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【和花】 なごみばなと読んで頂けると嬉しいです。 乙女ゲーム系二次小説オンリーサイトです。
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想い~の再会編です。
まとめきれなくて今までで最長で…読むのに疲れたらごめんなさい(汗)
しかも土方さんがなかなか出てこない…アレ?
思ってたより甘くないシリアスな感じですので、その後編ではもう少しいちゃついて頂こうかと。
その後編をUPする前に多分不思議な千鶴ちゃん4をUPすると思います。
不思議ちゃん(省略すると意味が違う…)をお待ち頂いている方、もう少しお時間下さい。

黎明録は土方さんルート制覇しました。
なんかもう内容が内容なだけに最後の土千スチルはたまらんです。

『胡坐の上で抱っこ土千』にはやられました…。
しかもほーこちゃんの声付き&土方さんの千鶴呼びに声あり☆
しかもしかも歳三さんって千鶴が呼んだよ~~~☆
(↑ネタバレにつき反転で)

しかーし。
公式でここまでして頂くとデレ方さんはどう書いて良いやら難しくなります…。
まさかカズキさんのイラストでしかも土千でアレが拝めるとは…次は斎藤さんやってきます!
黎明録、美味しいです!!!


小説は右下からどうぞ。


 

 


 仙台を出た後、船上で数日を過ごしながらまだ見えぬ北の大地を思った。
 そして。
 きっと怒られるんだろうな、と微笑む。

「怒られたって…良いもん」

 甲板に出てどこまでも続く海原を見下ろす。
 こうして船に乗るのは大坂から江戸へ戻ったあの日以来だ。
 まだ一年も経っていないのに、もうずっとずうっと昔の事の様だ。

「井上さん、山崎さん…」

 あの時の戦いで亡くなった人達を思う。

「近藤さん、沖田さん、山南さん、斎藤さん、平助君」

 志半ばで倒れていった人達を思う。

「皆さん、土方さんを頼むって仰いましたね」

 背筋を伸ばし、船の縁に手を付いて水面から視線を上げると、海と空の境界線をじっと見つめた。

 新選組の隊士としては志半ばであったかもしれない。
 それでも皆自分の信念に沿って生きていた。

「私も新選組隊士です。土方さんが認めて下さいました」

 だから。

「雪村さん、こちらでしたか」

 不意に後ろから声が掛けられる。
 聞き覚えのある声に千鶴が振り返ると、大鳥の命を受け迎えに来てくれた男性が居た。

「重森さん」
「お天気が良いとはいえ、こんな所にいらしたのでは風邪を引いてしまいますよ」
「すみません。蝦夷地はまだ見えないのかなぁと思って…」
「この時期にしては波も比較的穏やかですし、明日には見えてくるはずです」
「蝦夷地はもう雪が積もっているのですよね?」
「ええ」
「京にいた頃も雪は積もりましたけど」
「比べ物になりませんから、きっと驚かれますよ」
「そうなんだぁ…」

 土方を同じ位か少し年上位の彼、重森は優しく笑った。

「もう直ぐですよ」
「はい」
「到着の日には大鳥陸軍奉行が港に来られるそうです」
「え、本当ですか…?」
「わくわくしていると、私が発つ前に仰ってましたよ」
「……そうですか。私は、ドキドキしています」
「何だか悪戯前のようですね」
「土方さん、きっと驚いて怒って、帰れって言うんでしょうね」

 それが想像できて、何だか可笑しくなる。
 帰れって言われても、自分が帰りたいと思うのは彼の隣りだけだ。

「土方陸軍奉行並にお会いする前に風邪をひいては元も子もないですからね、そろそろ船内へ戻りましょう」
「はい、そうします」

 千鶴はそう答え、もう一度海原の方を振り返る。

(私も私の信じる道を進みます。この気持ちが、この心が私の信念です)

 だから

「見守っていて下さいね、皆さん」

 千鶴の言葉が重森にも届いたが、それが自分ではなく他の大切な人達に向けられたものだと分かったので、千鶴が歩き始めるまでは何も言わずに待った。
 幼さが残る彼女の表情が、ふとした時にものすごく大人びて見える事がある。
 それがとても魅力的で、自分の上司を含め、彼女を知る者達が彼女に引かれていく理由が何となく理解できた。
 
