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お久しぶりです。
そろそろ更新を再開してみようかなと思いまして。
やはり、今は暗い話題がどうしても多いので、UPするなら明るい物をと思い夫婦騒動録にしてみました。
ここに来て下さった皆様が少しでもほっこりと和んで下されば幸いです。

小説は右下からどうぞ。

 

 


「千鶴」
「は、はい!」

 土方からやっと解放されて落ち着きを取り戻した千鶴は、彼と共に屯所の廊下を歩いていた。
 取り損ねていた夕餉の続きをする為にだ。
 そんな時、土方が立ち止まり振り返る。

「飯食う前によ、ちと近藤さんの所に付き合ってくれ」
「近藤さんの?」
「婚姻の報告しねぇとな」
「…はい」

 土方に言われ、千鶴は小さく頷く。
 その様子を見た土方は穏やかに微笑み、そしてまた歩き始めた。
 自分が歩き始めると千鶴もそれに続く。
 聞き慣れた足音が付いてくる。
 いつもは大して気にもしなかったのだが、気持ちが変わるだけでどうしてこうも優しい音に聞こえてくるのだろう。 
 何となく再度振り返れば、まだほんのりと頬を染めた千鶴がそれに気が付いてちょこんと首を傾げた。

「如何なさいました?」
「いや、悪かねぇもんだなと思ってな」
「?」
「何でもねぇよ」

 そう言って顔を正面に戻す。
 そんな土方の背中を千鶴はじっと見詰めた。

(私…土方さんのお嫁さんになるんだ…)

 新選組の屯所で暮らすようになって、少しずつ雑用という名の仕事がもらえるようになった頃からこの背中について歩く事が多かった。
 背筋をピンと伸ばして歩く土方の姿は、実は千鶴にとって憧れで。
 しかし、その背中に護られているのだという事が気持ち的に重くもあったのだ。
 迷惑をかけてしまっているという気持ちが強かった。 
 千鶴の中には新選組の内情に巻き込まれてしまったという概念は不思議なくらい生まれず、心に出てくる思いはいつも申し訳ないという思いばかりだった。
 この背中に憧れを抱いている者は多いはずだ。
 だからこそ、すぐ後ろを歩いていても物凄く遠く感じていたのだが。

 くいっ

 と、無意識の内に手を伸ばし気が付けば土方の着物を引っ張ってしまっていた。
 当然土方は何事かとまた立ち止まり振り返る。
 が、千鶴も無意識の内に手を伸ばしていたので振り返られても何も言えず…。

「どうした?」
「え…どう……え、あ…あれ?」
「千鶴?」
「あ…の……え?」
「?」
「…?」

 思わず二人は見詰め合い…。

「ふっ」

 先に吹き出したのは土方だった。

「理由はねぇのか?」
「えぇ…っと」
「うん?」
「その…」
「なんだ?」
「……すみません…私にもよく…分からない、です」

 気が付いて居たら引っ張ってましたと顔を赤らめる千鶴を土方が優しい瞳で見下ろす。
 ……瞳は優しいのだが胸中はある意味穏やかではなかった。

(落ち着け、落ち着け俺。これ以上手ぇ出すには流石にまだ早いだろう。ここは屯所だ廊下だ、副長が士道不覚悟は不味いだろ!)

「土方さん?」
「んぁ?…ああ、否、なんでもねぇよ…なんでも、な…」
「………」
「…いつか」
「はい?」
「いつでもいいからよ、理由が分かった時にでも話してくれ」
「は、はい!」

 行くぞと再び歩き出す土方に、それに続く千鶴。

(ああ、やっぱり悪かねぇな)
(何だろう、すごく幸せ)

 少し前の変化がもたらした、いつもと同じ風景の中でのいつもと違う幸せ。
 ちょっとした事がこんなにも幸せと感じることが出来る。
 そんな幸せを感じているうちに近藤の部屋に着いてしまった。

「近藤さん、近藤さんちょっといいか?」

 部屋の中にいると思われる人を呼ぶが返事は無い。

「近藤さん、開けるぞ?」

 そう告げて土方は襖を引いた。
 中を覗いてみるが、部屋の主はどうやら不在のようだ。

「いらっしゃらないのですか?」
「そうみてぇだな。どこ行ったんだ?」

 開けていた戸をそっと閉めて、

「仕方ねぇ、取り敢えず俺の部屋に戻るか」

 と土方が言い、千鶴がそれに頷いた時。
 広間の方から賑やかな声が聞こえてきた。

「ったく、広間で何やってんだ?」
「永倉さんと…平助君の声?」
「だけじゃなさそうだな…行ってみるか?」
「えと…」
「あいつらにも報告しなきゃなんねぇだろ」
「はい」

