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【和花】 なごみばなと読んで頂けると嬉しいです。 乙女ゲーム系二次小説オンリーサイトです。
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夫婦騒動録:17をお届けです。
今回はちょっと早くUP出来た…かな?
そうでもないか…。

土方さんが暴走しているようなそうでないような…。
頂くコメントを拝見すると『初夜』に反応していらっしゃる方が多い様で(笑)
よーく考えて!
ここは『和花』で、執筆者は月夜野です。
つまりそういう内容ですよ(苦笑)
大丈夫よね、ここまでなら…くらいなら書くかもしれませんが…。
過度な期待はなさらないで下さいね??
でも甘く、あま~くなるようには仕向けていきますよ!!

では土方夫妻の物語は右下からどうぞ。



 

 

「ほな、私らはこれでお暇するな」

 上がり框に腰掛けて草履を履き、土間に立つ喜助は振り返るとそう言った。

「お昼の残りは温めなおして食べたってな」

 その隣に並ぶ絹も笑顔でそう言う。
 土方と千鶴は框の手前で正座をすると、そろって頭を下げた。

「今日は本当にお世話になりました」
「…なんや二人とも、改まって」
「礼ぐらいはきちんと言うさ。ああ、碁石は探しとく。納戸のどっかにあるんだろ?」
「一緒になおしとったと思ったんやけどなぁ。頼むで。見付かったら相手させるさかいな」
「わーかったって」

 喜助が昼間に土方に下ろしてもらった碁盤。
 土方を相手に一局打ちたかった様なのだが、肝心の碁石が見付からなかったのだ。

「千鶴はん、明日楽しみやねぇ」
「はい」
「明日?」

 絹と千鶴の会話に土方が首を傾げる。

「明日、お母さんにお買い得なお店やお買い物の仕方を教えて頂くとお話していたんです…けど」

 あ、と思い出したように千鶴は指先を揃えて唇に当てた。

「昼間は屯所に行かなくてはいけないんでした…。すみません…つい楽しくて」
「明日は無理なん?」
「あーいや、お袋殿。迷惑じゃなけりゃ千鶴を預けてもいいか?」
「歳三さん?」
「昼間は屯所に来いって近藤さんが言ってたのは、お前が、一人では寂しいだろって事だったからだ。お袋殿達が京に居るのはそんなに長くねぇんだし」
「ええの?歳はん」
「色々叩き込んでやってくれ」
「任せといて」
「宜しいんでしょうか?」
「俺が良いっつってんだから、良いんだよ」
「歳三さん…ありがとうございます」
「そやったら、明日、都合よぉなったら店の方に呼びに来たってなぁ」
「はいっ」
「待っとるえ。ほなな」

 絹は喜助と共に玄関を出ると一度振り返り、

「歳はん、そういう事やさかい今夜は出来るだけはよぉ休ませたってな?」

 そういうと小さく手を振って、泉夫妻は屋敷を後にしていった。

「?」
「ったく夫婦揃って同じ様な事を…」
「どういう意味ですか?」

 土方を見上げる千鶴は、きょとんとしている。
 絹の言葉の意味を理解できていないようだ。

「あの?」
「分かんねぇか?」
「え、ええっと…?」

 戸惑いを隠せない千鶴に苦笑して見せると土方は部屋に上がった。

「さて、俺は納戸に行ってくる。親父殿の碁石を日が暮れちまう前にもう一度探してみなきゃなんねぇし」
「歳三さん!」
「……ったく。答え合わせは…もう少し後でな」
「後…って?」
「夕餉頼んだぞ」
「え、あのっ歳三さん?」

 困ったように自分を呼ぶ千鶴をそこに置いて、土方は屋敷の奥の納戸へ向かった。
  
「しっかし…いくら何でも広すぎんだろ、近藤さんよ」

 大名屋敷に比べれば当たり前だが狭い。
 しかし京の治安維持を会津藩の下で担う新選組の、しかも副長である自分が持つには侍屋敷は大き過ぎるのではないか。
 …否、【過ぎる】どころではない。
 確かに一部の幹部には屯所の外に別宅を持つことが許されてはいる。
 だが実際に別宅を持っている幹部は少ない。