(数回あっただけの私がそう思うのだから、新選組の幹部達はとても彼女を大切にしていたのだろうと容易に想像できるな)

 そんな彼女の迎え役を仰せ付かったのだから気を引き締めなおさなければ。

「お部屋に戻ります」
「何か温かいお飲み物をお持ちしましょうね」
「ありがとうございます」

 笑顔の千鶴を船内に促して、重森もそれに続いた。

 


 それから特に何の問題もなく、予定の港に船が滑り込んだ。
 空は灰色で、先程から雪が舞い始めている。
 吐く息は真っ白で、その息すらも凍り付いてしまいそうなくらい、寒い。
 大鳥に準備してもらっていた洋装の上に、少し厚めの外套を羽織る。
 
「雪村さん、そろそろ船を降ります。足元が滑りますから、気を付けて下さい」

 隣りに立つ重森が声をかけてきた。
 
「はい。…このぶうつという履物は草履と比べて暖かいんですけど安定が…」
「ゆっくりで良いですからね。そうですね…坂になっていますし、手を」

 重森が差し出してくれた手に千鶴はすみませんと言いながらその小さな手を乗せた。

「土方陸軍奉行並でなくて申し訳ありません」
「え…!?…重森さんがおからかいになるとは思いませんでした」
「わたしは大鳥陸軍奉行の側近も兼ねておりますので」
「……大鳥さん?」
「主人に似てくるんでしょうかねぇ」
「ふふっ」

 笑い出した千鶴の手を引き、甲板から陸にかけられた桟橋を降り始める。
 思った以上にそこは滑るのだが、重森がしっかり支えてくれていたのでこける事はなかった。
 地面に足を着けると思わずふぅと息を吐きだしてしまう。
 そして改めて周りをぐるりと見渡した。

「ここが蝦夷地」
「函館の五稜郭まではもう直ぐですよ。おや」

 重森が正面に立つ人物に気が付き、ゆっくりと頭を下げた。
 それを見た千鶴も正面に視線を戻すと、

「雪村君!無事に着いて良かったよ」

 手を振りながら、人好きのする笑顔で千鶴をここに呼んでくれた男が近寄ってきた。

「大鳥さん」
「ようこそ、蝦夷地へ。船旅は大丈夫だったかい?不便な事はなかったかな?」
「はい。重森さんがとても良くして下さいましたので。快適でした」
「そうか。重森君ご苦労だったね」
「労いのお言葉痛み入ります」
「雪村君に手を出したりしなかっただろうね?」
「可愛らしい方だと再確認は致しましたが、理性が勝ちましたので、なんとか」
「そうか、それは良かったよ」
「ちょ…お、大鳥さん?!何を仰っているんですか!重森さんまで…」
「だって、君に何かあったら土方君に殺されちゃうよ」

 あはは、と大鳥は笑いながら千鶴の肩に手を置いた。

「良く来てくれたね」
「あ、この度は便宜を図って頂きありがとうございました。仙台にいる間も気を使って頂いて本当に感謝しています」
「当然の事をしただけだよ」
「いいえ、本当に嬉しかったです。それと…、蝦夷共和国の樹立おめでとうございます」
「ありがとう。色々粗方片付いたからね、やっと君を呼べたんだ。……待ち長かっただろう?」
「はい…でも、医療に携わる事が出来たので、勉強になりました」
「うん。君の事だからきっとそういってくれると思ってたよ。さ、とにかく五稜郭を目指すよ」

 そういって近くに止めてあった馬車に千鶴を案内する。

「うわぁ…お馬さんが牽いてくれるんですか?」
「馬車は初めてかい?」
「はい!」
「そう。馬車で来て良かった」

 瞳をキラキラさせる千鶴を微笑ましく見ながら御者によって開けられた扉の中に大鳥が先に入っていく。
 と直ぐに身体を少し外に出し千鶴に向けて手を差し伸べた。

「レディーファーストで本当は先に乗せてあげたかったんだけど、階段が滑るからね」
「れでい?」
「女性優先、ってとこかな?紳士として常識の事だよ……土方君にはきっと通じないけどね…」

 確かに、と思いながら千鶴は大鳥の手を借り馬車に乗り込んでいく。
 中はとても綺麗な装飾が施されていた。
 座った椅子も柔らかくて気持ちが良い。
 重森も乗り込んできて大鳥の隣に腰をかけると、扉が閉められ、程なくして馬車が動き出した。