 広間に居るのは多分いつもの顔ぶれだ。
 土方にとっては江戸から共にしている大事な仲間だ。
 急な話ではあるが、やはり彼らには祝福してもらいたいと思う。

「ちょっと、どきどきします」
「俺はハラハラしてるぞ」
「ハラハラ…ですか?」
「……何か忘れているような…嫌な感じがする…」
「忘れてる?」
「……ああ」

 そう言って今度は広間に向かい歩き出す。
 近付けば近付いただけ広間から漏れ出す賑やかな声が複数である事に気が付く。
 そんな広間の板戸を開ければ、一気に視線がこちらに向けられた。

「お、トシじゃないか!」
「近藤さん…あんたまで何してんだ?」

 中に入れば酒気が鼻に付く。
 どうやら局長を先頭に酒盛りをしていたようだ…屯所の中で。
 何でこんな事になっているのか把握できない土方は溜め息を吐く。
 広間での珍しい光景に千鶴も何度か瞳を瞬かせた。

「土方さんに…千鶴ちゃんもって事は話が纏まったんですか?」

 お猪口を片手に沖田が聞いてくる。
 隣りには斉藤も静かに座しており、やはり酒を口にしているようだ。
 その向こうには藤堂の姿もあったが、こちらは大分出来上がっている。
 
「で、これは何の騒ぎだ?」
「何ってお前と雪村君…や、千鶴君の祝言の前祝に決まっとるだろうが!」
「は?」
「粗方は近藤さんから話は聞いたけどよ」
「土方さんからちゃんと説明してくれ」

 永倉と原田が見上げてくる。
 
「…ったく。千鶴」
「え…あ、はい」

 土方に名を呼ばれ、千鶴は広間に入ると板戸を占める。
 彼が近藤の前に正座をすればその斜め後ろに同じように座った。

「局長に申し上げる」

 凛とした声が広間に広がり、水面を打ったかのように静まり返った。
 その言葉に近藤も居直りどこか見守る様な眼差しで土方を見る。

「新選組副長土方歳三、雪村千鶴殿と婚姻を結ぶ事をお互いの意志で決めました事を報告いたします」
「トシ」
「つーわけだからよ、近藤さんの暴走のおかげで纏まっちまった」
「そうかそうかっ!トシがようやく身を固めるか!」
「ああ」
「千鶴君!」
「は、はい!」
「トシと二人で決めたのだね?」
「はい…先程……求婚のお言葉を頂き、お返事もさせて頂きました」
「トシを頼む」
「精一杯頑張ります」
「うんうん!目出度い、目出度いなぁ!!」

 本当に嬉しいのだろう。
 感極まった近藤が涙を拭いながら何度も何度も頷いた。
 土方は今度はそのまま後ろに向きを変える。
 もちろん千鶴もそれに倣う。

「俺と千鶴はこの度婚姻を結ぶ事になった。と言っても何かが大きく変わるわけでもねぇからよ、今後とも宜しく頼む」
「宜しくお願い致します」

 二人揃って頭を下げれば、

「土方さんもとうとう所帯持ちか。ま、千鶴なら安心だな」
「くぅぅっ羨まし過ぎるぜ土方さんよぉっ」
「副長、雪村、おめでとうございます」
「千鶴ぅ…幸せになれよぉ」
「ふぅん、良かったね千鶴ちゃん。でもよりによって土方さんなんて、趣味悪いね」

 それぞれが声をかけてきた。

「総司、趣味が悪ぃたぁどういう意味だ?」
「意味なんてないですよ。そのまんま、言葉の通りです」
「てめぇ」
「ほらほらトシ、目出度い席なのだ。兄貴分が取られて総司も少し寂しいのだろう」

 涙は止まった近藤がにこにこしたままそういう。

「別に僕は寂しくなってないですって」
「気色の悪ぃ事言うなよ近藤さん!」
「お前たち二人は本当に仲がいいなぁ!」

 よきかなよきかなと言う近藤に訴える気力を無くした二人は互いに小さく溜め息を吐いた。

「ああ、ならばトシよ」
「うん?」
「明日は休みをやるから千鶴君と二人で別宅を見てくるといい」
「別宅?」

 近藤の言葉に首を傾げたのは千鶴で、

(忘れてたのはこれだ…)

 そうだった、まだ近藤さんの暴走土産が残っていやがったんだと土方は右手で目元を押さえた。

「んだよ、土方さん別宅まで準備したのか?」
「うおおお…本格的な展開だぁ!」
「近藤さんが…買ってきてたんだよ」

 そう言って、土方は溜め息を吐くと千鶴に視線を向けた。
 口元がパクパクしている。
 驚きが隠せないようだ。

(そりゃそうだろうな…俺だって耳を疑ったぜ…) 

「買ったのは買ったんだがね、実はそんなに高くはないんだよ」
 
 手にしていたお猪口の中身をくいっと飲み干すと。
 近藤はゆっくりと語りだした。

 


続く
 

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