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開設当初は勢いだけで書き始めたので、正直続けていけるのどうかとても自信がなかったのですが。
サイトに足を運んで下さる皆様のおかげで無事に一周年を迎える事が出来ました。
これからもまだまだ薄桜鬼に萌を愛を捧げていきたいと思ってますので、何卒宜しくお付き合いくださいますようお願い申し上げます。
ちょっと遅れてしまった小説『浅葱と赤と紫色』です。
フリーにしておりましたが、今は終了させて頂きました。
ですが、もし欲しいんだけどなぁとご連絡を頂けたらお持ち帰りして頂いてもOKということで。
(終了という意味があるのかどうか…ですが)
二次配布や無断転写はお断りさせて頂きますがご連絡を頂ける場合はお好きにして下さって構いません。
その際には出来ればうちのサイトの名前だけでも一緒に書いて頂けると嬉しいです。
それでは、短めではあるんですが感謝の気持ちを込めました。
右下からどうぞ!
「赤だな」
「え?」
「ぜってーお前には赤が似合う」
「は…はぁ」
自分の膝の上に頭を乗せた男の手に頬を撫でられながら千鶴は困惑する。
男の頬はほんのり赤い。
「聞いてんのか千鶴」
「聞いてます…けど。土方さん随分酔っていらっしゃいます。ですからお酒はお控え下さいと…」
「酔ってねぇ」
「嘘です…酔っていらっしゃいます。酔っ払いは皆さんそう仰るものなのだそうですよ」
「酔ってねぇっつってんだろ」
千鶴の膝に頭を乗せているのは蝦夷共和国陸軍奉行並の土方歳三で、彼からは確かに酒気が漂う。
目の前の長机の上には空になった硝子の盃が置かれている。
というより、千鶴の目の前で土方は珍しく酒を煽ったのだから呑んだのは間違いないのだが。
「いいか千鶴」
「はい…」
「お前ぇには赤が似合う。赤だ、赤。赤がいい」
「…頂いた洋装の軍服も赤ですが…」
「駄目だ」
「え??」
「そりゃ俺が贈った物じゃねぇ」
「えっと…」
「今は無理だが、戦が終わったらそうだな…着物を贈る」
「そんな、私は」
「遠慮すんな断んな。赤は俺の一等好きな色なんだよ。だから絶対お前に似合う」
「土方さん」
普段だったら口にする事など無い様な言葉を言われて恥しさよりも嬉しさが増してゆく。
「そういや…あの時の着物も赤だったな…」
「え?」
酒が回ったのか、段々と土方の声が小さくなっていく。
瞼が今にも閉じそうだ。
「あの時…本当に駆け落ちしてたら……今頃…どうなっ…て…」
「あ…」
「あの姿……すげぇ綺麗だった…ぞ」
「土…方さん?」
千鶴に触れていた手がするりと落ち、土方が完全に眠ってしまったことを知った千鶴はその顔にかかる髪をそっと払いのける。
「もう…言いたい事言うだけ言って眠ってしまわれるんですから…」
ずるいですよ、千鶴が囁くように言った時。
「こほんっ」
と、わざとらしい咳払いが聞こえてくる。
その音で千鶴はガバリと、凄い勢いで顔を上げて…固まった。
「ごめんね?もう声をかけてもいいかな…って思って」
千鶴が腰をかけ、土方が横たわるその長椅子の向こうには良く見知った顔がある。
そうだった。
ここは蝦夷共和国の総裁である榎本の執務室だったと思い出す。
「土方君は下戸なのか」
そう言ったのはこの部屋の主の榎本で、
「そういえば土方君がお酒を呑んでる所あまり見たことなかったなぁ」
楽しそうに続けたのは先程咳払いをした大鳥だ。
固まっていた千鶴の頬が一気に赤くなる。
「あっあああのっ」
「今まで何度誘っても断られていた理由が良く分かったよ」
「土方君も惚れた女の前では気を抜くか」
「ふっふぇぇえ!?あ、あああのっす…すみません~」
赤くなった頬を両手で挟み千鶴はひたすら謝る。
すっかり忘れてしまっていた。