「……蝦夷に来てからの土方君なんだけど」

 馬車が動き出した事に感動していた千鶴が落ち着いた頃を見計らって、大鳥が話し始めた。

「彼は少し変わったよ」
「変わった?」
「うん、以前よりもずっと部下達に優しくなったんだけど、…自室に篭る時間がかなり増えている」
「仕事漬けですか?」
「追い立てられている様に仕事をしている事もあるし…物思いに沈み込んでいる事もあるんだ。……そんな時は誰も寄せ付けない。触れれば切れそうな位ピリピリしていて、空気も張り詰めている。外の方がましだってくらい室温が下がって感じる事もあるんだよ」
「土方さんが…」

 大鳥は内ポケットに忍ばせていた書状を取り出し千鶴に渡す。

「土方君には、やっぱり君が必要なんだよ」
「そうであると、嬉しいです」
「…雪村君も、少し変わったね」
「え…?」
「うん、すごく良い感じだよ!あ、でね、これは僕からの辞令書。土方君に渡すと良い」
「ありがとうございます」

 書状を受け取り、千鶴は深々と頭を下げた。

「本当によろしく頼むよ。彼の自室に行くたびあの整った顔で睨まれると怖いんだよね~。鬼がいるって感じ」
「鬼副長と呼ばれてた方ですから」
「本当だよ。京の頃より凄みをましてると思うよ~。彼が仕事を次々を回してくるからさ、僕もそれに比例して忙しくなっちゃうのは避けたいんだ」
「そちらが本音ですか?」
「土方君には内緒だよ」
「はい」

 千鶴の笑顔に釣られて笑っていた大鳥だが、一呼吸おいて真剣な眼差しになりじっと彼女の瞳を見つめる。

「ねぇ、雪村君」
「はい」
「土方君を、宜しくね」

 先程言った宜しくと、今の宜しくは込められている気持ちが違う。
 それを汲み取った千鶴が、もう一度笑顔で頷いた。


 ――数刻後

 3人を乗せた馬車が五稜郭中に入り箱館奉行所の前で止まる。
 少し前まで椅子の上に横になって眠ってしまっていた千鶴も、身体を起こしゆっくりと外に出た。

「ここに…土方さんが…」

 蝦夷共和国の中心となっている五稜郭内にある箱館奉行所を見上げる。

「雪塗れ…」
「あはは、確かにね。荷物は君に用意した部屋に運ばせるから、そのままおいで」
「え、でも」
「お預かりしますよ、雪村さん」
「あ…はい、ありがとうございます」

 重森にぺこりと頭を下げて千鶴は大鳥に付いていく。
 玄関を潜り中に入ると思わずきょろきょろとしてしまう。

「どう?良い感じでしょう?」
「はい…あ、ぶうつは?」
「良いんだよ。西洋では家の中でもそのまま土足で良いんだ。ここもそうしてる」
「はぁ…そうなんですね…」
「寝台に上がる時…眠る時は脱ぐけどね」
「はい」

 大鳥に案内されるまま付いて行き、突き当たった場所で止まる。

「さてと、ここから向こうが彼の執務室や寝室がある場所だよ」

 流石にここまで来ると、少し不安になってくる。
 こくりと生唾を飲み込んでしまった。

「このまま進んで突き当りを右、そしたら後は真っ直ぐ。正面にあるドア…扉が彼の執務室」
「…はい」
「その奥にもいくつか扉があるんだけど、それはまた後で」

 さぁ行っておいでよ、と大鳥に言われ千鶴が正面を見据えたその時。

「はぁ…」

 深い溜め息と共に少年といえる年頃の男子が一人角を曲がってこちらへ向かってきた。
 
「おや?」
「あ、大鳥陸軍奉行」
「市村君じゃないか」
「お帰りなさいませ。御用事は済んだんですか?」
「ああ。…で、どうしたの?大きな溜め息だね」
「土方局長が…ものすごく機嫌が悪くて…」

 言って市村はもう一度溜め息を吐いた。

「今日は広間で祝賀会だって言ったのに、参加していないんだね……やっぱり」
「今は浮かれている場合じゃないんだと、そう仰って…。お食事も昨日のお昼頃から殆ど、というか全然摂られてないんです。せめてお茶だけでもと思ったんですが、いらん下げろ、で追い出されました…」
「また、土方君は…ね?困ったものだろう?」

