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夫婦騒動録21話です。
20話が土方さんサイドのお話でしたから、今度は千鶴サイドのお話です。
土方さんが土方さんじゃなくなって来てますが、大丈夫でしょうか??
そしてちょっとした豆知識というか、雑学ありのお話となっております。

そんなお話は右下からどうぞ。

 

 


 ―――少し時間を遡る……


 朝餉を終えた後、千鶴は勝手場で片付けをしていた。

(此処が終わったら湯殿とお部屋のお掃除をして…お庭を掃いたらお母さんのところに行こうかな)

 洗い終えた器は水気を落としざるの上に並べていく。

(でもあまり遅くはなれないよね。お母さんとのお買い物はきっと楽しいけど)

「よい…しょっ」

 濡れた器はざるの上で粗方乾かす為にそのまま別の場所へ移動させ、

(歳三さんにお帰りなさいも言いたいし…夕餉の支度も済ませないといけないし)

「よしっ」

 勝手場の仕事は一段楽した。
 次の仕事に移ろうと家の中に上がると、

「千鶴ー」

 奥の部屋から自分を呼ぶ夫の声がする。

「はい、今参ります」

 返事を返し、彼のいるであろう部屋の前に進めば、刀を左に差し、丁度準備を終えた土方がこちらを向いた。

「もうお出かけですか?」
「ああ。ちと早いが、昨日山崎が持ってきた書状の件もあるしな」
「そうですか。あの…」
「何だ」
「本当に今日は宜しいのでしょうか?」
「良いって言ってんだろうが。お前が自由に動ける事は、近藤さんもきっと喜ぶからな」
「…はい。明日は必ず屯所に行きます。御礼も言わなければなりませんし。皆さんに宜しくお伝え下さいね」
「分かった。っと、それからな」

 左手で千鶴右手をとると土方は反対の右手を自分の懐に差し入れ、そこから取り出したものを千鶴の手の上に置いた。

「あ…これ、は」
「家計の遣り繰りは妻の役目、だろ」

 土方から渡された物は、何度か目にした事があった彼の財布である。

「任せたぞ」
「はい!あ、ですが全部お預かりしてしまったら」
「屯所に戻れ……いや、行けば俺の執務室にまだあるから大丈夫だ。そっちも帰ったら渡す。ま、小遣いはちっと欲しいがな?」
「必要な分はお手元に残して下さいね?お小遣いなんて…私、あの…お給金から少しこちらに入れて下さったらそれで遣り繰りしますから」
「却下だ」
「ふぇ?」
「給金は全部お前に預ける。俺の小遣いはお前がそれからくれりゃあいい」
「で、でも!」
「その方が…所帯を持ったって実感すんだろ。だから、そうさせてくれ」
「歳三さん」
「お前ならきちっと財布の紐は締めてくれるだろ」
「……はい…はい!頑張ります!」

 土方から渡された財布をぎゅっと胸に抱きしめて千鶴は瞳を潤ませて頷いた。

「ったく…泣くなって」
「嬉しいんです」
「そうかよ」
「はい」
「そうか」
「としぞ…さん?」

 嬉しそうに財布を抱きしめていた千鶴の両肩を掴むと、自分の方に引き寄せそっと腕の中に閉じ込める。

「お前…なんでそんなに可愛いんだ」
「え…えぇ??」
「仕事に行けなくなるじゃねぇか」
「だ、駄目ですよ?皆さんが心配なさいます」
「分かってる冗談だ。…はぁ、行くか」

 名残惜しそうな声と共に千鶴の眦に土方の唇が押し付けられ、解放された。 
 土方が先に廊下に出てその後を千鶴が追う。
 いつもの光景だが、ここは屯所ではない。
 暖かな気持ちが膨れ上がると共に、どこか寂しい気持ちも生まれて来る。
 
「ここで良いぞ」

 出かける為、それを見送る為に土間に下りた所で土方が振り返り千鶴に告げた。

「さっきの金は俺のでもありお前のでもある。必要な物もだが、欲しいもんも自由に買っていいからな」
「……はい」
「遠慮すんなよ?」
「はい」
「っと、それから」
「?」

 小さく首を傾げる千鶴の手を伸ばし後頭部に添えると、

「変な男に付いて行くなよ、いいな?」

 そう言ってこつんと額同士を合わせる。

「ふぇぇ?」
「良いな」
「そんな小さな子供じゃないです」
「餓鬼じゃねぇから心配してんだ」
「歳三さん」
「お袋殿と楽しんで来い」
「はい」
「離れ難ぇな」
「私もです。でも…」
「わーってるよ。行ってくる」
「いってらっしゃいませ、歳三さん。お帰りは…いえ、何時お帰りになっても良い様にお待ちしておきます」

 額が合わさったまま瞳だけで見上げてくる千鶴に、

「出来るだけ早めに帰る」

 そう言って土方は微笑み、柔らかな桜色の唇にそっと口付けた。
 
「いってきます」
「いってらっしゃいませ」

 頬まで桜色になった新妻に見送られて、夫は名残惜しそうに背を向けて出勤していった。

 