二人きりではなかったことを。
今日は良い酒が手に入ったのだという榎本に誘われて土方と千鶴は大鳥と共にこの部屋に来ていた。
普段は口にしないお酒を、土方が珍しく呑んだのだ。
本人曰く、呑めないのではなく呑まないらしいのだが。
誰がどう見ても下戸なのだと分かる。
「土方君って昔からこうなの?」
「はい…。あまりお強い方ではないらしく…ご自分からは殆ど飲まれないのですけど…」
「へぇ~」
「でも酔っている時に言った事は全て覚えているそうなので…その…」
「明日が楽しみという事だね」
楽しげに言う大鳥に、違いますと千鶴が首を横に振る。
「でもそっか。赤は土方君の好みの色だったんだね。君の軍服、赤で仕立てて良かったよ」
「ありがとう…ございます」
「で、駆け落ちって何?あの時って??」
「えと…その………京にいた頃島原の潜入捜査という任務を頂いて」
「雪村君が花街に?」
「はい。芸妓さんの姿をして入り込んだ事が…あったんです」
「ほぅ君が。それは是非とも俺達も見てみたかったな」
「そっそんな私なんて…」
榎本までもが楽しそうにそう言ってきた。
「それで、駆け落ちって何?」
「そっそれは。勘違いされただけで深い意味なんて無いんです。島原で長州の人達が新選組の屯所を襲う相談をしていた事が分かって。それで一度土方さんと屯所に戻る事になったんですけど…」
「芸妓姿の君を連れて行こうとして勘違いされたってとこかな?」
「はい」
「京にいた頃から君達はお似合いだったんだねぇ」
「お、大鳥さんっ」
「土方君、君に甘えてそうしていると威厳も何も無いね」
「兵士達には見せられんな」
楽しそうに笑う榎本と大鳥に千鶴はもう言葉も出ない。
「だけど、本当に君がこの地に来てくれてよかったよ。土方君が生きる為に戦おうとしている。それがね僕は嬉しいんだ」
「君がこちらに来る前の土方君は死に場所を求めているような感じだったからな」
二人の言葉に千鶴は自分の膝の上で眠る土方を見下ろした。
「私がこの方の命の重石になるのなら、こんなに嬉しい事は無いです。私は…新選組の皆さんから土方さんを頼むと何度も何度も託されました。私には戦う力はありません。でもこうして休む場所を提供することくらいは出来ます」
「土方君は君といると本当に穏やかな顔をするようになった」
「本当ですか?」
「ああ。君にしか出来ない事だ、誇りに思って欲しい」
「はいっ」
強く頷く千鶴に、榎本達も笑顔で頷いた。
「でも、そっかそっか。記憶が残る方なんだ、土方君は」
「大鳥さん?」
これって暫くからかえそうだねと言った大鳥が沖田と重なったのは仕方がないと思いたい。
「止めとけ大鳥君」
「榎本さん?」
「十倍返しで返ってくるように思うぞ」
「私もそう…思います…はい」
「ええ~。勿体無いなぁ」
くすくすと笑い続ける大鳥に千鶴もつられて笑顔になる。
「赤い着物を着た雪村君、僕達にもいつか拝ませてね?」
「…いつか…機会があれば…」
「その為にはこの戦、勝たなくちゃ」
「平和に暮らせる日を早く迎えられる様に」
それぞれが意志を固め千鶴の前でお互いの盃をコンとぶつけ合った。
土方がここまで酔えるのは土方の事を思ってくれるこの二人がいるからだと千鶴は思う。
新選組の時とは違うけれど、それでも彼の傍には彼を大切に思ってくれる仲間がいる。
「土方さんは決して一人ではないのですから。もっとこんな風に力を抜いて欲しいです…」
千鶴の囁きに、眠った土方の口角が笑むように上がったのだが。
それに気付いた者はいなかった。
新選組の覚悟の色は浅葱色。
土方の好きな色は赤で、その色は千鶴に似合うと彼が言った。
そんな二色を合わせると土方の瞳の色になるのだと気付いた千鶴は何だか嬉しくて。
眠る土方へ極上の笑顔を向けたのだった。
終わり