 後半は千鶴に向かい大鳥が告げた。

「こんな調子なんだ」
「土方さん…」

 千鶴は心配そうな、でもどこか怒っている様な表情で溜め息を吐いた。

「あの、そちらは?」

 市村が千鶴に視線を向ける。

「ああ、今日から土方君の小姓に復帰する雪村君。市村君、君の先輩だよ」
「雪村です」
「雪村君、馬車の中で話していた市村君。君がいない間小姓をしていたのが彼。これからも君と一緒についてもらうから二人とも仲良くね」
「あの、い、市村です。市村鉄之助といいます。…失礼ですが、女性ですよね?」
「…男装の意味、ないですね……」
「雪村君はもう素敵な女性なんだから、性別を偽るのは無理だと思うよ?その軍服だって動き易さを重視しただけで別に男装は意識してないし」
「……雪村千鶴といいます。市村さん宜しくお願い致しますね」

 諦めたのか千鶴はきちんと名を名乗り頭を下げた。

「さんだなんて、鉄とか、鉄之助でいいですよ!俺の方が年下でしょうし敬語も必要ないです!」
「じゃあ、鉄君?」

 微笑んで首を傾げ市村を呼ぶと、彼は顔を真っ赤にして頷いた。

「は、はい!」
「じゃあ私の事も千鶴で良いよ?」
「年上の女性を呼び捨てなんて出来ませんので、あの…千鶴さんで」
「うん」
「ははっ、何だか微笑ましい姉弟みたいだね。あ、そうだ」

 面白い事を思いついた子供のような笑顔で、

「土方君の所に行くのちょっと待った」

 と、千鶴の肩を後ろから押し進む方向を変える。

「予定変更。良いこと思いついたんだ~。市村君もちょっとおいで」
「どうされたんですか?良い事って」
「まぁまぁ」

 彼に連れて行かれたのは、どうやら食堂の隣にある厨、つまり厨房のようだ。
 中には数名人がいる。
 突然入ってきた高官、大鳥陸軍奉行にその場にいた全員が頭を下げた。
 が、約一名頭を下げたはいいが顔は正面を向けたまま固まっている。

「ゆ…雪村君?」

 その人物が、驚きを隠せない声で呼びかけてきた。

「あ!」
「雪村君ですね」
「島田さん!!」

 知った懐かしい顔に思わず駆け寄る千鶴に、島田は優しい満面の笑顔を向けてきた。

「蝦夷地に来たんですね」
「はい。島田さんもお元気そうで何よりです」
「局長には?」
「…まだ」
「局長は随分と無理をなさっています。我々が何を言っても大丈夫、心配いらねぇ、ほっとけ、喧しい、出て行け、と聞き入れていただけないんです」
「土方さん…子供ですか…」
「本当に。ですから雪村君、土方局長をお願いします」
「言う事聞いて下さると良いんですが」
「貴女なら大丈夫ですよ、というより、彼は貴女でないと駄目なんです」
「それは、私も同じなんです…土方さんじゃなきゃ駄目なんです」
「そうですか」
「はい」
「はいはい、二人とも良いかな、そろそろ」

 大鳥が長くなりそうな二人の会話を中断させる。

「申し訳ありません、つい」
「話しはこれからいつでも出来るから。それよりも雪村君」
「はい」
「土方君にお茶を淹れてくれるかい?」
「お茶ですか?」
「そう。彼好みのお茶」
「分かりました」
「それを市村君、もう一度土方君の所に持って行ってね」
「…物凄く、怖いんですが…」
「僕の命令で仕方ないんだって言うと良い」
「はぁ」
「はい行動開始!」

 厨にいた者達も一体何が始まるんだと、千鶴達を見ていた。
 しかもあの女性は誰だ?
 土方といえば新選組の局長で、この共和国の陸軍奉行並だ。
 この五稜郭の厨には女中もいて、そんな彼女達にもだんとつで人気がある土方だが、とても近寄りがたいのだ。
 部下には優しいが、それ以外はとても怖い。
 市村から聞く話が、彼の印象をそうさせていた。