「……いってらっしゃいの口付け…しちゃった」

 家の門を潜り扉が閉まる前に土方は一度こちらを見て微笑んだ。
 それを思い出すと頬が緩む。

「土方さ…じゃなくて、歳三さんってあんなに優しく笑う方なんだなぁ…」

 未だ土間に立ったまま千鶴は、ほうっと息を吐く。

「幸せだな…本当に幸せ…。良いのかな、こんなに幸せで…」

 少し不安になりきゅっと掴んだ財布がチャリッと音を立てる。

「いけない、皺になっちゃう」

 土方から渡された財布は彼らしい落ち着いた風合いだ。

「………そういえば…歳三さんのお給金ってどのくらいなんだろう?」

 今までは知る必要もなかった事なので気にも留めなかったが…仮にも会津中将お預かりの新選組副長だ。
 それなりに貰っているのだろうが、想像も付かない。

「永倉さんや平助君はお酒代で一月足りない事があるみたいだし…でも近藤さんはこの別宅を準備して下さって…」

 局長と組長でそんなに差があるのだろうか?
 沖田辺りに尋ねたならば『当たり前でしょ』と呆れた声で返されるかもしれない。

「み…見てもいいんだよね?」

 手元にある財布をドキドキしながら開けてみる。
 そして…固まった。
 一番広い場所には一文銭を中心に大阪などで良く使われる銀貨(江戸では金貨)、一朱銀が数枚。
 金貨も少し混じっている様だ。
 良く見れば一分銀も数枚ある。
 普通に生活をしていれば滅多に見る事もなく使用もしない(出来ない)貨幣である。
 しかし何よりも財布の内側の少し狭い場所に、あまりにも無造作に入っている神々しい貨幣。
 庶民が目にする事など一生無いと言われるその大金に固まった。
 まさかこんなに簡単に渡された財布に小判が入っているとは思いもしなかった。
 しかも2枚見える。
 
 この時代。
 一両あれば1世帯4人家族が寝酒を飲んでも一月は十分遊んで暮らせる、そんな時代である。
 ちなみに蕎麦一杯が約16文で食べられる。
 250文で一朱銀1枚と同等の価値になり、一朱銀が4枚で一分銀1枚(2枚で二朱銀1枚)と同等になる。
 一分銀2枚が二分金一枚と同等で、二分金が2枚で一両小判と同等の価値になる。

 要は、土方から渡された財布は庶民が持つ物ではない大金がゴロゴロ入っているという事なのだ。
 思わず、そうしてもどうしようもないのは重々承知しているのだが、財布を持った両手をぐっと伸ばし自分から出来るだけ遠ざける。

「………このお財布…怖いです…歳三さん」

 一庶民の千鶴が手にするにはある意味重すぎる財布だ。
 しかも屯所にもまだあって、それも渡すと言ってはいなかったか?

「………これが新選組副長の妻として最初の試練なのかしら…」

 動揺のあまりどこか方向性を間違った千鶴の呟きが、虚しく宙に消えていった。
 だがいつまでもここに立ち尽くしているわけにもいかない、と大きく深呼吸をしその財布を帯の中へしっかりと差し込む。
 
「お掃除を終わらせよう…うん」

 千鶴は小さく頷くと、家の中へと入って行った。

 

「ごめん下さい」

 千鶴がそう言って泉屋の暖簾を潜ったのは昼四ツ(10時前後)頃。

「へぇ、おいでやす」

 入って直ぐに千鶴を出迎えたのは年の頃は10歳前後の丁稚だった。

「えっと、私ゆ…土方千鶴と申しますが奥様は」
「千鶴はん?」
「あ、お母さん。お早うございます」

 丁稚に絹を呼んで貰おうとしていたが、それよりも早く千鶴の声を聞きつけた絹が笑顔で姿を見せた。

「お早う、昨日はお疲れやったねぇ」
「私は大丈夫です。お母さんはお疲れではないですか?」
「うちも平気やよ。…それより身体は?辛ない?」
「え?」

 絹の言葉の意味が理解出来ず千鶴がきょとんとすると、

「歳はん大事にしてくれはった?」

 絹が優しく囁くようにして尋ねた事で、

「?……ーーーっっ!?」

 やっと理解できた。
 理解すれば初心な千鶴が言葉を紡げるはずも無く、空気を求める金魚のように口をパクパクさせる。

「まっ、顔赤うして。可愛いらしいね」
「おっおかっ!お母さん!!」
「いややわぁ、若いってええねぇ」
「お母さぁん~!!」
「はっはっはっ。絹、それ位にしてやり。千鶴が困っとるよ」

 店の奥から姿を見せたのはやはり笑顔の喜助だ。

「お早うさん、千鶴」
「お早うございます、お父さん」
「堪忍したってな。朝な歳三が顔出した時にもそうやってからかっとったんよ。若いもんからかうんは年寄りの楽しみやさかいな」
「歳三さんが?」
「ま、あいつは飄々としとったがな。千鶴の事頼むって、わざわざ立ち寄って行ったで」
「そうだったんですか」
「ふふ。うちも準備は出来とるさかい、出かけよか千鶴はん」
「あ、はい!行って参ります、お父さん」
「二人とも気ぃ付けてな」
「こん人ん事頼みますえ」

 いつの間にか姿を見せていた番頭が絹の言葉に頭を下げる。

「お気を付けて、行ってらっしゃいませ」

 喜助や番頭達に見送られ、千鶴は絹と共に京の町へと繰り出した。

 
 

続く

 

 

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