「ったく、何人千鶴にやや子を生ませりゃ賑やかになるんだか」

 そう口から言葉が出た時、初めて口付けを交わした時の熱を帯びた涙目の千鶴を思い出してしまった。
 千鶴を押し倒したあの時、もし部屋の外に気配を感じなかったら。

「おろしたての餓鬼じゃあるめぇし…」

 ガシガシと後頭部を掻きながら土方は納戸へと入っていった。


 ―――その頃。
 
 勝手場では絹が持ち込んでいた材料の残りで夕餉の膳に乗せる品を一品増やそうと、千鶴が包丁を握っていた。
 
「……答え合わせって言う事は…私も何か答えを考えておかなければいけないって事?」

 トントンと軽快な音を立てながら野菜を切る。
 料理は父親と二人で暮らしていたのだから当然千鶴の役割となっていた。
 それ故に失敗という失敗もここ数年は、もちろん屯所で暮らすようになってからもなかったが。

「………お父さんとお母さんが言ってた事…?」

 先程の答えが出ないまま料理を始めたのが悪かったのだろう。
 考え事をしていた為にどうしても注意が散漫になり、手元の用心も疎かになってしまっていた。

「お母さんが言っていっ…ったいっ」

 指先に鮮血が滲む。
 野菜と共に包丁で掠めてしまったらしい。
 指の腹がぱっくりと裂けている。

「しまったぁ」

 ぽたぽたと血が滴り落ちる指先を慌てて口の中へと差し込む。
 口腔内に広がる血の味に千鶴は顔を顰めた。
 結構深く切ってしまったようだが、血の味はすぐにしなくなる。

「………この事を…隠したままだった…どうしよう」

 口から出したその指先には、薄っすらと傷痕の様な赤い線が一本あるだけだ。
 それさえも殆ど消えかかっている。
 昔から…もしかしたら生まれつきなのかも知れない。
 どんな怪我も忽ちのうちに跡形もなく消えてしまう。
 これがどんなに不自然な事なのかは自分でも良く分かっていた。

「……どうしよう…」

 土方は自分の夫となった人だ。
 話すべきなのだとは思う。
 だが…。

「気持ち悪いって…嫌われたら………」

 千鶴は怪我の治った指先をぎゅっと握り締め、俯いた。

 

 

「これは千鶴が作ったのか?」
「………え?」

 碁石を探し出した土方が戻ってきたので、二人は夕餉の膳の前に座り箸を進めていた。

「千鶴?」
「あ、の…すみません…お口に合いませんか?」

 そう言った千鶴は土方を見ようとしない。

「そういうわけじゃ…ねぇよ」

 そんな会話をした夕餉の後、土方は山崎が持ってきた仕事をする為に、取り敢えずの仕事部屋で筆を取った。
 筆や硯は当然のように二人が運んで来た行李の中に入っていたのだが…。
 返信の書状を認め始めた頃、湯殿の準備が出来たと千鶴が来た。
 だがまだ書き始めたばかりで時間がかかりそうだったので、先に入ってしまえと言ったのが一時前で。
 その後千鶴と入れ替わるように土方は湯殿へと行き、今、湯船の縁に両腕を置いて…溜め息を吐いていた。

「…はぁ……ったく、何か考え込んでんのはバレバレなんだがな」

 泉夫妻を見送った時と千鶴の態度が違うのは明らかだ。
 何かを思い悩む時、千鶴がああいった顔をするのだと昨日知ったばかりなので、記憶には新しすぎる。

「仕方ねぇ」

 ザバリと水飛沫を上げて立ち上がり、その身に纏わり付く濡れた長い髪を鬱陶しげに片手で払う。
 
「何が何でも聞き出してやる。…鬼の副長を嘗めんじゃねぇぞ、千鶴」

 近くにかけて置いた手拭を取ると土方は湯殿を出た。
 身体を拭いて、いつの間にか届けられていた寝巻きに腕を通し、手拭を片方の肩にかけた状態で、千鶴がいると思われる取り敢えずと決めた寝所の襖を開ける。
 行灯が点り部屋の中を橙色に染め上げる。
 襖を開けた事で炎が揺らめき部屋の明暗も同じくゆらりと揺れた。