「千鶴さん、そんなに熱くて火傷しませんか?」

 お茶の準備をしていた千鶴に市村が問う。

「…もしかして鉄君、少し冷めたのをお出ししていた?」
「はい。熱湯は使ってません」
「土方さんは、熱いお茶がお好きなの。かんかんに沸かしたお湯で淹れて良いのよ」
「そ、そうなんですか?」
「お茶の葉を入れる前に急須とお湯飲みも熱湯で温めておいてね」

 手際よく進める千鶴に尊敬の眼差しを向ける市村。

「あの、以前大鳥陸軍奉行から沢庵を預かったんですけど…千鶴さんですか?」
「うん。よかった出してくれたの?」
「とても嬉しそうに召し上がっていた様に感じました。…直ぐ追い出されましたけど…」
「良かった」
「千鶴さんってすごいです」
「そんな事ないよ。あ、お湯沸いたかな?」

 千鶴が手順を説明しながらお茶を淹れ、

「はい、これを冷めないうちに運んでね」

 とお盆ごと市村に渡した。

「行ってきます!」
「くれぐれも雪村君の名前は出さないように」
「はい!」

 市村が出て行った後、

「さて、どんな反応か楽しみだね~」

 大鳥が楽しそうに笑った。

 

 その頃、市村が土方の部屋の前に立ち深呼吸をした後、戸を叩く。

「市村です、失礼致します!」

 土方の許可を貰う前に、扉を開く。

「呼んでねぇ」

 返って来たのはとても低い声だった。
 だが怯んでなどいられない。

「お茶を飲んで下さい」
「いらねぇっつっただろうが、下げろ邪魔だ!」
「いいえ、飲んで下さい、一口で良いですから!」
「いらねぇって」
「大鳥陸軍奉行の命令なんです!必ず飲ませるようにと!」
「はぁ?何考えてんだあの人は」
「冷える前に飲んで下さい」
「……んだって?」
「お願いします!」

 勢いよく頭を下げる市村に、

「薬が入ってんじゃねぇだろうな?」

 怪訝そうに土方が言う。

「そんな事ありません、っていうかしません!」
「一口だな」
「はい」
「ったく仕方ねぇな」

 土方は目の前に置かれた湯飲みに手を伸ばす。

「?」

 触れたとたんに表情が変わった。

「おい、鉄之助」
「はい」
「これ、お前が淹れたんじゃねぇな」
「……飲んで下さい」

 土方はまさかと思いつつ湯飲みに口を付ける。

「……美味い…何でこれが出て来るんだ?」

 お茶の熱さ渋み。
 正に土方の好みのお茶だ。
 蝦夷地に来てからは一度も飲むことがなかった、それは。

「これを淹れたやつはどこにいる」
「厨です」
「そいつは」
「ご自分で確かめられた方がよいと思います。沢庵の時も、そして今日のお茶も心に留まったのならば、ご自分で」

 市村の言葉に土方は立ち上がり、そのまま部屋を出て行った。
 慌てて市村も後を追う。
 あんな土方は初めてみた。

「すごいな…湯飲みに触っただけで気付いていたよな局長」

 千鶴さんって本当に凄いんだと益々尊敬しながら足早に厨へ向かった。

 

 土方が部屋を飛び出した頃。
 千鶴は大鳥に許可を貰い厨の中の食材を確認していた。

「まともに食べていないのなら、取り敢えずお茶漬けでも良いかな?えっと、鰹節に縮緬雑魚…あ、梅干もある」

 何を作るか頭の中で考えながらぶつぶつ言っていると、走って来た足音が厨の前で止まった。
 土方が厨に入るのと、千鶴が身体ごと振り返るのはほぼ同時だった。

「……何してやがる」
「…お夜食でもと思いまして」 
「何でお前がここにいるんだ千鶴!」

 千鶴は懐から大鳥に貰った辞令書を出し、土方に渡した。

「本日付で土方陸軍奉行並付き小姓となりました。そちらが大鳥陸軍奉行から頂いた辞令書です」
「んな話し聞いてねぇ!」
「私は仙台の山の中に置き去りにされた時から聞いておりました」
「こんなのは認めねぇ」

 持って帰れと、辞令書を千鶴に押し付ける。
 すると素直に千鶴はそれを受け取った。
 その様子に周りで見守っている大鳥や島田がおや?と思った次の瞬間。
 その辞令書は千鶴の手の中で音を立てて引き裂かれた。

