知らねぇ無骨な男はな、かみさんの尻に敷かれてるぐらいが幸せなんだよ」

 近いうちに顔を拝ませてくれな、と言い残し荒井は去って行った。

「大鳥さんよ」
「なんだね土方君」
「何で千鶴の事が広まってんだよ」
「仕方ないじゃないか。鬼と呼ばれ、こちらへ来ても人を寄せ付けない雰囲気を醸し出していた君が彼女の前では柔らかくなるんだから」
「だから何でだよ」
「………君や雪村君が大切に思われているという事だろう?」
「意味分かんねぇし」

 詳しく答える気が無いのは大鳥のその表情から窺い知る事ができる。
 ったく、と大きな溜め息を吐いた土方へ声がかけられた。

「如何なさったんですか土方さん、大鳥さんも」
「おや雪村君、こんにちは」
「こんにちは大鳥さん。今日はお出かけ中止になさったんですね」
「うん、こんな猛吹雪だと前も後ろも分からないからね。…お茶の時間かな?」

 千鶴が手に持っていたのは急須と湯飲みがのったお盆だった。

「はい。そろそろ土方さんのお仕事が一段楽する頃だと思いまして」
「…ちっと早めに終わってよ、丁度お前を探してた」
「直ぐにお茶をお淹れしますね。大鳥さんも御予定がなければ如何ですか?…紅茶ではなく日本茶ですけど」
「嬉しいな、頂くよ」
「はい」
「………遠慮しろっての」
「土方さん?」

 ぼそっと呟いた言葉は千鶴に届いてなかったらしく、首を傾げる彼女に何でもねぇよと首を横に振った。

 土方の執務室で暫しの休憩と称して千鶴の淹れたお茶に舌鼓を打ち、お茶請けに出された島田の差し入れの羊羹をかじる。
 他愛の無い会話を交わし、時折土方をからかっては睨まれるというのんびりとした時間を過ごした。

 

 そして冒頭に戻る。

 

 お茶の時間を終えた土方は大鳥が居座るのを横目で睨みつつ仕事を再開した。
 土方が仕事を始めようとソファー方立ち上がると同時に千鶴も立ち上がり硯箱の蓋を開ける。
 土方が1つ書類の束を取ればそれに関連した書類を千鶴がそっと横に添える。
 土方が『千鶴』と彼女の名を呼べば、次に必要な物がすっと差し出された。
 土方が無意識に指で机を叩けばまだ温かいお茶が直ぐに出される。

「土方君はさっきお茶をしたばかりなのにもう喉が乾いたのかい?」

 何気なく大鳥が聞いてみる。

「ああ、ちっとな」
「雪村君はそれが分かったんだね」
「えっと…はい。先程の羊羹が土方さんには少し甘すぎたみたいですから」
「ふぅ~ん」

 何が言いたいんだよと土方が言えば、何でもないよと大鳥は笑い窓の外へと視線を向けた。

(外は猛吹雪の極寒だって言うのに土方陸軍奉行並の執務室は…)

「…常春だよね…でもまだ雪が融けちゃ困るんだけど…」

 心の声が唇に乗って外へ出てしまった。

「何言ってんだよ大鳥さん」

 不思議そうに首を傾げる千鶴に、訝しげに眉間に皺を寄せる土方。

「僕も仕事しようかなって言ったの。雪村君、おご馳走様。君のお茶は天下一品だね」
「そんな。…私のお茶で宜しければいつでもお淹れしますのでお呼び下さいね」
「土方君に睨み殺されそうだから呼ぶのはやめて、またお邪魔しに来るよ、ここに」
「はい」
「千鶴…はいじゃねぇだろうが」
「え、でも…」
「ったく…」

 そう言いながらも土方の千鶴を見詰める表情は柔らかく温かい。

(これを見て二人の間に特別な愛情を感じないギャラリーはいないと思うな。…ほんとにもう…)

「土方君、雪村君。僕はもうお腹一杯胸一杯だよ…お御馳走様」
「大丈夫か…頭」
「失礼だね」

 大丈夫に決まってるじゃない、そう言いながら大鳥は部屋を後にした。

「………誰がどう見ても君のお嫁さんだって思うって」

 そんな呟きを残して自分の執務室へと歩みを進めた。

 

 ガタガタと窓が雪と風に叩かれて軋んでて。
 窓の外は昼間だというのに真っ暗で。
 雪は物凄い勢いで降り積もっていく。

「邪魔者がやっと退散したか…」
「土方さん?」
「何でもねぇよ」

 土方が笑えば千鶴も幸せそうに微笑む。
 千鶴がそっと土方に寄り添えば土方が安堵した様に息を吐いた。


 
 外は容赦の無い極寒

 しかし…

 蝦夷共和国陸軍奉行並の執務室は、今日も雪を融かすほどの暖かさに包まれていた。

 

終わり


 

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