「千鶴」
「っ………」

 こちらに背を向けた状態できれいに整えられた二組の布団の側に正座をしていた千鶴が、息を呑むのが分かる。 

「千鶴」
「は、はいっ」

 少し強めに名を呼べばやっとでおずおずと身体ごとこちらを向いた妻に土方は溜め息を吐く。

「今度は何だ?」
「え?」
「何がお前にそんな顔をさせてんだ」
「あ…の…」

 良い澱む彼女の前に、どかりと土方が腰を下ろした。

「何でもねぇは通用しねぇぞ」
「……あ…」
「それでも言わねぇってんなら、聞き出し方を変える」
「え?」

 言うが早いか、土方は千鶴の方へ両腕を伸ばして肩を掴み、そのまま後ろへと押し倒した。
 絹が干してくれていたのだろうその布団から、日に当てた独特の良い香りが宙に舞う。
 だがその香りを楽しむ余裕など千鶴にはなかった。
 背中は柔らかな布団。
 そして覆いかぶさるのは長い髪を下ろしたままの、夫。

「言いたくねぇってんなら言いたくなるようにしてやる」
「と…しぞ…さん」
「昨日みたいに邪魔は入らねぇ」

 真剣な眼差しがすぐ側にある。
 土方が言葉を発する度にその息が千鶴の唇にかかる。
 しっかりと押さえつけられた肩は痛みを感じる程。
 しかしそれを訴える暇などなかった。

「ふ…うっ…んんっ」

 何か言葉を千鶴が発するよりも早く、土方の唇がそれを覆ってしまった。
 千鶴が口付けを覚えたのは昨日だ。
 直ぐに反応を返せるほど慣れているはずもない。
 重ねられた唇から喘ぐ様な吐息だけが漏れる。

「んっ…あっ…」

 一瞬、土方の唇から解放された千鶴が思わず声を発する為に口を開いたが、それも計算の内だったかのように、更に深く口付けられる。

(な…にっ?)

 開いた千鶴の口腔内には今まで感じた事がない物が入り込んできていた。
 それが土方の舌だと気付く頃には押さえ付けられていた肩も解放されていたが、それは即ち千鶴が抗う事もできない状態になっているということだった。

「千鶴」
「はぁ…ふっ…」

 いつの間にか流れ落ちていた千鶴の涙を、唇をやっと解放した土方がそっと拭う。

「……お前は、誰だ?」
「ふ…ん………ふ…ぇ?」
「だから、お前は誰だって聞いたんだ」

 唐突な土方の問いかけに千鶴は戸惑いながらも、

「ちづ…るです…雪…村ちづ」
「違うよな」

 自分の名を告げかけた唇を土方の親指の腹によって塞がれる。

「お前は雪村千鶴じゃねぇ。土方千鶴だ」
「あ…」
「良いか千鶴、お前は俺が娶った女だ。お前は俺の女房で、俺はお前の亭主だ」
「はい」
「俺たちは家族なんだよ」

 土方から言われた言葉に千鶴はその大きな瞳を更に大きくして彼を見た。

「赤の他人じゃねぇんだ、千鶴」

 見開いた瞳に見る見るうちに新たな涙が堪り、堪える事も出来ず頬を伝い布団の上に落ちてゆく。

「何を悩んでんのか話せ…いや…話してくれねぇか?」
「歳三さん…歳三さん…」
「お前の言葉はちゃんと聞く。だから、な」
「としぞ…さぁんっっ」

 力が抜けてしまい布団の上に投げ出されていた千鶴の手が、今は縋る様に土方の着物を掴んでいる。
 やっと話す気になったようだと、そんな千鶴を抱きしめ土方は身体を起こした。
 布団の上に胡坐をかいて座る土方。
 千鶴はそんな土方の膝の上に抱え込まれるようにして抱かれていた。

「きら…われる…のではないかと…」
「何がだ?」
「お…お話ししていない事が…あります…」
「話してくれんだな?」
「……………はい」
「そうか。…ああ、待て」
「え?」
「お前の話を聞く前に1つ言っておく事がある」

 土方の言葉に千鶴が不安に揺れる瞳を上げると、その目尻に温かな唇を当てられた。

「俺とお前は夫婦だ」
「は…い」
「布団は一組で十分だ。ったく、新婚も新婚なのになんで別々に寝なきゃなんねぇんだ」
「ふぇ?」
「昨日も言ったろう?夫婦は同衾が基本だ」
「………明日からは…気をつけます…ね」
「おう」

 そう返事を返した土方がにやりと笑って見せると、観念した千鶴が小さく息を吐きこてんと土方の胸に身体を預けて、ゆっくりと話し出した。

 


続く

 


 

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