「なっ!?」

 土方や島田達、追い付いた市村もぎょっとしたように目を見開いた。
 大鳥の、共和国の高官からの辞令書を破り捨てた。
 しかも本人の目の前で。
 だが当の本人は驚いた様に見ているもののそれは不快そうではなく、むしろ嬉々としていた。
 
「辞令書に、大鳥さんの優しさに頼った私が間違いでした。私は誰かに命令されたからここに来たんじゃありません。私は私の心に従ってここに、戻って来ました」
「千鶴」
「お傍において下さい。私は土方さんのお傍じゃなきゃ生きていく事も女として幸せを感じる事も出来ないんです」
「駄目だ帰れ!」
「帰る場所なんてありません!生まれた故郷も本当の両親も既になく、育ててくれた鋼道父様もいません、江戸の自宅も処分して頂くように松本先生にお願いしました」
「何考えてんだっ?」
「他の全てを失っても構わない、私にとって、土方さんのお傍が帰る場所なんです」
「………」
「それでもいらないと、邪魔だと仰るのでしたら…殺して下さい」
「何…言ってんだ」
「私が土方さんにいらないと言われるのはそういう事なんです」
「千鶴」
「私は、土方さんのお傍で生きていたいんです」
「…部下を…」
「え?」
「部下を死地に送り込む司令官が…自分だけ女を傍に置くなんざ出来ねぇだろうが…」

 バツが悪そうに土方はそういった。

「だから私を遠ざけたんですか?」

 土方が視線を合わせようとしない。

「お前を死地に連れてきたくなかったのも、女として幸せになって欲しいと願った事も嘘じゃねぇよ」
「…いい加減にして下さい!」

 千鶴が思わず怒鳴る。
 流石の土方もこれには驚く。

「土方さんはいつもそうです!自分はそれで良いかもしれませんけど、取り残された私の気持ちはどうなるんですか!」

 土方に突然拒絶された時、どんなに苦しかったか。

「私の事幸せに出来ないとか、土方さんだけの気持ちで決め付けて…私の気持ちを無視ばかりして!」

 呼んでも振り返ってもらえなくて、どんなに悲しかったか。

「一人で苦労を全部背負い込んで、自分だけ苦しい思いをして…」

 独りぼっちになった時、どんなに寂しかったか。  

「…それが俺の役割なんだよ。俺が苦労して解決する問題ならそれで良いじゃねぇかっ!」
「傍で見ている方の気持ちも考えて下さい!土方さんが一人で何でも解決しようとする姿を見て、苦しむ人もいるんです」
「っ!」
「……近藤さんに言われたのでしょう?一人で何もかも背負い込む土方さんを見るのが辛いって」
「………」
「それでも近藤さんは『トシを頼む』と最後まで貴方の事を気にかけていました。『副長を頼む』と山崎さんも息を引き取るまでずっと土方さんの事を組の事を気にかけてました。『トシさんを頼んだよ』って井上さんも、『自分では気が付いてないんだけど無理する人だから気をつけてあげてね』って沖田さんも」
「千鶴…」
「貴方の傍にいたいというのは私自身の気持ちです。でも私は貴方をずっと見てきた人達に貴方を頼むと、託されました」

 いつの間にか溢れ出ていた涙をぐいっと掌で拭う。
 泣きたくなんかない。
 涙なんか見せたくない。

「傍において下さい。幸せに出来ないと仰るのならそれで良いです」

 でも、それでも。

「どうしても駄目だというのなら…殺して欲しいというのはやめます。その代わりこの命を貴方を護る為に使わせて下さい」
「何言って」
「私を……風間さんに引き渡して下さい」
「なっっ!?」
「貴方との勝負を諦めてもらう事と引き換えに、私が彼の元へ行きます」
「んな事できるわけ」
「風間さんが望むように、土方さんが自分以外のと望むように…彼の子を産みます」
「風間との決着は俺が付ける、だから」
「土方さんがそうしろと仰ったんですよ!自分以外の奴とって。だったら私が風間さんの子供を産んだって、それは土方さんの願いになるんでしょう?」
「何でそうなるんだよ!」
「風間さんの子供を産む事を条件に、貴方の命を狙う事をやめてもらう。そうすれば、貴方は目の前の戦いだけに集中できる」
「そんな事されたって嬉しかねぇんだよっ」
「他の男と幸せになれって言ったのに、何故風間さんは駄目なんです?」
「好きでもねえ奴の子供を産んで幸せになれん……の…か…」
「私は土方さんが好きです。だから誰に嫁いだって、同じ事なんです」

 千鶴の想いに、土方は言葉を失った。

「……償いを…したいんです。私は闘いじゃ役に立てません。だからせめて貴方を護らせて下さい」
「償い…?」
「そもそも…私の存在が新選組に要らぬ災いを持ち込んだんです。私ががいなければ父様もあんな研究しなかった。私を護る為に井上さんは風間さんに殺されました。土方さんが…あの薬を飲んでいなければ山崎さんだって風間さんに殺される事はなかった…」
「お前そんな事を」
「山南さんも平助君も…父様の野望を止める代わりに、命を使い果たしてしまった…だからせめて、こんな私に託してくださった皆さんの思いを…引き継ぎたかったんです」

 千鶴の気持ちを考えた事があるかと問われれば、はっきりと答える事ができない。
 自分自身の事が精一杯で、蔑ろにしてきた自覚もある。

「…千鶴」
「土方さんに要らないと言われれば…償う事もできず思いを継ぐ事も出来ません」
「お前がそこまで苦しんでいた事に、俺は…気が付いてやれなかった」
「土方…さんっ?」

 突然千鶴は強い力に引き寄せられた。
 抱きしめられたのだと気が付いた時には、涙が更に溢れ出して来た。

「償いとか、望んじゃいねえし、誰もそんな風に思っちゃいない」
「でも…っ」
「お前と離れて、俺がどれだけお前に依存していたのか思い知らされた」
「土方さん…?」
「お前の淹れる茶がうまいとか、沢庵が美味いとか、身の回りの物が片付かなくていつもどうしてたっけって思えばお前に任せてたんだって思い出したり」

 抱きしめる腕に力が篭る。

「いつも当然のようにお前が傍にいてくれたんだと気が付いたら、妙に隣りがすーすーすんだよ。寂しいと、思った」
「寂しかった…ですか?」
「…ああ。それに他の男だと今一想像が付かなかったんだがよ、お前が風間の子を産むって言った時すげぇ腹が立った」
「本当に…?」
「嘘吐いてどうする」
「だって…」
「…俺なんかで本当に良いのか?」
「土方さんが良いんです…なんかだなんて言わないで下さい」

 千鶴の腕が土方の背中に回り、きゅっとしがみ付いてきた。
 その動作が素直に可愛いと、愛おしいと思う。

「千鶴」

 土方は千鶴の旋毛に口付ける。

「俺は結構ガキだし、独占欲も強い」
「…はい」
「この先どれほど生きられるか分からない」
「……はい」
「それでもお前を幸せにしたいと願っても良いか?」
「嬉しい、です…」
「………千鶴…傍に、いてくれ。お前の傍にいさせてくれ」
「土方さん…土方さん…」
「千鶴…逢いたかった」
「私も逢いたかったです」
「もう放してやんねぇからな、覚悟しとけよ」
「土方さんこそ、覚悟なさってて下さいね」
「ったく…本当、敵わねぇよ」

 二人の距離が一気に詰められた。
 そんな瞬間に立ち会ってしまった…忘れられた彼ら。

(どうしようかなぁ…今外に出て行くのもなんだかなぁ)
(局長そして雪村君、二人の幸せを俺も願います)
(良かったですね千鶴さん)

 そう思っていた矢先、二人が動きを見せる。

「千鶴」
「はい?」
「悪ぃ、腹減った」

 千鶴を抱きしめる力を抜いて、腕の中にいる彼女を見下ろしながらそう言った。

「ふふっ。分かりました、取り敢えずお茶漬けをお作りしますね」
「美味いの頼む」
「はい」
「千鶴、ありがとうな」
「土方さん!」

 べったりとくっ付いた二人に、声をかけるのさえも憚れる。
 そんな彼らに二人が気が付くまで、静かにしていようとも思う。
 
(良いなぁ、羨ましいなぁ土方君)
(今のお二人の姿を近藤局長方がご覧になったらどれほど喜ばれるか)
(相思相愛の二人を俺毎日同じ部屋で見ることになるのか…)

 それぞれの思いが交差する厨。
 彼らの幸せを願いつつも、頼むからここから退避させてくれと思う平隊士達が数名いたことも事実である。
 

 

 

再会編:終わり

 

 

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